まず前回までの復習をしてみましょう。哺乳類では、特に霊長類で大脳が発達しています。鳥類などには大脳皮質はありませんが、同じ機能は大脳に別の形で進化していると考えられています。鳥類、爬虫類、魚類では中脳や視床、特に視葉が発達しています。ここが古くから動物の神経中枢であり視覚中枢になっているのです。哺乳類では、ここは大脳への情報中継基地に変化しています。小脳は身体運動に関連していますが、魚類や鳥類、また哺乳類ではここが良く発達していますが、両性類、爬虫類などでは小脳は小さくあまり発達していません。このような動物種による違いとともに同じ種でも生活の仕方に対応して、脳の発達は異なっています。特に魚類でこのような多様性が見られますので、魚類を中心にどのような差異が出るのか、生活スタイルの側面からの差異を紹介したいと思います。
例えば、大きな中脳(従って視覚が鋭い)と大きな小脳を(運動機能に優れる)もつ魚は行動が機敏ですが、大きな中脳をもっても、小さい小脳をもつ魚は行動がおっとりとしています。前者の例としては群れるイワシ、サンマや捕食者のカツオといった魚が、後者の例としては、カレイ、キスなどの魚が属します。回遊をしたり、機敏な行動が必要な生活をしている魚では小脳が良く発達しているようです。また特に視葉(中脳)が発達している魚としてマイワシやウルメイワシ、ニシンがいますが、幼時にプランクトンを食する生活をしている稚魚(ウナギ、タラ等)では視葉が脳の中で最も大きくなります。但し、成長して生活形態を変えるようになると脳の他の部分が発達し、視覚重視の生活から移行します。終脳(従って嗅覚)が良く発達した魚の例としてはウナギやアナゴ、ウツボやマダイ、クロダイがいます。夜行性や暗い海で生活する魚では嗅覚の役割が大きいようです。
また小脳ではなく延髄(従って味覚や聴覚)が発達した魚にはコイ、フナ、タラなどがおり、やはり行動は活発ではありません。また延髄が発達している魚は終脳も発達している傾向があります。タラはこの代表例です。ちなみに小さい魚ではイワシのように群れるという特徴があります。動物が群れるためには仲間を認識する必要がありますが、この認識機能は終脳の扁桃体にあります。扁桃体は大脳の下に左右1つずつあるアーモンド形の神経細胞群です。脊椎動物では扁桃体、またこれと相同する領域が確認されています。
また、一部の動物では環境変化に応じて体色を変化する動物がいます。これらは別途、後日紹介する予定です。カモフラージュや仲間との情報交換等を目的として、この体色変化が起こりますが、体色変化を引き起こす原因にはホルモンの働きがあります(他に神経系の働きもあります)。神経系とホルモンとの接点は視床下部と下垂体の部分にあります。下垂体には腺性下垂体(前葉)と神経性下垂体(後葉)があり、前葉は分泌細胞ででき、前葉ホルモンを分泌しています。後葉は視床下部から伸びてきた神経軸索の集まりで、視床下部で作られた物質が後葉ホルモンとして貯蔵される場所です。黒色素細胞内のメラニン顆粒を分散させ、体色を変化させるMSH(メラニン細胞刺激ホルモン)というホルモンは、下垂体の前葉と後葉の中間部分(中葉)で作られます。魚類の下垂体では前葉と後葉のみで中間部がなく、両性類と爬虫類でこの中間部が発達してきます。鳥類ではこの中間部はなくなり、哺乳類でははっきりとした中間部はみとめられません。皮膚の角化層を発達させた爬虫類、羽根や毛をもつ鳥類や哺乳類ではMSHの必要性が薄れている事が伺えます。