MARKの部屋視覚や色と 動物の行動を話題にします

3.動物の体色・斑紋

貝や卵の殻の色

最後に貝殻や卵の殻の色について述べてみたいと思います。
 カンブリア紀に開始した“
バイオミネラリゼーション”により生物は無機物質を大量に利用するようになりました。組織の一部を硬くする事により、生体を保護し、支える事が目的です。原生動物や海綿動物ではケイ素Siも用いられていますが、最も良く使用されているのはカルシウムCaです。海水に多く含まれている事(因みに土壌ではケイ素の方が断然多く含まれています)、また生体活動の廃棄物である二酸化炭素とカルシウムで容易に炭酸カルシウムの殻を作れる事もその背景にあると思われます。なお深海の熱水噴出孔でのみ見つかっている巻貝(スケーリーフット)は黒い殻の表面や鱗に唯一、Fe(硫化鉄)を含む生物です。
 サンゴ礁は海洋の約0.2%を占めているにすぎませんが、そこには全海洋の5%に相当する約10万種の魚介類が生息していると言われています。また約5億年前から形成され、サンゴは褐虫藻と共生し大量の二酸化炭素を炭酸カルシウムとして固定するのに大きな役割を果たしてきました。通常は水深30mまでの有光層に生息していますが、赤サンゴは日本では高知沖の数百mの非常に深い所で棲息する稀少な生物です(赤サンゴと通常のサンゴは種類が異なります。またサンゴの骨格の結晶構造も異なっています)。通常の
サンゴの色は褐虫藻の光合成色素(フコキサンチン)の色と,サンゴそのものが作る色素が重なってできます(但し、赤サンゴなどのいわゆる宝石サンゴは褐虫藻と共生していません)。通常のサンゴ(造礁サンゴ)が棲息している低緯度の浅い環境は、紫外線が非常に強い環境です。浅い海に住むサンゴなどでは強過ぎる紫外線から体を防御するため紫外線を吸収する物質と紫外線を他の波長(青〜赤色)の光に変換してしまう蛍光蛋白質をもっています(エダサンゴは光を強いオレンジ色の光に変換しています)。また逆に、比較的深い所に住むサンゴはこの蛍光タンパク質を用い、褐虫藻の光合成に役立つ波長の光を増やしています。宝石サンゴとして知られる八放サンゴのアオサンゴ、クダサンゴ、ハナカンザシの仲間の黄、紫、赤色色素はカロチノイドによるものではなく、アオサンゴではビリン系色素により色が出ています
 魚類や両性類の卵は小さく、栄養分はわずかしかありません。カエルやイモリなどの両生類では卵はゼリー状物質にくるまれており、産卵は水中で行われますが、爬虫類は、水分を内蔵した卵を発明しました。胚は大量の養分を含む卵黄とともに水分蒸発を防ぐ丈夫な卵殻に包まれて産卵されます(卵殻は二酸化炭素などの気体ガスは通します)。鳥類もこの体制を引き継いでいます。また胚の成長により排出される窒素老廃物は魚類の様にアンモニアから尿酸に変化させ水に溶けない工夫がされました。卵殻により胚が成長する間、乾燥の危険から防止できる事また、水場を離れて産卵できる事が実現できたのです(但し亀の卵は比較的柔らかく、水分保持能力が低いために水分の多い場所で産卵します)。
 ウズラやニワトリなどの鳥類の卵殻、また軟体動物の二枚貝や腹足類の殻など、
カルシウムが沈着した殻にはポルフィリンやピリン系の色素つまりテトラピロール系の色素が広く蓄積し、褐色、告F、青色などを発現しています。貝類の名前、シロガイ、アオガイ、ムラサキガイ、ベニガイなどはこの貝殻の色にもとずいて付けられています。
 鳥類では卵殻は輸卵管の最終部にある卵殻腺部/子宮部で炭酸カルシウムが沈着する事で形成されますが、卵殻の色はこの時につき、卵は膣部/総排泄腔から排出されます。卵殻の色は動物種により異なります。
 
ポルフィリンはピロール環が4つ環状に並んだ物質です。直線状につながったものをテトラピロールといいます。ポルフィリン環の中央に金属の鉄が存在するものが酸素を運搬するヘモグロビンで、マグネシウムの場合は植物のクロロフィルに、コバルトの場合にはビタミンB12になります。またヘモシアニンでは銅が使われており、これはエビやカニなど甲殻類やイカ・タコなどの軟体類に存在しています。ヘモシアニンは酸素と結びついていないときは無色ですが、酸素と結合すると青色を呈します。貝類の中ではアカガイは殻ではなく肉の色で名前がついています。貝類の多くの血液はヘモシアニンですが、アカガイやハイガイは例外的にヘモグロビン系の赤い血をもっているのです。このようにポルフィリンは非常に広範囲に存在する物質です。ポルフィリンは最も簡単なアミノ酸であるグリシンを材料に合成されます。またポルフィリン環を分解する事でビルベルジンなどのビリン系色素が作られます。脊椎動物のヘモグロビンは分解されて胆汁色素になりますが、哺乳類ではこれを体色には使用していません。ちなみにビルベルジンは告Fを、ビリルビン(胆汁色素)は橙色をしています。人間では古くなった赤血球が脾臓でマクロファージにより活性酸素で壊されますが、この時、赤い色からブルーのビルベルジンとなります。この後で酸素により黄色のビリルビンという物質に変換されるのです。
 人の赤ん坊は胎内で胎盤から効率良く酸素を受け取るために赤血球を多くもっています。生後、この余分な赤血球を分解する際に大量のビリルビンが生じますが、ビリルビンは胆汁成分として腸管から排出され便に混ざります(このビリルビンは神経毒で新生児黄疸が重症の場合には脳障害を引き起こします)。赤ん坊の便が黄色なのはこのような理由によります。成人ではビリルビンは腸に排出された後で腸内細菌などで各種の化学変化をうけ茶色になります。これが大便の色となります。
 このように体色にビリン系色素が関係する場合には体内のヘモグロビンが関係したり、餌の藻類に由来する場合がありますが、
バッタやスズメガではこの色素を生合成しています。
 ニワトリでは赤玉や白玉などといわれますが、
赤玉などの褐色卵には、プロトポルフィリンを主体とする色素が含まれています。このプロトポルフィリンは、卵殻ができた後で、卵殻色素プロトポルフィリンとして卵殻に沈着するようです。南アメリカ(チリ)原産のアロウカナという鶏は、青色の卵を産みます。この青色色素は胆汁色素のビリベルジンといわれ、プロトポルフィリンが卵殻の表面に存在するのに対して卵殻全層に存在しています。また、既述のように、草食昆虫ではビリン系色素は幅広く存在しています。なお紅藻などには赤色のフィコエリスリンが、珪藻には青色のフィコシアニンなどのビリン系色素が光合成色素として存在し、これらを餌とする動物にはビリン系の色素が見られます。
 なお
ウニの殻や刺は、マグネシウムを含む炭酸カルシウムから出来ています。この骨部分は紫や褐色の表皮に覆われています。この色はテトラピロール系の色素ではなく主にキノン系の色素とカロチノイド色素による色です。キノン系色素は植物では一般的ですが、動物ではウニ類の大部分とナマコ類の一部にしか存在していません。またウニを餌として食べるラッコの骨にはキノン系色素があり、紫やピンク色を呈しています(体色には出ない)。ウニなど動物で何故キノン系色素が用いられているのか諸説あるようですが、まだ不明です。一方、植物の葉、種子、根や樹木などにはキノン系色素は広く存在し、過去には染色に良く使用されていました。また漢方薬の“紫根”に含まれているシコニンやビタミンKもキノン系の物質です。
 一方、
棘皮動物のヒトデの殻にはカロチノイド系色素が存在しています。アスタキサンチンという名前の色素は最近サプリメント等で有名になっていますが、このカロチノイド系色素は最初ヒトデで見いだされました。



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