play1 4人
―――――俺の好きな男には、好きな女がいた。
そして、2人は付き合ってる。
俺はアイツにとって、友達でしかない存在。
だから俺は、もちろん自分の想いなんてアイツに伝えられるわけがなかった。
・・アイツのことを、大切に想えば想うほどに。
月曜日の朝。
登校時間ギリギリに、俺――唐沢竜也(からさわたつや)は教室に入る。
でも、教室に入ってから真直ぐ向かう先は、自分の席じゃない。
「はよーっス。」
教科書も置き勉で、教科書が一冊も入ってないエナメルバッグを肩から下ろして、俺はさりげなくアイツの席へと近づく。
「あー、はよー。竜也」
「はよ、」
そこには、もちろんアイツこと弥栄加珠(やさかかず)と、・・・・弥栄の幼なじみの大和航(やまとわたる)が居た。
この二人は、幼稚園からの付き合いだそうだ。
正直、俺的にはかなりおもしろくない。
―――だって。
無駄にデカくて黒い目に、これぞ絹かと思うほどにサラサラした黒髪。
オマエは口紅でもつけてんのかと疑うくらいの、血色のいい紅い唇。
簡単にいうと、弥栄はすべてがカワイーの。
その点、弥栄は小柄で背もあんまり高くないんだけど、大和はとにかくバカにデカイ。
野球部だからガタイもそこそこしっかりしてるし、顔もかなり整ってる美形だ。(坊主だし)
それに加えて、細かい所によく気付くし、勉強もできる。
だから、当然女子には人気があるワケ。
つーまーり。
外見からしたら、この二人は超お似合い。
・・・・・・俺、茶髪に染めなきゃよかった。
「やーさーかーァ。オマエ、宿題やってきた?」
あの弥栄が宿題なんかやってきてるわけがないのは、よくわかってたけど。
やっぱ、話題が少しでも欲しいから、俺はそんな卑怯なことをする。
「・・・竜也。今、ぜってー俺が宿題なんかやってるワケねぇって思っただろ。」
机に突っ伏しながら、不機嫌そうに弥栄は言った。
コイツとは、まだ2年の付き合いダケド、けっこうお互いの事とかよく分かり合ってると思う。
・・・・・・・ま。俺の思いこみかもしんねーけど。
「思ってねーよ。で、やってあんの?」
ハイハイと適当に相槌を打ちながら、俺は再度問いただす。
「お前の期待を裏切って悪いようだが、俺はバッチやってきたぞ。」
ジャーンと誇り高げにノートを見せ付ける弥栄。
字が汚くて何かいてあるかはよくわかんねーケド、とりあえず宿題らしきものはやってあった。
お、おかしい。
俺と張り合うほどのバカな弥栄が、宿題をやってきたなんて!
きっと、明日は雹が降る!
「ま、俺の見たんだけどな。」
机に軽くよっかかりながら、大和は溜息をついた。
なんだよ。そーゆーことなら、頷けるぜ。
「バッカ、大和!そこで明かすかフツー!ぜってー今、竜也信じてたのにッ」
「いずれバレる嘘はつかないのが利口なんだぜ、弥栄。」
「そーやってクールぶんなお前はー!ホントは全然クールじゃねーくせに!」
ギャーギャー騒ぐ、猫弥栄と。
それを軽くあしらう、飼い主大和。
「大和はクールだよなーァ?手ェいつも冷てぇーし。」
「それはお前、冷え性だろ」
「え、マジで!?大和って、冷え性だったのかよ!俺、幼なじみのくせに知んなかったしッ。
小学校ン時、素手雪合戦(?)誘ってゴメンなっ?」
「違ぇーよ、バカ。しかも、何過去振り返って後悔してんだ。」
「大和!冷え性には、養命酒だ!あれ、養命酒って未成年が飲んでもいーのかよ?」
「唐沢。人に物を勧めるときは、ちゃんと責任持って勧めような・・?」
「あ。でも確か、アルコール度数が1%未満になるようにすれば未成年者でも服用可能だった。」
「・・なんでお前、そんな養命酒に詳しいの?」
そして、俺。
俺の役柄は、何よ・・?
・・それはともかくとして、俺達にはまだ仲間が居た。
キーンコーンカーンコーン。
古臭い音のチャイムが鳴り始めると、俺よりもさらにぎりぎりに登校してきた奴が居る。
「セーフ!?セーフなのかー!?」
息をゼエゼエと荒げながら、重たそうな身体をこちらへ動してくる男。
これが、熊田花緒(くまだはなお)。
中学から、俺はコイツとつるんでた。
ほら、腐れ縁って奴ヤツ・・?
一応、これでも昔は喧嘩番長だったんだけどな。
今では、弥栄のおかげですっかり改心して、喧嘩もしなくなった。
弥栄は、スゲェよ。
人の人生変えちまうんだもん。
しかも、自分でもわかってないうちに。
もちろん、俺もお前に変えられたよ。
お前のおかげで喧嘩もしなくなったし、ガッコもフケんなくなった。
・・・・だってお前といる方が、何するよりずっと楽しいんだもんよ。
「マジギリギリセーフだっつのー。てか、むしろ担任早めにきてたらアウト〜。」
苦し紛れに俺たちのほうに歩み寄ってくるもんだから、内心俺は少し同情しながらも、やっぱ口だけは悪かった;;
「ダイジョブかよ?花ちゃん、」
なぜか弥栄だけは、熊田を「花ちゃん」と呼ぶ。
熊田には全然似合わねーネーミングダケド、弥栄が言うと(弥栄が)かわいいから許す。
「熊田、もうちょっと減量した方がいいぞ。・・・なんか、死にそうな熊みてー…。」
大和も容赦ない。
俺も、今回ばかりは大和の意見に賛成ダケド?
・・・・しかも、死にそうな熊ってそのままじゃねーかよ。
「弥栄ァ〜!お前だけだよ、俺をいたわってくれんのはァァ!」
がばァっと急に熊田が弥栄にしがみつくもんだから、危うく弥栄をのせたイスは後ろへ倒れそうになる。
「わ、ッおいバカ!あぶねーじゃんッ」
「弥栄までバカとか言うんかー!!お前ら、俺をポッチャリ系だと思ってバカにしてんだろ!?」
蛇足。
熊田は、自分の事を決してデブと言わない。(笑)
「ていうか、バカだろ?」
ヤレヤレといった表情で、また溜息をつく大和。
コイツもコイツで、相当毒舌家だと思う。
「たしかに大和よりはバカだよ!?でもなァ、お前ら美形3人組の中でも必死に頑張るポッチャリ系の俺!この苦労は、お前らにはわかるまい!」
「「「わかりたくもねー。」」」
こんな時ばかり声が揃う、熊田曰く「美形3人組」。
「くそー!!いつかぜってぇ痩せてやるー!!!」
そして最後に、ダイエット志望のボス猫、熊田。
「花ちゃんが痩せたトコとか、全然想像つかねー。(笑)」
「てか、どーせ無理だろ?」
「俺も『無理』に50円賭ける〜。」
「50円とか、賭ける価値ねぇから!でも、その50円は絶対に俺様がもらうぜー!悪いな、唐沢っ。」
「・・・・欲しいんじゃねーかよ、」
はっきり言って、とても弥栄とはラブラブって状況にはなれそうにない生活だけど、まあそれなりにエンジョイはしてる。
今は青春真っ只中だし、エンジョイも必要なんじゃねーの?
ま、ラブも欲しいけど!