play8 日常
「・・・・」
俺の言葉を聞くなり、だんまりしやがる大和。
相変わらず、背中向けたままの体勢だから、表情は読めないけど・・・てか、いつも読めねえけど。
・・今、どんな顔してんのかな。
「な、なんだよ」
そんなあいつに、思わず逃げ腰の俺。
「・・・別に、起こしたりしねえよ。ただ・・、」
ぼそりとそう一言こぼして、俺から手を解いた。
そして、俺の居るほうとは真逆に寝返りをうつ。
「ただ・・?」
言いかけた大和の言葉を、背中合わせで復唱してみた。
「お前って・・やっぱ弥栄の事、すげえ好きなんだなって思った」
そのストレート過ぎる大和の言葉に、若干俺は赤面しながら、照れ隠しにまたコートを被った。
「・・お前は、」
コートの中で、呟いてみる。
別に聞こえなかったら、それでいいやと思いながら。
そしたら、あいつは「は?」と返してきた。
「お前は・・・・誰が好きなんだよ、」
自分でも、言ってから「何言ってんだろ」て思った。
深い意味なんか無くて、ただ・・なんとなく聞いてみたかったから。
そんな、深い意味は無くて。
「・・さあ、」
ちょっと間をおいてから、大和は肯定も否定もしないままの返事を俺に向けた。
・・・押し付けた。
結局、そのまま「おやすみ」を交わすことなく、俺たちは眠りについたのだった。
「大和!いい加減起きろよっ」
「あー、弥栄くん。そんな生ぬるい起こし方じゃ、そこのぼっちゃんは起きませんわヨ」
俺としたことが、結構深く寝付けずに朝を迎えてしまった。
起きたのイチバンだし。
なのに、・・あの馬鹿は正々堂々とお寝坊さんだよ。
・・こっちの気もしらねえで。
「だって、さっきからずっと起こしてんのに、全然起きねえの。大和って、こんな寝起き悪かった?」
「さあー。もしや、コイツ。またギャップ狙ってんじゃねえーの?『いつも真面目な学級委員は、実は朝に弱いの(はぁと)』なーんて」
大和の作戦にのりたくなかったら寝かしとけ、とか言って、俺はクローゼットに向かう。
漫画とかの展開でいったら、今日は休みなんだろうけど、残念ながら、現実はそんな生半可なもんじゃなく、ごくノーマルに学校があったりする。
イコール、ろくに寝れなかったカラダに鞭を打って、まずは制服に着替えなくてはいけないワケ。
「弥栄、制服持ってきてんだろ?」
「あ、うん」
「だったら、ちゃっちゃとお着替えしちゃいなさい。遅刻するワヨー」
クローゼットの中に積んであったロンT(赤)を適当に引っ張り出して、あとは学ラン一式をとりだす。
制服って、こういう時つくづく便利だと感じるぜ。
「自分は、いっつも遅刻スレスレなくせに」
とかブツブツ文句言いながら、持ってきたバッグに詰め込まれた制服を床の上に積んでいく。
「スレスレっつーのは、遅刻してねんだからオッケーなの」
そう言って、時計を見てみる。
・・・まだ、ちょい時間あるな。
そう見切った俺は、布団(仮)にダイヴする。
さすがに、ねみい。
あと、5分でいいから寝たい。
「おい、竜也?」
仰向けになった顔の上から、弥栄の声が降ってきた。
眼を開ける。
「前言撤回。あと、5分。俺に自由な時間をクダサイ」
「ま、5分くらいなら。大和もまだ寝てるし・・・つか、眠いわけ?」
30センチ弱真上に、弥栄の顔がある。
眼がある、声がある、・・唇がある。
性欲な青少年は都合がいいもんで、いつの間にか眠気なんてもんは吹っ飛んでいたワケで。
「・・・・・、」
カラダを半分起こして、弥栄の柔らかい頬に右手で触れる。
寝起きなせいか、その頬は少し熱を帯びていた。
そして、欲のままに、俺は弥栄に触れるだけの幼稚なキスをする。
昨日と同じ、熱くて・・暖かい場所だった。
「・・竜也」
俺が唇を剥がすと、儚い声で弥栄が俺を呼ぶ。
誤解するから、そんな声出すなよ。
・・俺が辛いんだぜ?
「・・・弥栄、続きいい?」
俺は、昨日ほど余裕が無かったわけでもなく、だからって期待してたわけでもなく。
べつに、この時点で弥栄が俺に引いてもいいかなって思って、こんなことを言ったんだと思う。
俺自身、なんでこんなに冷静なのかがナゾだった。
「・・ばか。いいわけねーだろ・・・」
お返事の結果は、ノー。
それでも弥栄は、俺から眼を逸らしたりしないで言葉をくれたから、なんとなく俺はほっとしてたりする。
「ですよねえー」
だから、いつもみたいにふざけた返事して、その場で流して、トイレ行くとかって理由つけて、この部屋を出たかった。
・・冷静な俺は、冷静に傷ついていたらしい。
「・・なんで、傷ついた顔してんだよ」
「は?」
俺ってば、傷ついた顔なんかしてたのか。
もともとそんな顔に出るタチじゃねえし、平然とできる自信はあった。
それでも、好きな奴に見破られてんじゃイミねえな。
「・・あのさ。なんつーか・・・俺、昨日からお前がよくわかんねー・・んだけど」
そういう弥栄は、少し困ったような顔をしていた。
ごめんな。お前、バカで鈍感で、そんでも優しいから、俺がつらいの心配してくれんだよな。
そういう弥栄の優しいとこ、好きだぜ。
こんなの、お前には伝わらないだろうけどさ。
「なんでもねーよ」
いつもどおり、笑う。
こうやってなんでもないフリすんの、いつまでもつことやら。
たまに、昨日みたいに暴走しちゃうし?
自制すんのって、けっこー大変なんだな。
「ばか。ごまかすなょ・・」
「あ」
あることを思い出して、弥栄のTシャツの襟を人差し指で伸ばして、首を晒してみた。
「あった」
「な、なにがだよ。つーか、襟伸びんだろっ」
昨日、俺がつけたキスマーク。
ちゃんと、弥栄の首筋に残ってる。
・・ムリヤリだったけど、なんかちょいコイビトっぽく思えなくもない。
こんなことで満足しちゃって、ごめんね弥栄クン?
「昨日、つけたヤツ」
そのまま、キスマークの上に吸い付くようなキスをした。
ぎゃッと、弥栄が飛び跳ねる。
俺が爆笑して、笑い転げる。
・・やばい、しあわせだ。
「・・・・・・朝から、盛ってんじゃねえよ」
転がった先にいた大和と眼が合う。
あ、あれ?もうご起床されてましたか。
つうか、機嫌悪ッ。
こいつの弱み『朝に弱い』ゲットだな。
「盛ってねーよ、バーカ」
勢いで、大和のデコにもキスをする。
ちゅっとなるかわいー音。
「このキス魔が・・」
不機嫌な大和。
よし、よし。いつもどおりだ。
今日も一日、頑張りますか!