ある保育士の話。
保育士という職業について、早3年。
仕事にもすっかり慣れたが、やっぱり子供たちの相手をするのはなにかと大変だ。
おもちゃを取り合って喧嘩をしたり、追いかけっこをしていて転んでしまうなんてことも日常茶飯事。
先生として、俺も取り合いの的になったりもする。
いろいろ大変でも、やっぱり子供たちが好きだから、俺はこの仕事を続けていられるんだろうな。
子供たちの笑顔を見るたび、そう思う。
そして今日も、問題が起こった。
園児同士の喧嘩で、一人の園児が保育園の外に出て、行方知らずになってしまったらしい。
名前は、ゆうた。
人懐っこい性格で、俺もよくこいつとは遊んでいた。
とりあえず先生同士で話し合った結果、保育園の周りを探すグループと、街を探すグループに分かれることになった。
俺は、街を探す担当。
ゆうたは絵本が好きだから、本屋を探した。
公園を探した。
駄菓子屋を探した。
思い当たる場所はすべて探し回ったが、やはりゆうたの姿はどこにも見当たらなかった。
もう見つかっているかもしれないとも思い、俺は一回保育園に戻ることにした。
保育園につながる道を走っていると、ふと目の前に背の高い高校生が子供を肩車して歩いているのが目に入る。
もしかしてと思い、その高校生に駆け寄ってみた。
「えいじせんせい!」
見知った声が、俺を呼んだ。
やっぱり、ゆうただったんだ。
「あ、もしかしてゆうたの先生ですか?」
ゆうたを肩車していた高校生が、愛想のいい笑みを浮かべて、俺に聞いた。
言葉に、大阪の訛りがある。
俺は、うなづいた。
「たまたまこの辺歩いてたら、この子が泣いとったんですよ。
そんで話聞いたら、友達と喧嘩して飛び出してきてもうたって言うやないですか。
わいも似たような境遇やったんで、こら運命やー!て思うてしもうたんです」
な、と高校生は、ゆうたに投げかけた。
ゆうたも嬉しそうに笑いながら、「うん」と答える。
なんか、もうすっかり仲良しっぽいな。
「迷惑かけちゃって、すいません。ホント、助かりました」
その背の高い少年は、俺の礼の言葉に恐縮した感じに「いやいや」と首を振った。
「迷惑やなんて、とんでもないです。わいも、ゆうたに話聞いてもろたんで」
「だいどーじ、こいびととケンカしちゃったんだって。だから、おれがなぐさめてあげたんだよ」
「こら、ゆうた!それは秘密やって、言うたやろ」
ゆうたのいう「だいどーじ」とは、きっとこの少年の名前だろう。
それにしても、ホントに兄弟みたいに仲がいい。
とても、今日出会ったばかりとは思えないくらい。
きっと、この子の気さくな性格のおかげなんだろうな。
>>つづく