「人やべーな。兄者、はぐれんなよ」
明けました、新年。おめでとう、俺。
振り返れば、去年はいろいろあったけど、まあ人生いろいろなくちゃつまらんわけで、それもいい思い出かなと思ったり。
そんな思いを巡らせつつ、今日は兄者と一緒に近くの神社に初詣にきていた。
有名どころなワケでもないのに、やっぱり新年ということでか、人の数は溢れんばかり。
もともと人ごみが嫌いな俺は、それだけでもすでにブルーだったりする。
・・そんな俺に、次々とさらなるブルーなデキゴトが襲いかかろうとは、誰も予想しなかっただろう・・・・。
いい加減古びた鳥居をくぐり、境内を目指そうとした俺たちは唖然とした。
日曜日のディズ●ーランド並みに溢れかえった人のせいで、賽銭箱までの道のりは程遠いという現実。
「やっぱり、元旦にきたのがまずかったのかもね」
「だからって、毎年こんなに人いなくねー?」
すでに俺たちの後ろに並ぶ人々に押し歩かされながらも、なんとか会話を成立させる俺たち。
愛ゆえの双子テレパシー。
と、内心ほんわかするものを、そうも言ってられない状態に。
「っあ、ちょ・・兄者!?」
人の波に流されるまま、とうとう俺と兄者ははぐれてしまった。
ちらちらと辺りに視線を巡らせるも、可愛い俺の兄者は見当たらない。
・・仕方ねー。とりあえずは、境内に向かうしかないな。
この人ごみじゃ、ケータイも出せねーし。
そう仕方なく諦めた俺は、再び兄者との再会を願いつつ、押されるがまま境内へと向かったのであった。
「っ、いてッ」
押され踏まれの状態でなんとか賽銭箱の前までたどり着き、財布から小銭を取り出しつつ、再度周りを見回した。
やっぱり、兄者は見当たらない。
・・・・・・それどころか、思わぬ人物を見つけてしまった不運な俺ありけり。
(あ、あれって・・榛名センパイ、だよな・・?)
声をかけたら届くくらいの距離に、榛名センパイはいた。
元旦に初詣とか、なんか意外だな。
そんなのめんどくさがって行かなそうなのに。
・・つーか、一人なのか?
(隣に・・女?)
人ごみに嫌気が差したような不機嫌顔のセンパイの横には、年上っぽい女の人がいた。
明らかにセンパイに話しかけてたし、たぶんセンパイのツレなんだろう。
ツレ・・っつーか、彼女・・・かもだけど。
(センパイって、彼女いたのか?まあ、性格はともかくあの顔だし、いねー方が不思議だけど・・)
なんとなく頭がモヤモヤして、それを振り切るように小銭を投げた。
(大体、いっつも俺に変なちょっかい出してくるくせに、自分はちゃっかり彼女と初詣とか・・ッ)
顔の前で手を合わせて拝みながらも、イライラモヤモヤが募りに募ってくる。
彼女っつー相手がいんなら、俺にあーゆう・・・変なことをするなってんだよ。
彼女にも申しワケねーし、なによりなんか俺が惨めじゃんか!
「おい、兄ちゃん!いつまで拝んでんだ!早くしろっ」
「す、すんません」
後ろから軽く怒鳴られて、慌てて横にずれる。
なんとか賽銭箱に並ぶ列から抜け出し、ホッと息をつける場にとどまった。
まったく、榛名センパイのせいでとんだ目に合ったっての・・。
「・・・・お前、なにやってんだよ」
「ッうあ!」
急に背後から肩をつかまれたことに驚き、慌てて後ろを振り向けば、そこには冷ややかな呆れ顔で俺のほうを見据えている榛名センパイがいた。
な、なんで!?
「せ、センパイ、なんでココにいるんすか!あ。あけましておめでとーございます・・・・・ッてか、彼女は・・」
「はあ?お前、とうとう日本語も喋れなくなったのかよ。つーか、彼女ってなんだ」
堂々とシラを切るセンパイの隣には、さっきの女の人がいた。
茶髪のクルクルした長い髪に、厚すぎない化粧。
それでもキレイなのは、たぶんこの人が元からキレイだから。
隣で並びあう2人は、当然の如くお似合いだった。
「央未、この子誰なの?」
センパイの腕をもたれ掛かるように引いて、女の人が問う。
榛名センパイにこんな態度をとれるなんて・・なんてイノチ知らずな女なんだ・・・。
つーか、それほどこの2人が仲いいっつーことなのかな。
「俺の後輩・・つーか、姉貴。あんまべたべた触んなよ」
腕にまとわりつく虫を払うように、センパイが女の人をあしらった。
・・・・・・・・って、姉貴?
「・・・あ、のー。この人って、センパイのねーちゃんなんすか?」
俺がきょどりながら問えば、代わりに答えてくるのは女の人兼榛名姉。
「そうなの。いつも央未がお世話になってるわね。今日は彼氏にフラれた当てつけに、央未をムリヤリ引き連れて来たのよ。この子と歩いてると周りの女が振り返ってね。いい気分だわー」
陽気に笑う榛名姉をよそに、当の榛名センパイは一秒でも早く帰りたそうなオーラを漂わせている。
・・センパイにも、頭が上がらない相手っているんだ。
ちょっと、いーこと知っちゃったかも。
「君もなかなかカッコいいわね。央未はどちらかというと、キレイ系のキラキラ王子様〜って感じでしょ?だから、君みたいな感じの子も新鮮で素敵」
にこっと微笑まれ、不覚ながらにもドキッとしてしまう俺。
キレイな女性にときめいちゃうのは、男の性・・許せ、兄者。
てゆーか、榛名姉ってブラコン?
「・・・姉貴。くだらねーこと言ってんなら、俺は帰るぜ」
不機嫌度マックスな感じで、通称キレイ系のキラキラ王子様はいった。
しかも、なぜか俺まで睨まれる始末。
俺は、1パーも悪くねーッつの!
「あら、ダメよ。これから、兄さんと落ち合う約束じゃない。央未が帰ったら、あたしが怒られるのよ」
立ち退こうとするセンパイを、いとも簡単に引き寄せて、榛名姉は文句を垂れる。
・・榛名姉の兄・・・・ってことは、センパイってもしかして末っ子?
「センパイって、末っ子だったんすね。なんか意外・・ッてえ!」
内心笑いをこらえながらいうと、脳天にグーの拳が直撃。
笑いこらえてたのバレたか・・・?つーか、いてえ!
「ンで殴るんすか!」
「てめェ、今笑っただろーが」
・・・・・・やっぱり、バレてましたか。
「だって、センパイが末っ子とか意外すぎ。なんか一人っ子っぽいっすもん」
「それは、遠まわしに我がままだと言いてーのか?」
「被害妄想強すぎだっつの・・」
なんやかんやといつも通りガヤガヤしていると、遠くの方からなにやら美声らしきものが聞こえてきた。
・・・・だんだん近づいてくる。
「央〜未〜!」
おみ・・・・って、榛名センパイのこと、だよな。
そして、その声と共に人ごみを掻き分け、俺たちのほうに走ってくる・・あの超絶美形は一体何者!?
「・・・・・来た」
センパイは心底嫌そうなため息をついて、この一言。
まさか、あれがセンパイのにーちゃん?
そして、その超絶美形は走ってきた勢いのまま、棒立ちするセンパイに思いっきり抱きついた、のだ。
「央未クン、待った?待ったよね?ゴメンね、お兄ちゃん遅くなって」
長身に見合った長い脚。
すっかり日本人離れしたキレイな顔立ちに、栗色の髪の毛。
加えて、蕩けるような甘い美声から放たれた第一声は、素晴らしいほどのブラコン発言。
弟に対する第一人称が「お兄ちゃん」なんて奴、二次元でしかみたことねーぞ。
「誰も待ってねえ。・・放せよ、兄貴」
意地でもひっついてくる榛名兄をムリヤリ引き剥がして、センパイは相変わらず嫌そうな顔を隠す気ゼロって感じで対応していた。
・・・・やばい。また、笑いそう。
つーか、榛名センパイのゴキョーダイ方って、とことんセンパイに対してブラコン?
「もう、つめたいなあ。ついこの前までは、お兄ちゃんと一緒にお風呂に入りたがっていたのに」
「・・・・この前って、何十年前の話だ・・」
ブラコンな美形兄にすっかり押され気味な榛名センパイは、なんだかいつもと違くて、俺としては「いいモン見れた!」て感じで嬉しかった。
なにしろ、いつもドS発言行動満載な榛名センパイが、兄姉にたじろいでる姿なんて、なかなか拝めるもんじゃねーし。
「ほーら、いい加減行くわよ。これから、初売りセールに行くんだから!」
「俺は帰る」
「央未クンが帰るなら、僕も帰る!」
「男2人に拒否権はなくてよ?2人には、荷物持ちっていう大事な任務があるんだから♪」
なんやかんや言って、第三者の俺から見たら、仲良さそうにしか見えないんだけど。
なんて、すっかり微笑ましい気持ちになっていたら。
「キミキミ。君も一緒にいく?男手は、多いに越したことないわ」
お姉さん、顔はニコニコ笑ってるけど、その手招きは怖いっす!
「や、あの・・俺、人探してるんで遠慮しときます!じゃ、センパイ!よいお年を〜ッ!」
センパイの返事も聞かぬまま、俺は猛ダッシュでその場を後にした。
・・俺、センパイがあんな性格になった原因が、今日で少しわかった気がしたぞ。