play2 取引
今日の放課後にはクソめんどくせー委員会なんつーのがあった。
ちなみに俺は、体育委員。
…なんで委員会なんて入っちゃったんだろう‥。
まさにこれは、アレだ。
なんだっけ‥あ、後悔先に立たず?
「あー。そー言や、俺以外皆委員会入ってんだっけ、」
と、弥栄。
そうだ。こいつは委員会に入ってなかったんだ。
「先帰っててかまわねーから、」
と、学級委員の大和サマ。
せっかく弥栄と二人っきりでかえれたのに、委員会のバカ野郎ー!
「んー。じゃあ、また明日な」
べつに手を振り合うわけでもないが、そう互いに別れを告げた。
そして俺達も、各委員会の集まり場所に行く為に、その場で解散した。
俺が教室についた何分後かに、委員会は始まる。
先公のとくに興味の湧かない話を聞いてる振りをして、俺の頭の中は弥栄の事でいっぱいだ。
アイツ、一人で帰ったりして平気だったかな。とか、一緒に帰りたかったな。とか。
家ではもっとエロい想像してるけど、現在居るのは公共の場なので、それにはなんとか歯止めをかけた。
「‥にして、我々体育委員会の文化祭での役割は―――、」
文化祭‥?
そっか。そーいや、もォそんな季節ですか。
文化祭といやぁ、学生の醍醐味。
そして図り知れぬラブ満載。
これだ。
俺は瞬時に確信した。
これで、弥栄と友人以上の関係になろう。
つーか、これしかねぇ。
俺は新たな希望を胸に、委員会が終了したと同時に、教室を清々しい気持ちで躍り出た。
すると、ちょうど目の前を熊田が通り掛かる。
「熊田、お前給食委員だっけ」
声をかければ、熊田は立ち止まってこう答えた。
「外見で判断すんな!俺は図書委員だよッ!つーか、高校に給食委員とかねーしっ」
「えー。オマエ、どこで道を踏み外したんだよ」
「踏み外してねえだろ!むしろエライだろ!エライだろ、俺っ」
なんで二回言ったンだろ、とか思いつつも俺は「エライエライ」と適当に奴の話を流した。
「じゃ、俺まだ仕事あっから先帰ってろよ」
「おー。せいぜい頑張ンなされ」
俺らは別れ、俺は教室ヘと荷物を取りに戻った。
そして俺は、教室の前に着いた途端にある事に気付いた。
「‥‥‥サイッアク、」
そーだ。俺のクラスは、学級委員会が集まるトコだった。
つーコトは、学級委員会が終わるまで、俺は帰れないワケ?
どんだけツイてねーの、俺。
でも、バックん中に財布とか入ってるし、これはとにかく待つしかなさそうだ‥。
そして、待つこと約二十分。
教室がガタガタと動き始めた。
やっと終わったのかと、半分寝ていた頭をムリヤリ起こして、俺は教室の中をこっそりと覗き込んだ。
『気をつけー、礼』
終わった、らしい。
やっとだ、マジで。
安心して教室の中に入ろうとすると、ドア先で誰かとぶつかった。
「った、ワリ‥」
「唐沢‥?」
どうもよく見知った声が、俺の名を呟く。
「大和、」
コイツ、うちのクラスの学級委員なんだっけ。
すっかり忘れてたぜ。
「なんでお前、まだ居ンの?」
と大和に問われた俺には、ちょっとした遊び心が芽生えていた。
「‥大和のコト、待ってた」
そう言った後、ちょっと渋って「嘘だッつの!」とおどけるつもりだった。
‥‥‥が。
「‥何急にかわいくなってんだよ、」
と予想外の反応をかえされ、俺はすっかり種明かしのタイミングを失った。
‥オイ。しかも可愛いってなんだ、可愛いって。
せっかくのご好意だが、1ミクロンも嬉しくねぇ。
「せっかく褒めンなら、カッコイイと言え」
そう大和をバッシングして、俺は自分の席に荷物を取りに行った。
「ッあー!誰だよ、俺の席に座った奴!学級委員のクセに、机に落書きしてんじゃねーっ」
‥ん。
しかし、その落書きの文字を読んでみると。
『お前、弥栄の事好きなの?』
と、なんとも俺のプライバシー精神に反する内容。
しかも、図星の俺。
‥‥‥なんで。
「‥‥お前の席座ったの、俺」
呆然とする俺に、投げ掛けられた言葉。
その声の主は、‥‥大和。
「‥なんで、」
振り返ると、いつの間にか俺の後ろに居たアイツ。
「‥なんでだろーな、」
ガタッ
意識がとぶという体験を、初めてしたと思う。
そして俺が我にかえったときには、俺のカラダは大和によって机の上に組敷かれていた。
「唐沢さ。この事弥栄に知られたくねえんだろ、」
俺を見下げるアイツの目を、ずっと見ていた。
「‥そら、まあ…」
頷く俺。
「だったら、取引しよーぜ?」
そのうち目が痛くなって瞬きをしたら、
「‥‥‥、」
その瞬間に、俺は大和に唇を奪われた。
もちろんファーストなんかじゃねーケド、まさかこんな展開になろうとは予想してもいない。
「‥優等生の学級委員クンは、欲求不満ですってか、」
うっすら‥笑いなんか浮かべて、俺はからかいまじりにそう言った。
大和は、何も言わない。
「‥で。取引の内容ってのは、どーせアレだろ?俺の秘密をお前がバラさないかわりに、俺のカラダと引き換え。ずいぶんありがちだな、オイ」
右手を伸ばして、大和の唇にそっと触れる。
血色の良い薄紅色に、やわらかい触り心地。
そして、指越しに伝わってくる熱い温度。
・・この唇が、さっきまで俺の唇と重なり合ってたのか。
「ありがちで悪かったな。‥でも、普段そんな風に見えない学級委員が実はむっつりだった、なんてのもアリだろ?」
奴の唇を撫でていた俺の指先を捕らえて、大和はそのまま俺の手を引いた。
そして、またキスを欲される。
大和が舌を絡めてきたから、俺もそれに答えてやった。
‥つか、いつ誰が来るかもわからない教室で友人とこんな事やっちゃって。
俺が「プレイボーイ」と呼ばれるのも無理ねェわ。
「‥ああ、アリなんじゃねーの?」
大和。べつにお前の事なんか好きじゃねーぜ?
けど、・・・・あまりにもお前の唇が熱いから。
俺はどうかしちまってたんだ。