MARKの部屋視覚や色と 動物の行動を話題にします

3.植物の色

植物の花

 既に述べたように、花は約1億年前に出現しました(完全な花の化石は白亜紀初頭の地層から見つかっています)。花は被子植物に特徴的ですが、実は花は葉から進化したものです。従って、基本的には葉の特性を持っています。被子植物では、花軸を中央に、下から、外花被(萼)、内花被(花弁)、雄蕊、雌蕊が配列されていますが、花は被子植物の生殖器です。花の発現にはA、B、C3群の遺伝子が関係しており、各々の遺伝子の組み合わせで

              A:外花被、A+B:花弁、B+C:雄蕊、C:雌蕊

のように各部位が形成されます(これをABCモデルといいます)。このA,B,Cの遺伝子をMADs-box遺伝子といいますが、この遺伝子は被子植物だけにあるのではなく、裸子植物やシダ・コケ植物にも確認されています。既に存在した古い遺伝子を活用して自然は花を作ったといえるでしょう。これは昆虫の翅の形成についてもいえます。
 さてそれではなぜ花弁には告F以外の色が主に形成されているのでしょうか?確実な所は不明ですが、被子植物が出現する前には裸子植物が主な植物として栄えていました。陸上に上陸した植物の大きな課題の1つはどのように生殖を行うか、という点でした。裸子植物はこの点を解決する方法としてシダ植物の胞子のように、大気の流れを利用しました(風媒花)。精子と卵子をそれぞれ花粉と胚珠の中に納めて乾燥対策をするとともに風で花粉をばらまき胚珠先端に運ばれた花粉で受精する方式です。
 しかしこの方法は、裸子といわれるように卵が完全に表皮で覆われてはいない事や、卵もゆっくり時間をかけて成熟するという問題のある方式でした(現在でも針葉樹では球果ができてから種子の放出までには約3年近くの年月がかかっています)。また風任せでもあり大量の花粉が必要となり効率が非常に悪い生殖方式です。被子植物はこれを改良し、昆虫を使い効率に花粉を媒介させる方式(虫媒花)を編み出します。また卵(胚)を表皮で多い乾燥対策をするとともに卵を成熟させたうえで受精させ、分化スピードを速めました。
受粉のために虫を呼び寄せるためには広告塔が必要です。このために作られたのが“花”という器官です。昆虫の眼は解像度が悪く、形で呼び寄せるには無理があります。このため形ではなく、色彩で呼び寄せる事になったものと思われます。
 また虫を確実に呼び寄せるためには“ご褒美”が必要です。このために“花蜜”も開発されました(最初は花粉自体が昆虫の食料だったようです)。一方、花は生殖器です。紫外線自身も有害ですが、酸素がある環境では紫外線により活性酸素が発生し易くなり、これも防止する必要があります。植物はこの目的のために酸素発生型光合成で使用しきてきたカロテノイド色素と陸上に上陸するに当たって開発したフラボノイド色素を主に活用しました。いずれも紫外線を防止や抗酸化作用を持っています(最初の花の色は“白”だったようです)。このような経緯で、被子植物と昆虫の間に視覚をベースとした共生関係が確立し、相乗効果でお互いの種が地上で大発展する事になります。またこの共生関係は今では鳥類やコウモリなどの哺乳類も含め、花や果実も含んだ関係にまで広がりました。このような共生関係は、あくまでも昆虫や鳥類の視覚と花や果実の色をベースに考える必要がある事は言うまでもありません。なお、このような共生関係を担う昆虫のグループは完全変態を行う4つに分かれています。@膜翅目。これはハナバチやアリが代表例です。特にハナバチは幼虫、成虫ともに花粉や蜜のみで生育します。A双翅目。アブやハエが代表例です。B鱗翅目。いわゆるチョウやガです。C甲虫目。コガネムシ、ハムシなどです。なおハエや甲虫などでは臭いにより花に誘因されているケースも見られます。



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