love00 焼肉(1)
「いらっしゃいませ…って、えッ!?」
店の入り口でオキャクサマを迎えた早々、僕が感嘆の声をあげてしまったのには勿論理由があった。
普段だったら、当然こんな反応を取るはずがない。
それは、客自身に問題があったからだ。
「稜!?それに、黒神さんまで!」
僕がバイトする焼き肉屋に、この二人が揃ってくるのは初めてだった。
まったく、どういう風の吹き回しなんだか。
「ちわー。兄者をドッキリさせ隊でーっす」
僕の反応にさぞや満足しているらしい稜が、片手を挙手する形であげて、僕の前までやってきた。
「そんなに睨むんじゃねえよ。俺は、こいつに無理やり連れて来られただけだ」
対して、僕の表情がいまいち気に入らないらしい黒神さん。
「……」
そして、店員がオキャクサマにしてはいけないだろう表情を見事にかましてしまっている僕。
バイト先にはきてほしくないって、あれだけ言ってあったのに…。
だって、この二人がきて、なにも起こらないはずがない。
絶対に何かやらかす。そう僕は、勝手にふんでいた。
「ンなに怒んなって。ま、それも愛情の裏返しと、俺は受け取るけどなv」
…バカって安易だ。安易過ぎる。
「おい、いつまでも客を立たせてんじゃねえよ」
僕にとって、最高に嫌な笑みを浮かべた黒神さんが、すぐ近くにまで寄ってくる。
そして、いかにも慣れたような手つきで僕の腰の辺りを緩くさすった。
「…オキャクサマ、セクハラです」
「もっといろんな事しただろうが」
「妄想じゃないですか」
「…相変わらず、可愛くねえな」
そんな僕らのやりとりにヤキモチをやいたらしい稜が、慌てて割って入ってくる。
「兄者、今の浮気だ」
「どこがっ」
ツッコミを入れつつ稜の表情を伺うと、唇を尖らせてツーンとふてくされていた。
小学生じゃないんだから、…そんな顔するなってば。
「劉。お前も、少しは稜を見習ったらどうよ」
そんな僕らを見ながら、ニヤニヤと笑っていた黒神さんが稜の肩に手を乗せる。
・・この人がやると、普通の動作でもいちいちエロいのはなんでだ。
「…何をですか」
訳がわからず、不機嫌なまま、つっけんどんに聞き返す。
そして、黒神さんは少しためて、こう一言で答えた。
「素直さ」
―――黒神さんの答えに無言の怒りをもって、僕は二人を嫌々座敷席に案内するのだった。
***
今更かよコノヤローな感じですが、act2のオマケ話です。
けっきょく黒神は、双子と仲良くしてるみたいですね。
これは、その後の模様。
のんたりのんたり更新できたらいいなー。