更年期障害

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症例報告 


更年期に現れる多種多様の症候群であり、器質的変化に相応しない自律神経失調症を中心とした不定愁訴とする症候群である。加齢に伴う卵巣機能の低下が視床下部ー下垂体の神経活動に変化をもたらし、自律神経失調症をはじめ気分変調や内分泌系、免疫系の失調をきたす。一方この時期に起こる環境や人間関の変化は心理的ストレスとなって抑うつや不安などの精神神経症状の原因となる。さらにこの時期にはその他の加齢現象も加わり、精神身体機能の低下が始まる。このような様々な原因で起こる更年期障害とは様々な変調の総称であり、その意味で一般的疾患概念とは趣がことなる。
 臨床の場での取り扱いに関しては症状のすべてを扱うというものと、卵巣機能の低下に伴うもののみ扱うというものに別れる傾向がある。卵巣機能低下の場合は、女性ホルモン補充によって改善しない場合は他科の治療にゆだねることになる。この時期においての不定愁訴のすべてを婦人科が扱うことは限界がある。一方で更年期女性の不定愁訴の背景に存在している複数の要因を切り離して考えることは難しく、治療における大きな問題となっている。
2,症状 (1)自律神経症状・・・・卵巣機能低下(エストロゲンの低下)に起因しているものと考えられる。急な発汗、冷えなどの血管運動神経の症状が典型である。他に胸痛、胸部圧迫感、息苦しさ、全身的症状として疲労感、頭痛、頭重感、肩こり、眩暈、睡眠障害がある。
(2)精神症状・・・・情緒不安定:イライラ、怒りっぽくなる
抑うつ症状:気分の落ち込み、涙もろくなる、意欲低下、不安感
卵巣機能低下に起因する場合もあるが、環境や人間関係の変化に伴う心理的要因の関与が大きい場合が多く、鑑別は困難である。
(3)その他・・・・運動器の症状・・腰痛、関節・筋肉・手のこわばり、むくみ感、しびれ
消化器症状・・嘔気、食欲不振、腹痛、便秘、下痢
皮膚・粘膜の症状・・乾燥感、湿疹、痒み、蟻走感
泌尿・生殖器の症状・・排尿障害、性交障害、頻尿、外陰部違和感
これらの症状はエストロゲンの投与で改善することが多い。

一般の更年期女性は肩こり、疲労感など漠然とした症状が多いが病院の外来を受診する女性は自律神経失調症状、精神症状が多い。自律神経失調症状、精神症状が強く出るか否かは個々の女性のもつ素因の関与が大きい。臨床的に捉える場合、自律神経失調症状と精神症状が様々な割合で混在している病態として考えると理解しやすい。
3,診断  (1)更年期障害として扱ってよいか否かの判断
〇患者が更年期であることの確認
〇年齢、月経の状態で推測
〇血中ホルモン濃度の測定で確認(FSH、E2)
下垂体から分泌される卵胞刺激ホルモン(FSH)が20〜30mlu/mlで卵巣機能低下と判断する。
〇基礎体温
(2)更年期特有の不定愁訴であることの確認
いくつかの更年期指数が考案されている。
    クッパー更年期指数、簡略更年期指数、更年期スコア
などがあり、短時間で施行でき更年期女性の多様な愁訴を聞き取るのに便利である。
(3)器質的疾患の除外
・更年期障害は不定愁訴であり、血液検査や更年期指数を使ってもそれだけでは確定診断をつけることができない。
・更年期障害は器質的疾患の除外を行った後いわばあぶり出しのように浮かび上がってくる病態である。このため器質的疾患の見落としのないように十分注意が必要となる。
・身体的診察、他科以来、精査
4,病態 内分泌的要因と心理的要因がそれぞれどの程度関わっているかを考える。
(1)問診・・・愁訴、(発症時期、誘因)、精神状態、環境要因、生育歴、既往歴について十分に行う。
(2)心理テスト・・・SDS、SRQD、STAI、MAS、YG性格検査、エゴグラムなど心理状態や性格をみるために併用する。
(3)自律神経機能検査・・・寒冷血圧試験、指尖容積脈波、サーモグラフィー、Microvibrationなど。自律神経性素因を知るのに有用である。
更年期障害のなかには抑うつ気分や不安感も多く、それぞれの感情障害や不安障害といった精神障害との鑑別が難しい場合もある。このような場合は精神科、心療内科などとの連携が必要である。
5,治療 (1)内分泌学的要因の場合・・・薬物療法(内分泌学的要因による症状に対する治療法の中心)
・ホルモン補充療法・・・不足するエストロゲンを補うのが目的
単独での使用は子宮体癌が増加するため、子宮を有する女性には黄体ホルモン剤を併用する。子宮のない女性は単独でよい。
※骨粗鬆症や動脈硬化性疾患、認知症などのエストロゲン欠乏に伴う障害とされる諸疾患に対する予防効果が期待できるとして閉経以後の女性に積極的に使用されていたが、2002年米国で乳癌をはじめとするリスクが効果を上廻る可能性が報告され、更年期障害の治療以外では積極的に使用しないようになった。

・その他(ホルモン補充療法が使えない。本人が希望しない)
自律神経調整薬、漢方薬(証があえば精神症状にも有効)を使用する。
(2)心理社会的要因を背景とする精神症状の場合
薬物療法と精神療法を同時におこなっていく。向精神薬を投与して症状の軽減をはかりながら精神療法を行う。更年期女性の精神症状は抑うつと不安が圧倒的に多い。
向精神薬、抗うつ薬、抗不安薬が使用される。
SSRI(選択的セロトニン再吸収阻害薬)は抑うつ気分、不安感にも有効であり、副作用が少なく使用しやすい。
精神療法・・・一般的精神療法(傾聴、共感、支持)で効果が十分期待できる。

更年期女性の精神症状は身体的、心理的、社会的変化に対する適応の破綻として捉える場合が多い。患者がこの変化を受け入れ、価値観や適応様式を変えていくことを見守っていくということが重要である。患者が持っている価値観や適応様式は性格、生育歴を背景にして長い時間をかけて形成されたものである。これを変化させるにはかなりの時間を要する場合もあるため、治療側も気長に構えて対応することが重要である。