MARKの部屋視覚や色と 動物の行動を話題にします

3.動物の体色・斑紋

動物の色素の色以外の役割

メラニンは非常に安定で分解されにくい物質ですが、その構造は特定されていません。またメラニンは細胞に光を照射した時に生ずる細胞内の遊離基を減少する働きがあります。メラニンに光があたると不安定な遊離基が生じ、これが酸素を消費するのです。このため、細胞中の活性酸素スーパーオキシドアニオンラジカルのスカベンジャーとして働き、細胞を保護します。
 
カロテノイドは動物では主に蛋白質と結合(カロチノプロテイン)した形で存在しています。またカロテノイドは光から生体を保護する必要のある重要な部位には必ずといっていいほど利用されている重要な色素です。体表の他に、眼、生殖器官、卵などには常に存在しています。酸素を生物が活用するようになって以降、常に危険な存在である、活性酸素という毒から生体を保護する物質として利用されてきた歴史がある事も関係しているように思われます。呼吸という観点で酸素の流通を考えてみると、肺や鰓が発達していない両生類や爬虫類では肺と皮膚呼吸が併用されています。このため、酸素が皮膚を直接通過します。昆虫も気門を用い、直接空気から酸素呼吸しています。このため、このような動物では皮膚にもカロテノイド色素が分布しています。
 
他方、皮膚ではなく主に肺で呼吸している鳥類や哺乳類では、カロテノイドは体内で必要となります。このためカロテノイド色素は内臓を中心に分布する事になり、皮膚では主に光に反応して活性酸素を消去するメラニンが、皮下組織(主に脂肪組織)では通常のようにカロテノイドが紫外線や活性酸素などから体内を守る二重体制がとられています。なお、感覚器との関係では人間の眼の黄斑や鼻の嗅上皮にはカロテノイド色素が含まれています。鼻に関してはカロテノイド色素が少なくなると嗅覚は鈍くなるとの事です。
 
フラボノイドは動物ではあまり利用が進んでいません。この物質は植物が陸上に上陸する際に、紫外線対策として開発した比較的新しい色素です。従って歴史的に動物では新たに利用する機会がなかったのかもしれません。ちなみに、節足動物より高等の動物はフラボノイドを分解する能力があり身体から排出してしまいます。
 
プテリジンはビタミンB複合体である葉酸から作られる代謝物で、現存する生物は核酸塩基中のプリン及びチミンの合成をこの葉酸に依存しています。逆に葉酸中のプテリジンは、核酸塩基であるグアニンを起源としています。高等動物は葉酸の合成ができず、植物や微生物による(ビタミンとしての)生産に依存しています。従って、色素細胞の色素としてプテリジンを利用する以前より、生物の必要機能としてプテリジンの合成能力が作られていたと推定されています。このようにプテリジンは動植物界に非常に幅広く存在していますが、プテリジンは一般に紫外線で強い蛍光を発し、紫外線のエネルギーを光に変換する事が知られています。
 
オモクロームやパピリオクロームは昆虫に特有の色素(オモクロームは頭足類にも見られます)です。これはトリプトファンというアミノ酸(蛋白質を構成する20種のアミノ酸の1つ)を分解する代謝経路を昆虫がもたず、これらの形にして過剰なトリプトファンを排出(過剰なトリプトファンは発育阻害を起こす)し、かつこの排出物を色素として再利用しているものです。似た話としては尿酸があります。鳥類や節足動物は老廃物である尿(窒素)を、尿素ではなく尿酸という水に溶けない形で排出します。シロチョウ科の蝶の翅にはプテリジンの他にこの尿酸が存在し、白い色の発現に利用しています。つまり、チョウは蛹の時の老廃物を色素として再利用しているのです。

ここで色素を一度整理してみます。動物で用いられている色素は大別して2つに分けられます。窒素を含有するか否かで大別されるのです。窒素を含有する色素には、メラニン、オモクローム、プテリジン、テトラピロール系色素(クロロフィルやビリン色素)などがあります。後述する予定ですが、テトラピロール系色素はクロロフィルやヘモグロビン、またこれらの分解物を含む色素です。一方、窒素を含有しない色素としては植物に広く分布するカロテノイドやフラボノイド色素で、このような色素を動物は合成できません



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