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夏、アイス、愛す!(後編)



ここからは唐沢に変わって、俺・・大和航があいつの罰ゲームのもようをお届けする。

くだらないゲームの敗者となった唐沢は、汗だくになりながらも走って帰ってきた。
アイスが溶けないようにとの計らいなのだろうか。まったく、なんやかんや律儀なやつだ。

「っふー、買ってきたぜ!」

肩で息をしながら、額の汗を拭う。
首元のあいたTシャツから見える素肌は汗のせいでテロテロと光っていてエロい。
さっきから気になってたんだよ。鎖骨とか、ほっそい首とか。
おまけにこいつが着てるTシャツってのが、ギャル男っつーかチャラい系特有の細身のTシャツなもんだから、腰の細いラインとか丸見え。
お前、罰ゲームする前からそんなエロくてどーすんの?


「おおー、おつー。よくちゃんと戻ってきたなあ〜」

と、熊田から賞賛の声。
まあたしかに、このまま逃げ帰ることもできたといっちゃできたな。

「ばあーか!男に二言はねーですワよ」

立ったままの俺たちなんて気にもせずに、唐沢は一人ドサッとベンチに座り込んだ。
まだ、僅かに肩があがっている。

「まあ、時間はあるし気が済むまでゆっくりやれよ」

なんて高みの見物発言をしている俺な訳だが、まあ楽しみじゃないと言ったら嘘になる。
俺は唐沢と違って下心丸出しにしたりは、絶対にしないけどな。(だから唐沢にっムッツリって言われんのか・・)

「ジョーダンじゃねーよ。こんなん速攻ヤって、速攻イカす」

おいおい、なんの話ですか。

「お前らさ、俺の口元だけ見てみろよ。ぜってーゲンキになっから」

ナニが元気になるって?
それこそ冗談じゃねえな。他の奴らは知らんが、俺はちゃんとお前のエロい顔も余すことなく見せてもらうぜ。


そして、いよいよその時が来たようだ。
ベンチに座った唐沢を、立ったままの俺達三人が囲う状態でのスタートだ。
まあなんとも滑稽な配置なわけだが、唐沢もベンチから動く気は無さそうだし流れというやつ。

歯先で豪快にアイスの袋を破り、唐沢は中から棒状のアイスを取り出した。
これまた律儀に白いアイスキャンディーとくるから、こいつ自身楽しんでやってるとしか思えない。

「なーなー、エロい食い方ってけっきょくつまり・・どーゆーこと?」

この期に及んで弥栄はまだ理解できていないらしい。
こんな男子高校生はもはや国宝もんなんじゃないだろうか。

「まーまー、見てりゃあわかるから。唐沢ウマイし」

・・・・・おい、熊田。
なんでお前は知ったふうな口ぶりなんだ。

「あー、オマエらうっさい。気分でないじゃん」

ビッと俺らの前にアイスをつき出して、唐沢がそう一言。

すっかり借りてきた猫のように大人しくなった弥栄と熊田をよそに、俺は一つ溜息。
どんだけやる気満々なんだよ、お前はさ。


「んじゃ、いっただきまあーす」

そう言って、唐沢は紅い舌を白いアイスの先へと伸ばした。

その舌がゆっくりと棒の中央くらいから上までを辿っていく。
頂上まできたところで小柄な唇を窄めてその先を軽く吸った。
ぢゅっと汁を吸うような音が、どうにも脳に響く。

暑さのせいなのか唐沢の舌の熱さのせいなのか、早くも解け出したアイスが奴の指先を伝っていった。

「・・ンー、溶けンのはえーって・・・・」

本人もアイスが手元を汚したことに気づいたらしく、不満気にそうこぼしながらもまた唇を先端にあてがった。
今度は口いっぱいにそれを含んで、上下させながらまたぢゅるっと液状になったアイスを吸う。
何度かそれを繰り返しているうちに、吸いそこねた白い液体が唐沢の口端からこぼれてそのまま顎先から首筋へと伝っていった。

その様のまあなんて官能的な事か・・。
アイスを使った真似事なんて、下手くそな奴がやったらそれはそれは興ざめしてしまうことこの上ないのだろうが、唐沢の場合は真逆だ。
かえってアイスなところがもどかしいというかもっとやれというか・・・とにかく色っぽいのである。

そういえば弥栄はどうだろうと、横目でちらりとのぞき見てみる。

・・下を向いていて、頬が仄かに紅い‥気がした。
弥栄の頬を紅くさせているのは、夏の暑さなのか唐沢のエロさなのかまあ言うまでもないだろう。

「おい、やーさーか。ちゃんと見てろって、な?」

弥栄の様子に気づいたらしい唐沢が弥栄を上目遣いに呼んで、再びアイスへと舌先を伸ばす。

「ご、ごめん・・」

なんで見てるほうが罰ゲームみたいになってんだよ、弥栄。

しかし対する唐沢はそんな弥栄をお構いなしに、舌先をちろちろと横に遊ばせながらまた舐め上げたり吸ったりを繰り返した。
先端までいくとその先を執拗に舐めたり、舌で円をかいたり、吸ったり・・その流れはなんとも慣れきっていて腹ただしく感じるほどだ。

とうとう居た堪れなくなってきたらしい弥栄がふるふると肩を震わせ始めた時だった。
それを見かねた唐沢があいている方の手で弥栄の手を掴み、自分の持っていたアイスの棒を握らせた。


「今度はオマエが持って。ソレだったら見てなくてもいーから」

唇についた白を舌で舐めとって、唐沢はそう言った。

・・・おい唐沢。それってつまり、・・・・そういうシチュエーションってことなのかよ。
それはいくら俺でも引くぞ・・。

と心の中で言ったところで盛り上がってきてしまっている奴に届くはずもなく、ただ俺はその状況を見守るしかなかった。

「え、でも俺・・どーしたらいいかとかわかんないし・・っ」
「いーの、弥栄はそうしてるだけで。俺が全部やるから」

相手に有無を言わせる間もなく、唐沢は弥栄の腰を自分に引き寄せてそのままアイスを自らの口内へと招いた。

どんどん溶け出すアイスを先から吸い上げていき、口の先で啄む。
溢れ出た液体が次々と唐沢の顎先から垂れていって、喉元や胸元を汚していった。

「た、竜也・・っ」
「なんらよ‥?」

アイスを口に含んだまま応答するので、また溶けたアイスが口内から溢れた。

「まだ・・・?」

おずおずと弥栄が聞くので気分をよくしたのか、わざと挑発するように音を立てながらアイスから唇を離す。

「なーに、弥栄クンはもう我慢できねーの・・?」

先っぽを一舐めして、弥栄の顔を下から見つめる。
・・・完全に奴の中で、俺と熊田は亡き者にされたと見た。

「だって、俺・・・」
「俺の、ヨクない?・・ショック受けちゃうなー」
「べ、べつにそういうこと言ってんじゃねーけどッ」

弥栄のアイスを持つ手が僅かに振るえている。
・・・・あーあ、かわいそうに。

こうやって見せつけられてる俺もなかなかかわいそうだとは思うが、一番の被害者はやはり弥栄だろう。
代われるものなら代わってやりてえけどな。

―――唐沢はお前をご指名なんだよ、弥栄。

「これはさ、俺の罰ゲームなんだからオマエの好きなように動かしてくれていーんだぜ?」

先端にチュッと口付けてから、顔を傾けて竿の筋を吸うようにして舐めていく。
いい加減小さくなってきたアイスをまたいっぱいに含んで、上下する。

「だ、から俺・・わかんねって・・・・」

ほら、弥栄も困ってんだろ?
俺も困る。熊田は知らん。

・・・・・もう、我慢の限界だった。


「んン・・・・っ!?」

弥栄の手からアイスを奪い、そのまま唐沢の口から勢いよく引っこ抜いてやった。
どろどろの白い液が飛び散って、唐沢の顔や服、地面を汚した。


「そこら辺にしとけ。淫乱クンもそろそろ満足しただろ」

アイスを持つ手がたちまちベタベタした液体でまとわりつく。

ああ、なんでこんなにもイラつく?
理由は分かってる。

慣れた舌使いも弥栄に向けられた熱い視線も、全部俺のモノにはならない。
こんな茶番を見せられて、俺はどうしたらいい。
のうのうと見ていられるほど、・・俺はまだ大人にはなりきれてなかった。


「ちょ、やま・・ッん」

ベタベタと鬱陶しいアイスを、未だに状況がつかみきれてない唐沢の口に容赦無く突っ込む。

「最後までちゃんと残さず食えよ。お前の罰ゲームなんだから」

そう吐き捨てるように言葉が勝手に飛び出た。
完全に苛々を唐沢にぶつけた形になる。
そりゃ発端は唐沢だけど・・・最悪だ。

思っていた以上に自分が幼稚で、それを自ら自分に突きつけた。
そのダメージはなかなかに重い。


「や、大和・・・・」

普段めったに感情を表に出さない俺の変動に、唐沢もさぞや驚いている様子だった。
ムカつかれても、嫌われても文句は言えない。

「・・・・・・」

俺はもちろんのこと、弥栄も熊田も誰も口を開かなかった。
ただ、皆が唐沢の次の言葉を待っていた。


―――――――そして。



「やべェ・・今の、めっちゃゾクゾクした・・・・」

顔に飛び散った液も、口元を汚した液もそのままに唐沢はただ悦楽に浸るようにぼうっと空を見つめていた。

俺はたった今、教訓を得た。
――――――変態を侮る事なかれ。

ただ、この一言に尽きる。


「お、おい、竜也・・。なに言って・・・・」

もはや青ざめたような弥栄の表情には同情すら覚える。

「弥栄、これは俺達にはわからない世界だよ・・いこうや・・・・」

おい、ちょっと待て熊田。
俺にだってこいつのおかしな性癖は理解しかねる。


「前言ったじゃん?俺、サドであると同時にマゾなんだよね。リバーシブル仕様、ね。便利じゃね?」

白い液体つけたままのこんな無垢な笑顔って、たぶん一生見ることはねえだろうな。
俺はもう欲情を通り越して、怒りも通り越して、なんだかわからない心情下にあった。


「大和がサドだってンなら、俺は喜んでマゾになんよ」

あの、なんの話ですか。

ていうか、マジで熊田と弥栄は俺をこの変態のもとにおいて逃げやがった。
どうすんだよ、俺が全部搾り取られたら。


「サドだのマゾだの俺は知らん。だから引っ付くな」

腰のあたりにまとわりついてくる唐沢の手を解こうとする。

「えー、むりー。もう俺、オマエのせいでビンッビン・・」
「いっぺん死んでこい。じゃないとそのエロ脳どうにもなんねえ」
「じゃあ死ぬ前に一回だけ罵ってv」
「アホか、触んな。変態がうつる」
「そんなんじゃ足りねーよおー。さっきみたいなの、な?おーねがいーっ」

一瞬でも唐沢に悪いと思ってしまった過去の俺よ、そんなこと思わなくていいぞ。
こいつの頭の中、決してエロいことだけで埋まってるわけじゃない。
わかってはいるつもりなんだが、どうにもこういうところを見るとそれを絶対だといまいち自信を持って言えなかったりする自分がいる。

でもまあ、それでも俺は信じたいんだよなあ。
こんなやつでも惚れてしまった弱みってやつでさ。
だから、信じてやる。信じてやるから、とりあえずその欲望にまみれた手を今すぐ俺から離してください・・。










-end-


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