保護色の他に他の物になりきる擬態が知られています。以下少し御紹介します。
イ)両生類:カエルの擬態
ソロモンツノガエルやコノハガエルは体色が枯れ葉のように褐色をしており、また体側線が葉の葉脈のようになり、木の枯れ葉に擬態しています。またアカサンショウウオは毒の強いブチイモリのエフト(幼生が変態して上陸したもの)に擬態(ベーツ擬態)しています。両者ともに体色は派手なオレンジ色をしています。
ホンソメワケベラはサンゴ礁などに住む細長い魚で、白い体の中央に眼を含む黒い筋(縦縞)があります。幼魚は全体に黒く、眼から背中にかけて細いブルーのラインがあります。この魚は掃除屋として有名で、他の魚の体表の寄生虫や傷んだ皮膚などを取り除き(食べる)ます。このため、小型のチョウチョウウオから大型のアジなどもお客になり、魚食性の大型魚類に食べられる事はありません。ミナミギンポは他の魚を不意に襲い、体表やウロコをかじりとりますが、このミナミギンポの幼魚はホンソメワケベラの幼魚にそっくりです。ミナミギンポは成魚になると色模様がホンソメワケベラとは異なり間違われる事はありません。
ハ)頭足類
体色ではありませんが、イカやタコは墨を持ち、有効に活用しています。タコやイカの墨は、「セピオメラニン」と呼ばれるメラニンの一種です。イカ墨は良く料理で使われますが、タコの墨は中に天敵を麻痺させる特殊な成分が入っており料理にはつかいません。イカの墨は、このメラニンが塩類の化合物となり粘りをもち、吐出後、塊状となります。この形がイカに似ていることからダミー効果を果たすようです。他方、タコの墨は弾幕状に広がり、文字通り煙にまく役割をしています。なお、同じ頭足類でも生きた化石といわれるオウムガイ類は墨を持っていません。但し、ジュラ紀のイカやタコの化石には墨汁嚢があり、墨を既にもっていたようです。
ニ)昆虫:チョウの幼虫
アゲハチョウの幼虫は1齢の時には黒褐色をしていますが、2齢から4齢までは黒褐色に白色の帯が出て来、白い尿酸を含む鳥の糞そっくりになります。また5齢になるとまるまると太り、告Fをして食草の葉と見分けがつきません。
モンシロチョウなどの幼虫も告Fをし、食草のキャベツの葉に似た色をします。一方、タテハチョウの仲間で葉の色と異なり、黒い色をするものがいます(クジャクチョウの幼虫、4齢まで)。この種類では幼虫が多数集まり、集団となりますが、これは葉の“影”をまねています。
更に、アゲハチョウ科の幼虫は襲われた時に、背面の皮膚の下に隠していたオレンジ色の突起(臭角)を出します。頭部には眼状紋もあり、丁度、蛇が2股の舌を出しているように見せて、敵を追い払おうとします。この時、臭角からは独特のにおいも出され、これと相俟って鳥などは手(口)を出すのをひかえるようです。
なおチョウ類ではありませんが、ツノゼミの1種にも虫の糞に擬態する種があり、またナナフシでも尻の口を開けて、蛇に擬態する種がいます。