MARKの部屋視覚や色と 動物の行動を話題にします

2.植物の色

植物の葉・茎の構造と機能

 植物は動物と異なり、動けません。また光合成により自前で養分を合成できますが、これを動物に狙われています。このように、一定の場所で芽を出してからは、同種または他種の植物と競合し場所や空間(光)を確保するとともに成長に必要な窒素やリンなど栄養素の確保、また昆虫類などの草食動物からの防衛、さらに細菌など病原菌への対抗など生きて行くのに多くの労力を必要とします。さらに子を残すためには同一時期に同種間で受精させるというタイミングも合わせる必要があります。さらに運良く受精したとしても種が広く広がらなければより広く繁栄する事はできません。このように動物とは異なる多くの制約条件をもっています。植物については、まだまだ分からない事も多いのですが、まずその茎や葉の構造・機能について少し通常と異なった形で紹介したいと思います。

【植物の柱:茎の構造】

植物は年輪をもたない草と年輪を持つ樹木に大きく分かれるイメージがありますが、このように分けて定義されている訳ではありません。しかしここではわかりやすさを優先し、草と樹木に分けて説明してゆきます。主な陸上植物は、維管束を持っていますが、植物の組織は表皮系、維管束系および基本組織系にわけられ、根・茎・葉は全てこの3組織系から成り立っています。
 
表皮系 は植物体の表面を覆う組織で、表皮は表皮細胞、孔辺細胞 (気孔)、毛状突起 (毛や根毛) などから構成されます。植物体の外側に位置する表皮細胞では通常より特に細胞壁は厚くなり、その最外層はワックス層やクチンが侵みこんだ細胞壁からなる疎水性のクチクラ層で覆われています。陸生植物体表に存在するクチクラやワックスは主成分であるクチンが表皮細胞の細胞質内で生成され、それが細胞壁に移動したものです。葉などの表面はもちろんですが果物などの表皮にも見られ、撥水性を持つ事で病菌や雨水の浸透など、水分やガスの透過を防いでいます(葉ではガスや水分は後述の気孔から交換されます)。草木の体が緑色なのは、葉緑体のクロロフィルによるものです。
 
維管束系 は植物体の中の物質の通り道や植物体の支持を行う組織系で木部と師部からなります。木部は水や無機物質養分のパイプ、師部は光合成産物のパイプとして根や葉間の物質の通り道です。 表皮系と維管束系以外の部分は基本組織系です。これはさまざまな組織の寄せ集めです。葉の葉肉組織 (柵状組織や海綿状組織) 組織 やイモに見られるデンプンの貯蔵組織などさまざまな機能をもつものが含まれます。

樹木になるのはシダ植物と種子植物です。木、特に樹幹は中心から順番に、髄、木部、形成層、樹皮から構成されています。髄は木が若い頃の芽の部分で、成長に伴ってここを核として樹木は外側に大きくなります。木部は髄に近く、色の濃い心材と比較的色の薄い辺材からなります。また樹皮は最も外側にあり、堅くて表面がごつごつした外樹皮と、その内側の内樹皮に分かれ、内樹皮の内側に木の細胞工場ともいえる形成層があります。草本類は形成層を持たない、または、あってもあまり発達せず、茎は少し堅くなっても木質化しません。このため茎は太くなるよりも、先端が成長し高く伸びる方向に成長します。

   


 外樹皮は水分の蒸発を防止し、日光の熱や紫外線を防ぎ、風雨、虫などの攻撃から樹木内部を防御する役目を果たしますが、成長に伴い少しずつはがれおちます。
 木部の最外部に、根から吸い上げた水や各種の無機物を上に運ぶパイプである道管(針葉樹では仮道管)があり、また内樹皮に、光合成の産物や植物の成長ホルモン等を根に送る師管があり、形成層はこれらにはさまれた構造をしています。鳥や虫など動物が樹木に孔をあけてとる養分はこの内樹皮を流れています。またネズミやシカなども内樹皮をねらって樹木をかじります。日本の工芸で使用される漆もこの内樹皮部から取り出されています。
 植物は春から秋にかけてこの形成層で細胞を作りますが、春は大きく細胞壁が薄い細胞を、秋に近くなると小さく細胞壁は厚い細胞をつくります。このため成長に粗密ができ、年輪が形成されます。また形成層で作られた細胞の半分は次の細胞を生産するための母細胞となりますが、残りの半分は内側に送り出され、木部細胞に、また外側に送られる事で樹皮細胞となります。従って、形成層を中心にして、内外に成長する事で幹や枝が太く成長してゆきます。木部に送られた細胞は成長後、死を迎え木質化します。この
木質化が草花と木の大きな違いです。木質化の最初は細胞壁が次第に厚くなる事から開始されます。また次第に細胞にリグニンが貯まり、強度が増大しますが、木質化に伴い細胞の細胞質が消失します。このとき防腐・防虫・防菌剤として働くフェノールやフラボノ−ルなどの化学物質が細胞内に蓄えられ、色が濃くなります。なおリグニンは木には多量に含まれますが、草にはほとんどありません。またリグニンは、植物が傷ができたときに傷口を塞ぐためにも利用されています(木化)。木部の心材はこのようにして形成され、樹木の芯として風雪に耐える役目を果たします。なお辺材には道管と防虫等の化学物質をデンプンや糖などから合成する細胞をもっていますが、この細胞は木質化に当たり、道管を封鎖する役目も担っています。

我々が眼にするのは樹木の外樹皮ですが、これは草と異なりコルク質の多い死んだ組織です。内樹皮にコルク形成層ができ、この層の外側で細胞の細胞壁が肥大化し、死んで何層も積み重なって堅くなり外樹皮となりますが、外樹皮細胞もタンニンなど耐熱や水分蒸発防止、また防虫などの様々な化学物質を含んでいます。なお樹木の幹(茎)や枝は、若いときに一番外側を表皮で覆われ、その下に皮層という組織があります。この形態は草でも同じです。樹木は形成層の活動によって前述のように内側に木部、外側に師部を形成して肥大成長を続けます。その結果、表皮と皮層組織は裂けてしまい樹幹から剥離脱落してしまいます。したがって、樹木ではうんと若い幹や枝でなければ、草のような表皮は存在しません。樹木では代わりにコルク層からなる外樹皮が発達しました。従って、樹木では草などと異なり表皮の葉緑体クロロフィルによる緑色ではなく、死んだ組織であるコルク層の細胞壁やこれらに含まれる化学物質の色が出ています。

 【植物の感覚器と体内での情報伝達】
 動物は視覚・嗅覚・味覚や触覚などをもち、対応した各種のセンサーをもっていますが、植物ではどうでしょうか? 実は
植物の感覚器官は、形成層、成長点(上長、根)、葉がその役割を担っており、温度、光、化学物質による情報を捉えて個体全体を制御しているのです。但し、これらの器官は固定したものではなく、植物の成長により場所が変化することも動物と異なる特徴です。一方、植物は動物のような脳をもっていません。また神経系ももっていません。それでは、どのように体内での情報を制御しているのでしょうか?
 
高等植物では情報の移動は維管束系(道管、師管)を通じて行われていると考えられています。道管は木部にあり、死んだ細胞から構成されていますが、道管は根から吸収された水分、無機栄養分などの他に、根で合成された蛋白質や代謝されたアミノ酸、また根と地上部との情報をやりとりする物質が根から地上部へ移動しています。一方、師管は、生きた細胞から構成されており、葉などのソースと呼ばれる器官から糖(スクロース)やアミノ酸が、シンクとよばれる器官(未熟葉、花、子実など)へと移動しますが、この他に、花芽形成に関する情報、全身誘導抵抗性:SARに関する情報、地上部から根への情報などが移動しています。但し、動物の血液やリンパ系と異なり、循環系になっていない事が大きな違いです。なお、SARとは植物の免疫機構で、植物の葉などにウィルスが感染した時に、感染していない葉に、ウィルスに対する抵抗性が向上する現象等があり、同様に病原性のバクテリアやカビの感染や昆虫の食害などによっても引き起こされます。この系を利用する事により、各種の養分吸収が地上部からのシグナルで制御される等、地上部と根が情報交換を密接に行い植物は生長し続けると考えられているのです。

他方、生存し、繁栄するためには競争相手に対し優位に立ち、かつ環境変化に対して対応する必要があります。特に、動物は生きてゆくためには植物から栄養を得る事が必要です。従ってこのような動物からの食害に対してどのように身体を守るか、という事は大きな課題です。植物はそれだけではなく、生存・繁栄するために動物そのものも利用するようになりました。動物と同じく、“食う・食われない・子を残す”という観点から葉について次に少し考えてみましょう。

 【植物の生産工場:葉】
 葉の中の葉緑素により、水、CO2を用いて光合成を行い、植物は必要な化学成分を自前で生産しています。この光合成産物が生物圏を維持する基本になっていますが、この光合成に用いられる物質(光吸収物質)が植物の主要な色も決めています。葉は光合成を行う工場ですが、この葉を維持してゆくにはそれなりのコストがかかります。光合成の能力が老化により低下すれば維持するコストの方が大きくなり、新しい葉を付けた方が得です。老化の原因の1つには光合成の副産物として生成されるフリーラジカルの影響があります。また植物体周辺の光環境が変わったり、他植物との光獲得競争に勝って生存するためには、変化に応じて、より光を得られる部位に葉を付け替える方が得になります。このような事から、葉には寿命があります。これは落葉とは異なり、植物全体にとっての性質になります。
 
葉の寿命は、約1ヶ月〜10数年程度まで大きく異なります。この中で常緑樹木の葉寿命は長く、モミや松では長くモミ属のオオシラビソで13年という報告があり、松属では通常1年以上あります。一方、1年生の草本類では数十日と短くなり、多年生草本類でも100日以下の寿命です。また、シダ類では1年前後のようで、海藻類では数ヶ月〜1年程度です。
 葉には1層または多層の細胞層からなる表皮があります。表皮の表面は「ろう」成分と不飽和度の高い脂肪酸類の重合物質であるクチンからなるクチクラで覆われており、酸素、二酸化炭素などのガスや水蒸気を通しにくくなっています。特にブナやミズナラなどの常緑樹の葉では表皮は厚く、クチクラも発達しています。光合成速度は低くなりますが、物理的傷害から葉を護り、長い葉寿命で光合成生産量を多くする、という戦略を採用しているのです。一般に強い光を利用している植物の葉寿命は短く、弱い光を利用する樹木の葉寿命は長くなります。

 


 表皮の下には、発達した葉緑体をもつ葉肉組織があります。シダ植物では表皮細胞に発達した葉緑体がありますが、裸子植物や被子植物では表皮細胞は発達した葉緑体をもっていません。このため葉の光合成は主にこの葉肉組織で行われます。また双子葉植物では葉肉組織は柵状組織と海綿状組織にわかれ、葉の表側に柵状組織が、葉の裏側に海綿状組織があります。また葉には維管束である葉脈があり、水分や無機栄養を根から供給する木部と、葉で生産された有機物は師部により植物体各部に輸送されています。葉内部の細胞間隙は木部から供給される水分でほぼ湿度100%の空気で満たされています。ガスや水蒸気は気孔を通して葉に出入りしますが、気孔は通常、葉の裏側にあり、水分の蒸散や空気中のCO2の取り込みを行っています。
 光合成という観点で葉の構造を考えると、葉緑体に十分なCO2を供給するためには、内部の空隙率を高め、葉肉細胞や葉緑体の表面積率を大きくする必要があります。つまり1つ1つの細胞を大きくするよりも細胞サイズを小さくして表面積を大きくする方が光合成にとって有利となります。樹木の種類によってもこのような差異が見られ、ミズナラやイタヤカエデではクチクラが厚く、葉内部の空隙率は少ないのですが、ドロノキやケヤマハンオキではクチクラ層は薄く、葉肉細胞の表面積が大きいためミズナラ等に比べ光合成速度も高くなっています。
 また、一般に
樹木では葉の細胞のサイズは小さく、草本類では大きいという差異があります。草本類、なかでも1年生のものは葉を素早く展開し葉面積を大きくして光合成を行う必要がありますが、素早く展開するには、細胞壁を薄くするとともに、ある程度細胞分裂の回数を抑え、細胞を大きくする方が有利です。但し、細胞を大きくすると、前述のように表面積率が小さくなり、CO2を十分に行き渡らせる事が困難です。このため多くの1年生草本類では葉の両側に気孔を設けています。
 それでは次に開葉の仕方について見てみましょう。葉の伸び(開葉)方を見てみると、短期間に葉が一斉に一気に伸びる方式と長期間にわたり順次にのびる方式の大きく2つの方法が見られます。落葉広葉樹では、前者はブナ、後者はポプラが代表例として知られています。ブナ型は前年に貯蔵した養分を一気に使って伸びるタイプです。一般には一斉開葉型と順次開葉型と呼ばれます。従って、植物により、また時期により若い葉と古い葉の存在量が異なる事になります。また種子サイズと開葉の仕方も関係があり、種子サイズが小さいものは順次開葉型になります。
 動物による食害も葉の寿命という点では見逃せない要因ですが、
若い葉が明らかに被食され易いという結果が出ています。一斉開葉するブナでは開葉直後の5,6月に食害が集中しています。ミズナラ(一斉開葉型)でも開葉から30日以内に食害の90%が集中し、葉が堅くなると食われにくくなるとの事です。植物はこのような食害からの防御策を下記の様に開発しました。

@    物理的防御:葉を堅くする。棘・針や毛を身にまとう

A    化学的防御:フェノール類やアルカロイド類を葉内にもつ。この場合、常時持つ場合と被害を受けてから合成する場合の2種類がある。

B    生体防御:アリなどの動物を、報酬を与える事で雇い、他動物から防御する

これらについては別途紹介しますが、特にAについては草食昆虫の体色とも関連してくる事になります。更に、これらの防御策は葉の維持コストとしても考える必要があります。また開葉を一斉に行う事も1つの防御策と考えられます。なお、ブナについて調べた報告では、葉の被食面積は、葉の生産量全体の数%、多くとも5%以下であるようです。
 最後に、光合成についても、関連して考えてみたいと想います。
光合成は葉が出現し、十分に展開したところで最大になり、その後は時間とともに低下します。最大になる時期は、草本類の開葉直後から常緑樹の1年までと異なりますが、最大期を迎えたあとは時間経過とともに低下する事になります。一般に光合成速度が高い葉は寿命が短い傾向があります。また光合成を活発に行っている葉には窒素が多く配分されています。このような分布を最適に保つには個々の葉が自分の状況を感知し、その状況に合わせて調節する機構が必要となります。個々の葉では糖(グルコース、スクロース)濃度をモニターする事でこれを実現しているようです。糖濃度が低いと、自分の生産物が他に多く流れている事になるために、多くの窒素を必要とし、糖濃度が高いと、流失が少なく、多くを必要としないのです。



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