love16 一緒
黒神さんに対する稜の言葉を聞いて、僕は正直驚いていた。
稜は、優しい。
だけど、その分ナイーブな面もあって、傷つきやすい。
そのせいで、自嘲的になって、一時的に自分をコントロールできなくなった。
そんな稜が、僕と黒神さんには仲良くしたままでいてほしいと言った。
驚かないほうがおかしい。
たぶん、これが悩んで悩んで悩みぬいて出した稜の考えなんだろう。
だから、驚く反面、嬉しくもあった。
僕には、ちゃんとそれが届いたよ。
きっと、黒神さんにも届いてるはず。
ありがとう、稜。
僕だって、稜が大事だ。
いつまでも、大切にするよ。
思わず、久しぶりにきたような感覚に陥る――稜の部屋。
いつもどおり、きちんと片付いていて、落ち着ける空間だ。
僕らは、ならんでカーペットに座る。
ゆっくりと、ベッドに背中を預けた。
「そういや、大道寺たちが心配してたんだぜ」
脚を投げ出して、いつものように僕を見ながら、いつものように話す。
「兄者探してるとき、偶然あいつらに会ってさ。大道寺なんか、あのあと何回もメールしてきてた」
大道寺もか。
やっぱり、大道寺とハルは似たものカップルだな。
「ハルも、僕のところに電話してきてくれてたんだ。あとで、二人にはお礼しなくちゃね」
そういって、僕は笑った。
稜も笑う。
こんな何気ない瞬間が、今はすごく幸せに感じる。
この一瞬一瞬を、忘れずにいたいな。
「なあ、兄者」
そんな風にしみじみしてたら、稜の手が僕の手の上に触れた。
・・あったかい。
「なんつーか・・・改めて、ゴメンな」
稜のあったかい手から、上へと視線を流す。
――大丈夫だ、泣いてない。
僕としては、もう稜を泣かせたくなかったし、泣いてる稜も見たくなかったから。
「僕こそ。改めて、ごめん」
稜の言葉を少しだけ借りて、僕も改まってみる。
自然と、二人で笑いあった。
もう、戻れないのかもと本気で思った数時間前。
息が止まりそうなほど、苦しかったさっき。
稜も、おんなじ想いだったのかな?
「あのおー・・触っていい、ですか?」
ふと、稜がそんなこというもんだから、思わず吹き出しそうになる。
「ばか。もう、触ってるでしょ」
そういって、僕の手の上にのった稜の手を指差す。
「そーいうことじゃなくて」
僕の言葉を呆気なく否定して、空いた左手で僕の髪に触れてきた。
ぴく、と身体が反応する。
「・・兄者に触って、兄者を感じたいんだよ」
「・・・恥ずかしい奴」
たしかに、と稜が苦笑いした。
でも、そう思ってくれるのは、素直に嬉しかった。
「だから、さ。兄者も俺に触って」
手の上にのっていた稜の手が、そのまま誘導する。
そして、僕の指が稜の頬に触れた。
稜の皮膚。
柔らかくて、あったかい。
それでいて、やさしい。
僕が頬を包んだら、包み返してくれる。
そんな心地いい場所だ。
「稜のこと、感じるよ。ちゃんと、ここにいるって」
「俺も感じる。兄者と俺、一緒だって」
頬にあった指をながして、稜の唇に触れた。
「・・キスしてもいい?」
こんなこと、僕からなんて滅多に言わないけど、今は自然と口にしていた。
たぶん、それが「すき」ってことなんだ。
「・・・モチ」
ジッと、稜に見つめられる。
無意味に怯みそうになるくらい、まっすぐな眼差し。
その先にいるのが僕であることが、こんなにも嬉しいなんて。
喜びをかみ締めながら、稜の唇にそっと近づく。
眼を閉じる稜。
その長い睫毛に、思わず見惚れる。
そして、ゆっくりと稜の形のいい唇に、唇で触れた。
・・あったかい。
「・・・・・好きだよ」
唇を離した瞬間、僕はそう呟いていた。
それは、ほろりと僕の口からこぼれた大切な言葉。
「俺も、」
ちゅ、と音をたてて、稜が触れるだけのキスをかえしてくれる。
胸が高鳴る。
思わず、お礼を言ってしまいたくなるくらい、優しいキスだった。
「ねえ、稜」
囁く僕の声も、自然と柔らかくて優しいものになる。
「ん・・?」
そのまま、稜が抱きしめてくれる。
僕のカラダは、ますます温かくなる。
「僕たち、これからもずっと一緒にいようね」
僕よりも広い稜の背中に、腕を回した。
稜もあったかいのかな。
僕と同じ気持ちなのかな。
「当然だろ?」
あのね、稜。僕らさ。
きっと、これからいっぱい楽しいことがあったり、喧嘩したりすると思うんだ。
でも、心のどっかでは、お互いのこと、ちゃんと見てようね。
それで、一人で辛いときは二人で話そうね。
あとは、いつもの僕らのまま、仲良くやろう。
これからも、ずっとずっとよろしく。