5881/6L6シングルパワーアンプ

 

 

 

 

 

ベッドサイドのオーディオセットを入れ替えたため、寝室用システムとして使用してきた5881/6L6シングルアンプを引退させることにしました。このアンプは18年前に作ったのですが、そのころはテスター程度しか測定器をもっておらず、作りっぱなしのまま使用してきました。そこで、解体する前にどのような特性なのか計測してみることにしました。

 

 

1 5881/6L6シングルアンプの外観

 

 

アンプの構成

 

 初段管に五極管接続した6SJ7を使って必要なゲインをかせぎ、ビーム管接続した5881CR結合で励振するシンプルな回路です。整流管は5AR4を使っています。出力トランスはISOタンゴのU-808を使い、ハイライトコア特有の明るいサウンドを目指しました。電源トランスはノグチトランスのPMC-170M、チョークコイルもノグチトランスのPMC-103010H 300mA)です。このあたりで部品調達の資金が底を尽き、シャーシは1mm厚のアルミ板でできた安物になってしまいました。

 

 このアンプの回路図を図2に示します。シンプルな構成なのに無駄な部品が多く、出力管の動作基点や初段管のスクリーン電圧も適切とは言えません。はっきり言って、赤面したくなるような回路です。ハイライトコア特有の明るい音色にするため、出力管のプレートから初段管のカソードにPK帰還をかけてU-808を帰還ループから外しています。しかし、ハイライトコアの音色を楽しむのであれば、内部抵抗の低い三極管を採用して無帰還にすべきでしょう。ビーム管接続で使用するならば、ダンピングファクタを2.5程度にするために出力トランスを帰還ループの中に入れるべきです。卓上型小型スピーカーのコーラルBX-24をベッドサイドでささやかに鳴らしていたので、スピーカーからの逆起電力はあまり発生しなかったようです。

 

 


2 5881シングルアンプ(Rev.00)の回路図

 

 

特性の計測結果

 

ダンピングファクタ(1kHz1W8Ωと16Ωのオン・オフ法)

  右:0.6      左:0.6

 

残留雑音(ボリュームを絞り切った状態、計測器のフィルタOFF

右:1.4 [mVrms]  左:1.4 [mVrms]

 

入出力特性(8Ω抵抗負荷)

   

・左右とも同じ特性

・出力4.2Wでクリップ発生

 

 

周波数特性(8Ω抵抗負荷、出力電圧2.83[Vrms]0[dB]

・左右とも同じ特性

 

 

歪率

   

・左右とも同じ特性

 

 

ダンピングファクタ0.6、ビーム管接続なのに出力4.2[W]、出力1[W]の時の歪率が4.4[%]という結果になりました。あまりにも情けない特性です。これでは5881に申し訳ないので、いったん解体して設計からやり直し、再度特性を計測することにしました。

 

 

設計のやり直し

 

 6SJ7の回路定数は抵抗容量結合増幅器動作例を、5881/6L6WGCの回路定数は真空管規格表の動作例を用いました。これらは、真空管アンプ設計自由自在 長真弓著(誠文堂新光社 ISBN4-416-19025-5)の付録に掲載されています。再設計した回路を図3に示します。

 

 

3 5881シングルアンプ(Rev.01)の回路図

 

 

特性の計測結果

ダンピングファクタ(1kHz1W8Ωと16Ωのオン・オフ法)

  右:2.8      左:2.5

 

残留雑音(ボリュームを絞り切った状態、計測器のフィルタOFF

右:1.4 [mVrms]  左:1.4 [mVrms]

 

入出力特性(8Ω抵抗負荷)

   

・左右とも同じ特性

・出力6.8Wでクリップ発生

 

 

周波数特性(8Ω抵抗負荷、出力電圧2.83[Vrms]0[dB]

・左右とも同じ特性

 

 

歪率

   

・左右とも同じ特性

 

 

ダンピングファクタが0.6から2.5に、出力が4.2[W]から6.8[W]に、出力1[W]の時の歪率が4.4[%]から1.9[%]へと大幅に改善されました。歪率が少し高めですが、雑誌に掲載されている5881のビーム管接続アンプの製作例でもこの程度の値です。

 

まず、サンスイのSP-150を改造したスピーカーシステムでヘンデルのメサイヤを聴いてみました。300Bシングルアンプ(出力トランスはパーマロイコアのタムラF7002を使用)よりキラキラした明るい音色という印象です。メジャーループ帰還をかけても、出力トランスの個性ははっきり表れるようです。このキラキラ感がジャズやポップスではプラスに働き、アンプ自身が音楽を楽しんでいるように思えます。

 

 

さて、ここから先は真空管アンプ特有の楽しみ方、演奏する曲のイメージに合わせて真空管の乗せ替えをして遊びましょう。

 

クラシックでは、出力管をHeinz&KaufmanGammatron-6L6GA、初段管をSylvania6SJ7WGT、整流管を東芝の5AR4という布陣にしてみました。出力管が丸みを帯びたG管なので、外観が穏やかな印象のアンプになりました。出力が6[W]なので、大編成のオーケストラよりは室内楽や合唱曲を演奏するのに向いています。不得意と思われたピアノも、モーツワルトのピアノ協奏曲第20番ではとてもクリアに再現できました。特に合唱では、The Real groupの「馴染み深い豊かな緑」や波多野睦美の「サリー・ガーデン」を涙が出てくるような美しさで表現しました。

 

 

 

 

ジャズ・ポップス・ロックでは、出力管をMesa/Boogie6L6GC(STR430)、初段管をRCAJAN CRC-6SJ7(VT116)、整流管をMarshallVLVE-00002(GZ34相当管)というヘビメタな布陣にしてみました。カッコいい「MESA」のロゴがついた6L6GC5881よりひとまわり大きく、パワフルな外観のアンプになりました。Orianthiaccording to you では、気持ちよく歪むギターをクリアに表現しました。こちらの構成でも合唱がとてもよく表現できていたので、山下達郎、石川さゆり、美空ひばり、中島みゆきと聴いてみました。ボーカルがステージの前方に出てきて、優しく、温かく、ゆったり歌うアンプに仕上がりました。