MARKの部屋視覚や色と 動物の行動を話題にします

2.植物の色

花色−赤・青色他

赤色や青色:これらの色を出す色素はアントシアニンと言われるフラボノイド系の色素が主に使われています。これらの色素は通常560nm〜600nm付近に光の吸収極大をもっています。アントシアニン色素は通常、糖と結合して液胞中に存在していますが、溶液が酸性かアルカリ性かにより出現する色が異なります酸性:赤色、アルカリ性:青〜告ツ色)。また結合している水酸基などの数によっても青味や赤味が変化します。ゼラニウムの橙赤色はペラルゴニジン、パンジーの紫色はデルフィジニンというアントシアニン色素で出現しています。アサガオやアジサイの青色もこのデルフィニジンによります。最近作られた青いバラはこのデルフィニジン色素を元に開発されました。
 アントシアニンは濃度やpH、熱、また共存している物質の影響を受け易く容易に変色や退色を起こす不安定な物質です。アントシアニンは液胞に存在すると前述しましたが、実は通常、液胞のpHは5程度と弱酸性です。従ってこのままでは青い色は出現しない事になります。青い花では、何らかの機構が働いて青い色が出ているのです。
 単純に液胞がアルカリ性となり青い色が出る特殊例としてはアサガオがあります。アサガオの場合、開花数時間前に液胞のpHが6.6から7.7程度に変化し、赤いつぼみが青い花を咲かせます。このようにアサガオでは液胞のpH(つまりは土壌のpHも関係)により赤や青の花が咲きます。
 一方、青いケシの花などでは液胞のpHは5程度と通常範囲にあります。これらの花弁や花には鉄Fe3+イオンやMg2+イオンが含まれており、このようなイオンとアントシアニンが錯体を形成し、またフラボノールが色変化を助ける助色素となって複雑な分子構造を作る事で青い色を出しているようです。またムラサキツユクサやヤグルマギクの花弁の青い色もアントシアニン分子とフラボンとが金属イオンを中心とした構造を作り発色しています。このように青色の発色機構は多様のようです。
 またアントシアニンを合成する能力を持たない植物、たとえばオシロイバナやケイトウ、サボテンなどのナデシコ科の花ではベタレインというアルカロイド系の色素が用いられてます。但しこれらの植物でもフラボンやフラボノールといった色素は花弁や葉で合成しています。なおベニバナの赤い色はカルコン色素によります。このように何事にも例外はあるようです。
 一方、色素を組み合わせて色を出している植物もいます。バラの朱色はシアニジンやベラルゴニジンというアントシアニン色素とカロテノイド色素により出ているのです。ガーベラ、キンセンカ、ヒマワリやガザニア、マリーゴールドなどのキク科の赤や橙、黄色も同様です。
 赤・紫や青色の花を好む動物としてはミツバチ、蝶、鳥がいます。ミツバチや一部の蝶は赤い色は見えませんが鳥類やアゲハチョウは赤い色がみえます。
黒色:自然界には黒い色素はなく、大量のアントシアニン色素が含まれる事で黒く見えるようです。またこれらの花では表側の表皮細胞は細長く伸びた釣り鐘型をしている事が多く、光の影を多くする事で暗さを増大させています。
 黒い花としてはチューリップ、パンジーやバラ、椿などが知られています。ハエは特に黒い花を好むようで、徳川氏の紋に象徴されるフタバアオイは褐色の花をしていますが、これはキノコバエにより受粉します。黒や褐色は排泄物と同じ色のために間違えて産卵等をしているようです。また中には腐臭を発する植物もみられます。
告F:この色の花はクロロフィルを含んでいます。告Fに花は数が少ないのですが、代表例としては八重桜の中の“御衣黄”があります。

 以上、花の色を色々述べてきました。日本に自生している“野生”植物では白と黄色が多く、各々3割程度を占めています。この次に多いのは青、青紫などで約2割程度で、赤や橙色などの赤系統の色は少ないのが実情です。但し、花屋さんの店頭には赤系統の色の花が多く出回っています。これは人間が野生種とは異なるものを造りあげた事によります。また野生植物にはアントシアニンとカロテノイドの両方の色素を花弁に蓄積するものはありません。両方を造り出すのはコストもかかり、鳥や昆虫などの送粉動物に視覚で訴えるには1種類の色素で十分であったようです。
 一方、花の色は単一色である事は少なく、異なる色が組み合わさっている事が多いようです。但しこれは人の眼ではなく送粉動物の眼で認識できる色の多様性です。例えば、人の眼にはマツヨイグサの花は一様に黄色に見えますが、蜜を蓄える花の中心部の周囲に紫外線を反射しない独特のパターンがあり、それが蜜のありかを教える役割(ネクターガイド)をしています。アブラナやツツジの花なども紫外線吸収による顕著なネクターガイドを持っています。このようにミツバチやチョウ類など昆虫が訪れるほとんどの花には主にフラボノイド色素による紫外線の反射吸収のパターンがあります。このパターンは小型よりも大型の花に、また風媒花や鳥媒花よりも虫媒花により一般的です。殆どの昆虫が300nn台の紫外光を見る事ができる事を植物は利用しています。
 また花蜜についても送粉動物に合わせた対応が工夫されています。花の蜜は、ショ糖、果糖、ブドウ糖の3種の糖で主に配合されており割合は植物により異なります。ハチドリや口吻の長いハナバチにより送粉される花の蜜はショ糖の含有比率が高く、コウモリや口吻の短いハナバチ、メジロやウグイスなどの燕雀類により送粉される花ではブドウ糖の比率が高くなっています。鳥類では特にメジロ、ウグイスやヒヨドリは花の蜜が好きでくちばしやその根本に花粉をいっぱいにつけています。
 またミツバチなどは濃い濃度の花蜜を、ハチドリでは薄い濃度の蜜を集めるようです。このような違いは送粉動物の消化能力の差異や、運搬に要するエネルギー等が関係しているようです。ちなみに蜂蜜の色は採蜜する花により異なります。レンゲやアカシアの蜜は淡黄色、リンゴでは少し黄色が濃くなり、びわやラベンダーでは黄金色に、サクランボやブルーベリーではもっと濃く、赤褐色になります。淡い色の蜂蜜はあまり癖がありませんが、濃くなると、かなり癖がでてくるようです。



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