love00 焼肉(3)
「っちょ・・、黒神さん!何やってるんですか!」
意識が朦朧とする中で、愛しのマイラバー・兄者の声が聞こえた気がした。
それと同時に、俺の口内からあきらさんの舌が抜かれる。
「あ、兄者…?」
とりあえず腰を下ろして、兄者をみた。
そのあとに、あきらさんをみた。
驚いた顔と満足げな顔。
これがまさに、雲泥の差というやつか。
その狭間で、若干放心状態な俺。
まだ、口の中にあきらさんの舌があるような感覚がする。
べつに名残惜しいとかそういうんじゃないけど、なんとなく頭の中がとろとろしていて、今のところ何かを考えられそうにはなかった。
「何って…タンの味見」
なんてことないようなあきらさんの受け答えを聞いているうちに、次第に意識がはっきりしてきた。
俺ってば、あきらさんにキスされて、乳触られて、…しかも微妙に気持ちよくなっちゃって。
…そこを兄者に目撃されてしまった、のでした。
さっきまでのできごとを大まかに振り返っているうちに、これがとんでもなくヤバイ状況なことに気づいてしまった俺。
ま、まずい。
いっそのこと、この状況すら把握できないほどのバカでいたかった。
ほんの一握りほどの俺の知力が、今は憎らしいことこの上ない。
「あ、兄者!これは、えっとー…なんつーか・・違うから!とりあえずっ!」
なんとか意識を取り戻した俺の必死の挽回にも、兄者は明らかに「何が違うわけ?」と言いたげな冷めた目線でみてくる。
いや、兄者さん。そんなギラギラな視線を向けられてもな。俺は、微塵も悪くないと思うんですけど?
ただタンがすきって言っただけなのに、なぜかあきらさんに襲われるし・・・・これは、俺の責任ではない気がするのですが、そこんとこどうなんでしょ。
「違くねえだろ?気持ちよかったんじゃねえのかよ」
勝ち誇ったような笑みを浮かべながら、あきらさんは俺から兄者へと視線を流す。
かんぺきに、あきらさんはこの状況での兄者の反応を愉しんでるようにしか思えないんだけど。
「・・・稜のこと、口説かないでくださいって前も言ったはずですけど」
冷静な対応がかえって怖いぞ、兄者・・。
というか、兄者はこんなこと言ってたのか。
「ありゃあ、ふざけてだろ」
「僕は本気でした」
「そうかい。そりゃ、ごくろうなこった」
いつの間にやら、こんな言い合いが幕を開けていた。
兄者はけっこうマジで怒ってるっぽいけど、あきらさんはそれを見て愉しんでるって感じ。
・・やっぱ、あきらさんって、まだ兄者のこと好きだったりすんのかな。
まあ、俺としては、・・・・すげーフクザツなんですけど。
「あきらさんっ」
二人の言い合いの合間に、少し声を張り上げてあきらさんのことを呼んでみる。
すると、意外なことに二人ともピタッと言い合いをやめた。
よっし!俺、先制。
「俺、あきらさんがカッケくて色男でテクニシャンでエロくても、ぜってー負けねーから!」
そう力いっぱい豪語して、内心そんな自分に「俺ってば、カッケくね?」と浸っていると、二人からの勢い任せのツッコミがなぜか到来。
あ、あれ・・?なんか違かった?
「この話の脈絡から、なんでそーなるわけ?これだから、バカはヤなんだよ」
「やっぱ、気持ちよかったんじゃねえか。そういう意思表示は、前もってハッキリとするもんだろうが」
兄者。最近、一日五回以上は俺のこと「バカ」って言ってるだろ?
あきらさん。意味わかりません。
「あ、あのォー・・。とりあえず、俺はどーしたら‥?」
もはやワケわからん状態のパニック中な脳みそが、二人からの助言を求める。
やっぱ、こーゆうときの助け合いだよな、うん。
すると、まるで口裏あわせでもしていたかのような揃った回答がかえってきた。
『謝れ』
・・・・・・・・・・はい?
「稜が悪いんだから、稜が謝るべきでしょ?ここで僕が謝ったら、意味不明だし」
「や、そもそもコレって、謝る謝らないの話だったっけ・・?つーか、俺悪くねーし!」
「ああん?だったら、俺が悪いってのか?てめえから誘ってきたんだろうが」
「いつ!?いつ俺が誘ったー!?何時何分何秒地球が何回回ったときだコラーッ!」
「稜、それ古いから」
そんなこんなで、しばらくこんなくだらなすぎる言い合いが炸裂。
その決着がついたのも、兄者がいつまでも帰ってこないことをおかしく思ったらしい店長さんが様子を見にきたことで、半ばムリヤリの休戦ってかんじだった。
そして、最後に言わせてもらうが、俺は悪くないぞ。
・・うん、悪くねー。
END?