MARKの部屋視覚や色と 動物の行動を話題にします

4.動物の眼・視覚

動物の脳と感覚の関係@〜脳の構造から見た差異

 脊椎動物では哺乳類と鳥類が大きな脳をもち、爬虫類や魚類は比較的小さい脳をもっていますが、小さい脳の典型は昆虫などの節足動物です。これら節足動物の脳は、最前列に視葉と前大脳、次に中大脳、その後方に後大脳があります。視葉は複眼からの視覚情報を処理し、前大脳は様々の感覚情報を統合し行動に結びつける役割を果たしています。中大脳は匂い情報を受け取る触覚葉とその後ろにある背側葉にわかれ、背側葉では接触感覚や風感覚を処理しています。後大脳は甲殻類では 触覚の中枢として働いていますが、甲殻類から進化した昆虫では触覚の一部が失われたために、後大脳は退化・縮小しています。

 他方、脊椎動物の脳は表皮外胚葉が陥入してチューブ状となった神経管から発生します。発生の初期に、脳は前脳胞、中脳胞、菱脳胞の3つに区分され、成長すると、前脳胞から終脳(大脳皮質、大脳基底核、臭脳)が、中脳から間脳(視床、視床下部、膝状体)と中脳(視蓋または上丘等)、菱脳からは小脳や後脳、橋、脊髄などが分化します。生物としての行動を決定するのは脊椎動物では大脳で行われます。後脳は脊髄の前部にあり、脳中枢と末梢神経をつなぐ中継部です。その前部には小脳があり、小脳は姿勢や運動の制御に携わっています。鳥類では飛行時の姿勢制御などの関係から、魚類や爬虫類にくらべ、この小脳が良く発達しています。
 中脳、特に中脳天井部の中脳蓋はさまざまな感覚情報を受け取り統合を行う中枢です。また視覚に関連して発達した所でもあり、鳥類以下では大部分“視葉”になっています。なお、中脳、(間脳、)橋、延髄はまとめて脳幹とよばれています。
 また間脳ではさまざまな神経が出入りしますが、視床には臭覚以外の多くの感覚情報が集められ、終脳への情報の重要な中継基地となっています。視床の外側膝状体は視覚刺激が大脳半球に行く経路であり、内側膝状体は聴覚刺激を中継しています。更に、間脳の視床下部は体内時計機能も担っていますが、間脳の背側には松果体(上生体)が、また腹側には眼胞から眼が形成されています。トカゲなどでは間脳の背側に松果体の他に頭頂眼があり、第三の眼としても有名です。
 終脳はもともとは臭覚と深く関係しており、特に哺乳類では臭脳(臭球)がよく発達し、鳥類ではこの臭球は小さくなっており、カラスではほとんど見分けられません。また哺乳類でも、霊長類ではこの臭球は発達していません。また大脳皮質は古皮質・旧皮質という古い皮質と新皮質に分かれます。ちなみに魚類、両性類や爬虫類(リクガメなど)、鳥類ではすべて古い皮質でおおわれていますが、歴史的には、魚類で嗅覚に関わる旧皮質が現われ、両生類で古皮質が加わり、新皮質は高等爬虫類において初めて出現します。特に哺乳類の霊長類などでは大脳皮質の大部分をこの新皮質が占め、ここに感覚(視覚、聴覚、味覚等)の中枢機能が存在します。従って、新皮質をもつ動物では膝状体から大脳視覚野へとつながる経路が重要となります。

まとめますと、脊椎動物ではすでに述べたように眼の網膜で最初の視覚情報処理が行われますが、魚類では感覚機能の中枢機能は集中化しておらず、視覚中枢は中脳に、臭覚中枢は終脳に、側線感覚や味覚の中枢は延髄(脳幹の尾部側)にあります。従って視覚の発達した魚では中脳が、味覚の発達した魚では延髄が発達する、というように生活様式により発達部位が異なります。他方、鳥類では視覚や聴覚の中枢は中脳に、哺乳類ではすべての感覚中枢は終脳に集中化しています。中脳で目立つのは背側に位置する視蓋(視葉)です。硬骨魚類、爬虫類、鳥類、一部哺乳類ではこの部分が良く発達していますが、中でも特に鳥類や爬虫類の視蓋が良く発達しています。視葉はこのように魚類、両棲類、爬虫類では視覚系の主な中枢ですが、鳥類、哺乳類〜霊長類と進化するに従って、これと間脳大脳を結ぶ線維が発達して来る事になります。
 ちなみに哺乳類では中脳の視蓋に相当する上丘は通常7層構造になっていますが、鳥類の視蓋には15層もの細胞層があり、様々な情報を司っています。また魚類の視蓋には明暗の変化には応答しなく、動くものに特異的に反応するニューロンが見つかっています。なおこの型のニューロンでは垂直方向の動きよりも水平方向の刺激に応答するものが多いとの事です。
 また脊椎動物の後脳からは脳神経の中で最大の三叉神経が出ていますが、この神経はボアやクサリヘビ科のヘビでは特殊化し、ピット器官で赤外線を受容するように変化しました。カモノハシの吻部の電気受容器も同様です。このように、後脳、中脳、間脳や終脳はほぼすべての脊椎動物に見られますが、動物群により視覚情報の中枢は異なっているのです。
 なお、これら視覚情報をもとに生物の行動を統合判断しているのは終脳です。過去には鳥類〜魚類などでは、大脳に外套から発生する皮質がみられない事から複雑な思考等ができないと考えられていました。ちなみに鳥類の終脳は哺乳類の基底核(線条体)に相当するものです。しかし現在では、層状の皮質はないものの、外套に核状の神経細胞の固まりがあり、これが哺乳類の皮質に対応し、ほぼすべての脊椎動物は哺乳類の大脳新皮質に“相当する部位”をもっていると考えられています。
 従って、動物は、“刺激に対し素早く反応する中脳”と、“少し時間がかかっても慎重な、かつ持続する行動を可能とする大脳”の2つを使い分け、”生活に合わせて発達”させている事になります。次のAではこの視点から説明する予定です。他方で脳は非常にエネルギーを消費する器官です。人間の新生児では全身のエネルギーの74%を、成人でも約20%を脳で消費しているとも言われています。哺乳類や鳥類のような恒温動物では餌さえあればこのエネルギーを十分にまかなえますが、変温動物では大脳までは十分に維持できず中脳主体に活動する事になったようです。


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