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love13 団円



あきらさんの車を待っていると、わりと早く車は到着した。

俺とセンパイは車の後部席に乗り込んで、兄者から事のあらすじを聞いた。


あの殿も巡りに巡って、あんなことをしたっていうのがわかって、
俺はなんとも言い表しにくいむずがゆさを覚えていた。
だからって俺には兄者っていう大事な人がいるから、もちろん殿を選ぶことはできない。
殿のことを考えると結末的には最高ではないのかもしれないけど、それも止むを得ないことだとも思う。

きっと殿だって、改心してくれる。
そして、今度こそ利害とかじゃなくて心から分かり合える人と出会えるといいな。


「兄者もあきらさんも、サンキューな」

身体をはって俺を守ってくれた二人に、今はただ感謝するばかりだった。

「あと、センパイも。改めてありがとー」

となりに笑顔を向けてみるけど、センパイは窓の外を見たまま何も言わなかった。

ただ、センパイの膝の上に置かれていた指がトントンと小さくリズムを刻んでいたので、俺はまた笑った。
センパイが素直じゃないってのは、今回でまた改めて痛感したからな。


「よし。んじゃあ、どっか飯でも食い行くか」

ミラー越しに、サングラスをかけたあきらさんが俺に笑いかけてくる。

「いーっすね!あきらさんのおごりすか?」

そうおどけて言ってみると、赤信号でブレーキをかけたあきらさんの手が伸びてきて。

「ま、お前も頑張ったしな。おごってやるよ」

そのまま俺の頭をぽんぽんと撫でた。

「いいんですか?」

助手席に座った兄者が、遠慮がちに聞く。

「かまわねぇよ。社会人舐めんな?」

青信号になり、あきらさんの手が離れて行った。

俺はひそかに、この平穏なときを心の中で精一杯に噛みしめる。

「センパイも行きますよね?つーか強制参加!」

外を眺めていたセンパイの目がちらっと俺を捉えて、少しだけ笑った。

「パフェ代はお前が払えよ」

そういって、いたずらな笑みはいつもの無表情にすぐに隠された。

「ええ!あきらさんおごってくれるって言ってんのに!?」
「お前がおごるって約束だっただろうが」
「だーかーらー!今月はきちィって言ったじゃないすかー!」

後部席の俺たち(というより俺)が騒いでいると、あきらさんと兄者は呑気に笑っていた。

「諦めろよ、稜。好きな奴はいじめてぇ年頃なんだよ」
「あ?誰がこんなバカ…」

あきらさんのからかいに不機嫌そうに反発する榛名センパイは少し新鮮だ。
俺もつられて笑う。

「おい花螢、調子のんなよ」
「す、すんませんっ」

車内に笑い声が広まって、これぞ大団円。

俺たちは何が食いたいかとか話しながら、またあれやこれやと意見が別れてもめたりして。
今回のことがあって、そりゃ大変だったけど改めて日常のしあわせってのを大事にするきっかけになったと思う。

その点では少しだけ感謝したいな。






「ねえ、稜」

けっきょく多数決により、兄者がバイトしてる焼肉屋にいくことになった。

駐車場に車をとめ、店まで歩いていると、兄者が俺の耳元にそっと耳打ちしてきた。


「結局僕のこと、名前で呼んでくれなかったね」

兄者は先を歩くあきらさんたちに向かって小走りしながら、振り返っていたずらっぽく笑った。
少女漫画かよ!くそ!可愛い…っ!!

「や、ぁ、兄者!ちょい弁解さして!待てってばー!」

俺が兄者の名前を、恥ずかしげもなくきちんと呼べる日はくるのか?(H中は除く!)
ま、それだって焦らずやっていけばいいって思ってるんだけど甘い?

今はとりあえず…焼肉たらふく食ったる!
考えるのは、その後だっていいよな?




END




ようやくなんとか決着です。
この後、車の運転は代行に頼めばいいやって開き直った黒神が酔っ払って、
劉とか榛名にチューして思いっきり嫌がられます。稜は怒ります。
次はもっと双子を絡ませたい!

あと、act2の最初に出てきた酔っぱらいの上司・石貝が実は元警官で黒神と昔から親交があった・・
なんて話も合間に入れてみましたが、この二人のことは番外編かなんかでいずれ書きたいなあと目論んでます(^^)


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