不  妊  症

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現代医学編

1,定義
妊娠を望み2年以上夫婦生活を営んでも、妊娠に恵まれない場合をいう。避妊しなければ2年以内に約90%が妊娠するといわれているので、約10%が不妊症ということになります。しかし1年で約80%が妊娠し、次の1年で妊娠するのは約10%となるため、1年たっても妊娠しない時は、専門クリニックを受診することをお勧めいたします。
 一度も妊娠した事のない場合を原発性不妊症、妊娠の経験があるもののその後妊娠しないものを続発性不妊症といいます。

2,原因
次のような様々な原因があります。
(1)射精で膣内に十分な運動精子を供給できない。
(2)精子が頚管粘液の中を通り子宮頚管へ進入できず、子宮の中に精子が供給できない。
(3)精子が子宮内腔を通過して、受精をする場所である卵管までいかないとき。
(4)卵巣内で卵胞が順調に育たないとき
(5)卵胞の破裂(排卵)順調に起こらない時(黄体化非破裂卵胞)
(6)卵胞後残った卵胞の細胞から正常な黄体が形成されないとき
(7)卵子が卵管の口(卵管采)に取り込めない時(ピックアップ障害)
(8)卵子と精子が融合(受精)しないとき
(9)受精卵(胚)が順調に分割しないとき
(10)胚が子宮腔に運ばれないとき
(11)胚が子宮内膜に着床しないとき

実際には原因不明の機能性不妊症が多く、その多くが体外受精を行わないと妊娠できない実情があります。

3,不妊因子
@排卵・内分泌因子
排卵に関する間脳ー下垂体ー卵巣系のいずれかに異常が生じて不妊になる。
その他甲状腺、副腎など内分泌異常に基づく不妊。
A卵管・腹膜因子
グラジミア感染症、子宮内膜症により、卵管留水腫や卵管間質部閉塞などにより子宮外妊娠や不妊になる。
卵管の機能的、器質的異常および腹膜の異常に基づく不妊
B子宮・頚管因子
着床の場としての子宮の形態的・機能的異常に基づく不妊。
C男性因子
造精機能障害、精路通過障害、副性器障害、精機能障害に基づく不妊
Dその他
原因不明不妊、肥満、るいそう、染色体異常によるもの

に分類される。しかし不妊因子単一ではなく混合した複数因子あるいは、両性因子不妊症も多い。それぞれのカップルにおいて原因をすべて明らかにすることは難しいといえる。頚管因子または原因不明不妊とされている女性約13%、男性約6%に抗精子抗体がみられるという報告がある。卵巣から放出された卵子は卵管采に捕捉されて卵管内へ取り込まれて精子と受精し、受精卵となる。卵巣と卵管は直接つながっておらず、卵管采の粘膜し接触して卵子は捕捉される。何らかの理由で捕捉できなかった場合を捕捉障害という。原因不明不妊の約50%が卵子の捕捉障害であることが分かっている。

4,検査項目
女性側
@基礎体温
基礎体温での排卵の有無、黄体機能不全の判定、不正性器出血の原因を推測する。
正確な排卵日の予測は不可能である。
A頚管粘液検査
排卵日に近くなると、頚管粘液は量が増え糸を引くようになる。
正確な排卵日の予測は不可能。
Bフーナーテスト(性交後テスト)
頚管粘液内への精子の進入状態を検査する方法。抗精子抗体のスクリーニングテストの意味合いもある。結果が不良の場合、抗精子抗体の検査をおこなう。
C超音波検査(経膣超音波検査)
卵巣内の卵胞(卵子を含んでいる液体の袋)の発育程度により、排卵日を正しく推定することが可能である。卵胞は20mmぐらいになると排卵される。この卵胞を超音波によって映し出して観察し、卵胞の消失と腹水の貯留で排卵後かを判定する。また子宮内膜の厚さを測定する。排卵直後の内膜は通常三層構造で8mm以上が望ましい。内膜の形状の不良であるもの(ヘテロパターン)や子宮内膜が5mmを割るものでは着床障害が出現するので注意して観察する必要がある。
 最近、基礎体温の上昇や排卵前ホルモン値の上昇、卵胞の成熟にもかかわらず卵胞破裂が起こらないLUF(黄体化非破裂卵胞)が問題になっている。LUFは超音波検査のみで診断が可能である。
 超音波検査のみが正確な排卵日と排卵状態を診断することが可能である。
Dホルモン測定
排卵の状態を判定するために、月経の3〜5日目の脳下垂体ホルモン(卵胞刺激ホルモン、黄体刺激ホルモン)と卵巣から分泌されるホルモン(卵胞ホルモン)を測定する。必要があればホルモン負荷テスト、男性ホルモン、プロラクチンなどの測定をおこなう。
尿中の黄体刺激ホルモンのピークを調べることにより、排卵日を予知することも可能である。
実際の排卵誘発治療で排卵が近くなると、脳下垂体から分泌される卵胞刺激ホルモン、黄体刺激ホルモンの値を採血して調べます。排卵後の黄体ホルモンを測定した排卵の有無、黄体機能不全を判定する。
Eソノヒステロ
子宮内腔に生理食塩水を注入、子宮内膜の乱れ、内臓ポリープの有無を経膣超音波下に観察する。
F卵管通水検査
レポピストという薬剤を使って、経膣超音波下に卵管の通過性を観察する検査
G子宮卵管造影(ヒストロ)
卵管の通過性、卵管采周囲癒着の程度を知ることができます。
H腹腔鏡検査
腹部に腹腔鏡を挿入し、卵管、子宮、卵巣の状態を直接肉眼で観察する。子宮卵管造影ではわからなかった卵管采の形態の異常を直接観察できる。正確なピックアップ障害はわからない。卵管水腫を伴う卵管閉塞の症例において、水腫の分泌液が着床を障害していると考えられる状態に対して、着床環境を良くするために腹腔鏡下で卵管水腫のクリッピングや両側卵管切除術を治療的意義で実施できる。
I抗精子抗体
難治性不妊症の約10%が陽性であるといわれている。陽性の場合、体外受精の適応となる。
Jグラジミア抗原抗体検査
卵管障害などの炎症による原因を推測できる。
K腫瘍マーカー
子宮内膜症による骨盤内に癒着がある場合、CA125などの値が上昇することがある。
L子宮鏡検査
膣、子宮頚管よりファイバースコープを挿入、内膜下筋腫の有無、子宮内腔の癒着、内膜ポリープの有無、内膜の発育状態を観察することができる。
超音波検査で内膜が薄い場合、ポリープが疑われる場合に実施する。
M子宮内膜検査
子宮内膜を試験的に採取する。ホルモンバランスの崩れ、黄体機能不全を診断できる。
N感染症検査
梅毒、淋病、グラジミアなどの性感染症やウィルス検査を行う。
O代謝異常検査
血糖値、甲状腺機能を測定、不妊症、不育症のリスクを検討する。多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の患者の一部に血清インシュリン値が高値となっている場合がある。
P抗核抗体、抗リン脂質抗体(APS)検査
抗リン脂質抗体症候群(APS)と血栓の関係が報告されている。習慣性流産と血栓症とは非常に密に関係があり、APSでは抗カルジオリピン抗体、ループスアンチコアグランド抗体が陽性となる。

男性側
@精液検査
2〜3日の禁欲期間後精子を採取、顕微鏡で観察する。
WHOの正常値・・・精液2ml以上、精子濃度2000万匹/ml、精子運動率50%以上、奇形率30%以下。
A精子の形態検査(クルーガーテスト)
精子の形態を見る検査。精子の奇形性と受精能力を推定する。
B男性ホルモン値測定
無精子症がわかった場合、ホルモン検査(FSH,LH,テストステロンなど)を行う。結果により閉塞性無精子症、造精障害かを判定できる。
C精巣上体穿刺
精巣上体に針を刺し、精子の有無を判定。閉塞性無精子症の場合はほぼ100%精巣上体より精子が回収されるので、回収された場合はそのまま凍結保存する。
D精巣生検
精巣より組織を採取、精子がいれば凍結保存し、顕微授精を行う。

夫婦間
@染色体検査
夫婦の血液を採取、検査いたします。通常は男性は46XY、女性は46XXとなります。排卵障害の女性でターナー症候群、男性の無精子症の場合にクラインフェルター症候群などの染色体異常が見つかることがある。
A混合リンパ球培養試験(MLC)遮断抗体
正常妊婦では、妊娠すると遮断抗体が出現、胎児を異物として認識されにくくします。習慣性流産の患者の場合、遮断抗体ができにくく、それが原因で胎児を異物と認識して流産が起こるといわれています。不妊患者でも遮断抗体が少ないといわれている。

5,治療
女性側
@タイミング指導
他医での治療歴がなく、年齢が35歳以下の場合、約6〜12ヵ月のタイミング指導を行う。
超音波による卵胞計測、ホルモン値の測定、子宮内膜の測定、排卵後の黄体機能不全の有無、LUF(黄体非破裂卵胞)の有無について注意深く観察しながらタイミングを取っていきます。
A薬物療法(排卵促進と黄体機能不全の是正)
タイミング指導中に卵胞の発育が悪い場合、月経開始より18日目を過ぎても卵胞径が18mmを超えない場合、子宮内膜が厚くならない場合、黄体中期の黄体ホルモンの値が上昇しない場合は積極的に行います。

男性側
@薬物療法
漢方薬、ビタミン剤、ホルモン療法を行う。決定的な精子の改善薬はありません。
A人工授精(IUI,AIH)
フーナーテストの結果が不良、抗精子抗体が陰性の場合。
軽度の乏精子症の場合適応となります。人工授精は採取した精子を子宮腔内に注入しているだけで、実際に受精させているわけではありません。

T,機能性不妊症(原因不明不妊症)に対する考え方。
卵管の通過性、精液検査に問題がなく、LUF(黄体非破裂卵胞)がなくきちんと排卵されている場合でフーナーテストが良好と診断された場合。


精子は子宮内腔まで進入していることになる

なぜ妊娠しないのか。

色々な原因が考えられる
(1)精子と卵子が出会えない場合
排卵した卵は卵管の先端の卵管采でピックアップされるが、その部分の格好が悪かったり、卵巣と卵管采の位置関係がずれている場合などによってピックアップ障害が起こる。
ピックアップ障害によるものが、機能性不妊症の原因の80%以上になるといわれている。
(2)精子の受精障害
精子と卵子が出会うと、通常成熟卵の場合60〜70%以上受精する。
実際体外受精してみると約10〜15%に受精障害が発生する。精子の濃度、運動率、他の検査で全く異常がないにもかかわらず全く受精しない例もある。
(3)卵の状態が悪い場合
年齢的な問題で35歳を超えると、年齢とともに卵の質が悪くなります。排卵誘発剤の乱用(HMG-HCG療法の1年以上の治療歴)も卵巣自体の感受性を低下させるだけでなく、卵自体の質も悪くなるとの報告もあります。
フーナーテストの結果に異常がないにもかかわらず、タイミング法、人工授精で妊娠しない場合体外受精に移行ずべきである。

U,高度生殖医療に対する考え方
実際に一般的な不妊治療を開始した人で、妊娠に至るのは40%以上であるといわれている。その大部分は1年以内に妊娠している。1年間不妊治療専門クリニックで治療しても、妊娠に至らない場合、積極的に高度生殖医療に移行すべきである。
(1)体外受精胚移植
卵と精子を体外で受精させ、受精した卵(胚)を子宮内に移植させる方法。
(2)顕微授精
重症男性不妊症、体外受精で受精障害がある場合、受精を成功させるために顕微鏡と顕微授精装置を用いて透明帯を貫いて、人工的に授精を促す方法。

V,その他の高度生殖医療の特殊技術
(1)胚凍結保存、融解胚移植
胚の凍結保存は、1983年オーストラリアで成功して以来様々な改良か加えられ、胚の無傷率、回収率とも向上し確立された方法になってきました。
自然の排卵後に移植する方法と、ホルモン剤を使用して人工的に子宮内膜を作成し移植を行うHR周期がある。
(2)AHA(着床補助操作)
胚は透明帯の一部がバッチングして子宮内膜に埋もれこむように着床する。何度も良好胚を移植したにもかかわらず妊娠に至らない例、高齢の例などに透明帯が厚く上手にバッチングできない例がある。このような場合ガラス管で切開したり、レーザーで透明帯を切開したり、酸性タイロード液を利用して透明帯を薄くしたりして着床しやすくする方法がある。
(3)胚盤胞移植(BT)
近年培養液の研究が進み、複数(2〜3種類)の培養液を使い分け高い確率で良い胚盤胞を作ることが可能となった。本来、精子と卵は卵管で受精し、前核期2分割、4分割、8分割と卵管で分割し、桑実胚となり融合状態となって、はじめて子宮腔内に落ちて胚盤胞となり、その後子宮内膜に着床する。従来の4〜8分割の胚を移植する方法は、本来卵管にある胚を子宮に戻すことに無理がある。本来あるべき姿のところに胚を返す。これが胚盤胞移植の基本であ。適応は卵管が機能的に障害されている例に用いられる。
(4)凍結融解胚盤胞移植(HB-BT)
胚盤移植に凍結の技術とホルモン補充療法を併用する方法である。

6,不妊の予防
不妊因子の成立には。性感染症、肥満、加齢、喫煙、飲酒、薬物常用などの職業、生活習慣、嗜好が関与しているといわれている。
@感染症
骨盤内炎症性疾患は急性卵管炎の症状で発症することが知られている。そのリスク要因として若年性交、複数の性的パートナー、過剰な膣洗浄、喫煙習慣、クラミジアおよび淋菌感染細菌性膣炎などがある。骨盤内炎症性疾患の既往が1回でもある妊婦は卵管性不妊になる相対リスクは7%、子宮外妊娠を起こす可能性が6〜10倍。既往歴が2回あると不妊リスクは16.2%、3回以上では28,3%になる。クラジミア、淋菌感染は骨盤内炎症性疾患の素因をつくる可能性がある。早期発見、早期治療が不妊の予防に重要であるが、無症状であるため現在罹患率の上昇が問題となっている。
A喫煙
タバコ煙中に含まれる4,000種を超える化学物質が卵巣毒性を有している。ホルモン分泌に影響を与え、慢性的な煙暴露においてホルモン異常や閉経が早まることが分かっている。
喫煙者またはタバコ煙に暴露される環境にある場合、不妊率が高く治療においても赴任期間が延長し、妊孕(にんよう)性が低下していることがわかっている。
喫煙が及ぼす影響
低出生体重、早産、周産期死亡、乳児死亡、前置胎盤、常位胎盤早期剥離、子宮外妊娠、流産、胎児奇形
などがある。不妊症になる危険性が上昇し、体外受精治療においては妊娠率低下、妊娠成立までの期間延長が起こるといわれている。
喫煙の影響下にあって出生した児が、将来に体外受精を受けた場合妊娠率がひくくなること、流産率が高くなることが指摘されている。
喫煙男性をパートナーとする場合、女性が非喫煙者であっても副流煙の吸引の他に、精液中に存在するタバコ関連発癌物質の子宮頸部への直接暴露もある。
B肥満・るいそう
肥満は月経不順と同様に原発性、続発性不妊症のリスクを増加する。人工授精の妊娠率の低下と排卵誘発を試みる場合の排卵効果が劣り、妊娠成立した場合の流産の危険性が高い。
顕著なるいそうは下垂体機能不全に伴う排卵障害を認めることがある。体重が回復することにより排卵がみられるようになる。
C加齢
卵胞内卵子数の減少と卵子の質の低下により、妊娠率が低下する。胎児の遺伝的異常により自然流産に帰結することが多くなる。生殖補助医療技術(ART)においても着床率や臨床的妊娠率が低下する。
D環境ホルモン(内分泌撹乱物質)
精子数の減少の原因として環境ホルモンが示唆されている。動物での実験では微量のダイオキシンの母体への投与で次世代の精子数が減少することが、報告されている。またダイオキシン類に暴露されたサルに子宮内膜症発症率が増加したとの報告もされている。
E食事
子宮因子である子宮筋腫増加の原因の一つとして、食生活の欧米化によって性ステロイド総生産量の増加と初経年齢の早発化により、性ステロイド総生産期間の増大が関与しているといわれている。