不  妊  症

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鍼灸治療編

1,現代医学的考察
不妊因子は単一ではなく、複数因子または両性因子である。したがって鍼の深さや刺鍼部位は個々の患者に応じて決定する。
体表所見のとらえ方として
①皮膚の状態と反応
②手術創の有無
③不定愁訴
④女性生殖器、骨盤内の血流改善を目的とした血管分布領域とデルマトーム領域の反応点に対して刺鍼する。
などを指標として鍼灸治療をおこなう。
①皮膚の状態と反応
皮膚状態は薬の副作用などによって、湿疹、蕁麻疹などの皮膚掻痒感、被れなどの症状を併発することが多い。視診や視診ではわからないものでも面接である程度把握する。
・被れについて
パッチによるものの場合、ほとんど視覚的判断できる。
初期の場合出血しやすい上、鍼などの刺激が痒みなどの症状を誘発する可能性がある。
被れに限らず、湿疹や蕁麻疹でも消毒や鍼灸の刺激が症状誘発を招く可能性がある。
卵巣腫瘍、嚢胞などで閉鎖神経が圧迫されると、この神経が分布する大腿内部の皮膚に痛みを感じることがある。この痛みは鍼灸治療で一過性に軽減するが、重篤な症状にならないために医療機関を受診していない患者には、現代医学的治療と並行して治療を行っていくことが結果となりうる。
②手術創
不妊因子に限らず手術の既往のある患者、手術創のある患者では手術創周辺に比較的軽い押圧や触診によって違和感や引きつれ感、痛み、皮膚の過敏症状の場合がある。
過敏症状を起こしている場合、刺激が苦痛に感じて治療継続困難にある時もあるので十分注意する。
③不定愁訴
改善が妊娠率向上に寄与する可能性があるとの報告もある。刺激過剰にならないようにしながら不定愁訴の治療も並行しておこなう。薬の副作用などにより様々な不定愁訴を訴える患者は多い、治療が長期化することで不定愁訴が増えていく傾向がある。
卵巣腫大、子宮因子のある患者は内臓の関連痛などで、腹部周辺に鈍痛や膨満感場合によっては吐き気、強い頭痛、月経痛、月経日数増加、月経量の増大などを自覚する。
不定愁訴がその日の治療ポイントを決める重要な判断材料となることが多い。そのために面接は丁寧におこなう必要がある。
④血管分布領域とデルマトーム
女性生殖機能、骨盤内の血流改善を目的とした血管分布領域とデルマトーム領域に対する治療は、その領域中患者の自覚症状や触診によって冷えや、緊張、知覚鈍麻などがある部位を治療ポイントとする。子宮円索と腸骨鼡径神経は鼡径管の中を通り、鼡径靱帯の前を通過、子宮動脈は鼡径靱帯の内後方を通過する。このことから下腹部及び鼡頸部は毎回おこなう。
子宮円索は特に子宮底を前方に引き、前傾位に保ち膀胱の充満時や妊娠時に子宮が後方に向かって圧迫されると緊張し、鼡頸部で内側に位置している。このため患者との信頼関係が得られた後でなければ難しい場所であるといえる。
子宮円索は子宮の上外側部で中を前外方骨盤側壁に走り、平滑筋を含む繊維側であるが、発生学的には卵巣導滞の下半部にあたる。
更に子宮広間膜の前面と後面との腹膜の間(子宮傍組織)には、子宮の脈管、神経がふくまれていることから重要な刺激点と考えられる。

子宮の神経は子宮の側線に沿って子宮膣神経叢に由来する。神経叢は内腸骨動脈のすぐ内側にある。下下腹神経叢に由来する交感神経は平滑筋と血管に分布し求心性神経も含まれる。子宮底、子宮体の痛覚神経は腰内臓神経(交感神経)を経て胸髄下部(Th10~L1)に至る。子宮頚の痛覚神経は骨盤内臓神経(副交感神経)を経て仙髄(S1~S4)へ達する。
これらのことからデルマトーム領域である腹部~鼡頸部、腰部~仙椎部に刺激点を求めることで効果が期待できると思われる。

2,東洋医学的考察
不妊に関しては不孕(ふよう)、求子、求嗣、絶産、絶嗣、絶子、無子などと言われる。不妊の原因はどのように考えられているかというと、人間の一生における肉体の変化は腎気(腎精、精気)の盛衰によると考えられている。妊娠と関係が深い月経に対する考え方にも現れている。古典では月経のことを月事、月信、月水、月行、天葵などと称している。月経は腎気な盛んになり天葵が至り、任脈と太衝の脈が盛んになる事で定期的訪れると考えられる。
腎気が盛んであることがまず正常な生理に大事なことであり、腎気が妊娠、裏を返せば不妊にも関係が深いと考えられる。腎気の不足を不妊の第一の原因とする。

不妊の原因は腎虚、肝鬱、瘀血、痰湿に集約されると思われる。
①腎虚
腎気は男女を問わず人間の成長を軸とする生命現象の基本要因である。
腎精が不足すると身体及び生殖器の発育不全、生殖機能の異常、生命力の低下、老化の早期化などが起こる。
女性に関しては月経や閉経などの産婦人科の諸現象は腎気の機能の変化の結果とされる。このため、不妊の原因の一番に腎虚があげられる。腎の機能的あるいは器質的な力が十分でない状態である腎虚が不妊の要因の一番目にあげられる。
腎虚は「腎の陽虚」と「腎の陰虚」に分けられる。
陽虚・・・・機能的働きの低下をいう。排卵がない、黄体機能不全、無月経、四肢の冷え、寒がりの状態であると考えられる。
陰虚・・・・陰液の働きの低下であり、子宮頚管あるいは卵管の粘液分泌不足という体液性の問題が子宮等で起こっていると考えられる。

②肝鬱
精神的ストレスや怒りや長期の鬱々とした気分が要因となり、肝の疏泄機能が阻害されて発症する。この場合気鬱や気滞となるので精神状態がなかなか改善されず、さらに肝機能を阻害し続ける。このような状態を長期化させるとなりやすくなる。鬱状態や怒りの状態のみでなく、胸悶や胸脇苦満などでも現れてくる。

肝は「血を蔵す」というように血と関係が深い臓と考えられている。肝気の鬱滞により気血の流れがうまくいかず、衝脈や任脈の働きが悪くなる。このため月経異常や無月経、無排卵、卵巣機能不全、切迫流産、乳房脹痛などが発症する。

③瘀血
血の運行失調により、発症する病態
血の滞りを意味し、原因として気滞や気虚、長期の寒性の変調や外傷による血の運行失調、打撲や捻挫などによって血の鬱滞がある。全身の様々な所見や症状が表れる。全身の様々な血流状態の問題を統合して瘀血が否か判断される。

瘀血の証の1つである腹部深部の硬結あるいは硬い固まりは婦人科、泌尿器科と深い関係にある。この腹部所見は特徴的である。
全身的症状
身体の痛み、腫瘤、冷え症
婦人科・・・・月経不順、月経困難症、無月経、切迫流産、子宮筋腫、子宮内膜症の疑い、卵巣機能不全など。
不妊の際にも出現されるとされ、診察する時は重要な所見となる。

④痰湿
実証である。
肥満体質で痰湿が子宮をはじめ身体に滞り、任脈ゃ衝脈の気血が低下し妊娠しづらくなった状態。肥満傾向で筋肉に力なく、汗をかきやすい、疲れやすい、色白の肌で湿った感じがつよい、無月経や月経不順で白帯下か多いなどが特徴である。

⑤男性不妊
腎気が不足している状態である。身体虚弱体質で痩せていて、顔に色艶もなく、無力感が強い、息切れしやすく、腰や膝がだるく、歯が弱く、脱毛、頻尿などがある。

先天的虚弱体質のこともあるが、慢性病、大病による消耗、疲弊などによるものもある。

精液検査で精液の量が少なかったり、精子の数が少なかったり、精子の活動性が落ちているなどの状態が推定される。