3.動物の体色・斑紋
節足動物1
節足動物には、甲殻類と昆虫、またカブトガニ、クモやダニなどの鋏角類が含まれます。全ての節足動物は表皮(真皮)細胞から分泌されるキチンとタンパク質からなるクチクラを有し、このクチクラは局所的に硬化し外骨格を構成しています。この外骨格は通常3層構造になっていますが、昆虫と甲殻類ではクチクラの基本的な化学組成、また最も外側のクチクラを除いた内側の2層のクチクラ層がキチン繊維のラセン構造をしている等の構造が同一です。この堅い骨格(殻)を持つために、成長して大きくなるために節足動物では脱皮が行われます。昆虫では特にこの脱皮前後で体色が大きく変化する事があります。なおクモ類も脱皮しますが、昆虫と異なり、変態はせず、子グモは親グモと同じ形をしています。本節では節足動物の代表例として外骨格で色を出す甲殻類と、表皮構造が複雑に組み合わさり色を出す昆虫について述べてゆきます。なお、節足動物ではユーメラニンは確認されていますが、フェオメラニンの存在は確認されていません。
1)甲殻類:
甲殻類にはエビやカニ、ミジンコなどが属します。甲殻類は外骨格をもち、この外骨格に色がついています。外骨格はクチクラにカルシウムが沈着して堅くなっていますが、甲殻類のようにカルシウム分を殻にもつ場合、脱皮前には、まずカルシウムが体内に回収され(エビでは胃の中に回収)、脱皮後にこのカルシウムをも再利用して、新しい殻を硬化させます。またクチクラは一般に蛋白質とキチンを主成分とし、他に脂質なども含まれます。エビやカニの甲羅の成分は種類により異なりますが、通常、キチンが30%前後、カルシウムが30%、タンパク質が30%程度といわれています。ちなみに、鳥、魚類、昆虫は腸内細菌によりキチンを消化できますが、人は消化できません。
甲殻類の多くは黒、紫、暗い赤色や褐色、青や香Aまた灰色など多彩な色をしています。多くの場合、色素や色素胞が体表に点在していますが、外骨格や表皮に最も広く分布しているのは餌の藻等経由のカロチノイド色素(アスタキサンチン)とこの色素がタンパク質と結合した物質(カロチノプロテイン)、またアスタキサンチンのエステル体などです。錐体の視物質と同じようにカロチノイドがタンパク質と結びつく事で、光の吸収帯が大きく変化し、カロチノプロテインは青から赤色までの幅広い色を発現する原因になっています。エビやカニではアスタキサンチンがタンパク質と結合して赤い色を呈し、アメリカザリガニでは青、紫、赤色を呈する3種のカロチノプロテインがあり、これらの量的割合の差異で外骨格の色が異なります。
甲殻類の色素胞には黒・褐色、黄、赤、白色素顆粒を含む色素胞と、単色の色素細胞が複数集まった、多色の複合体が見られます。また色素胞自体が強い光に直接反応し、色素顆粒の拡散を行う例も知られています。また眼からの刺激により体色が変化します。多色の複合体は一時は1つの細胞の中に複数の色の色素顆粒が含まれていると言われたことがありましたが、電子顕微鏡の観察により、多数の異なる色素胞が集まった複合体である事が分かりました。車エビの仲間やテナガエビ類では、青、白、赤、黄の4種類の色素顆粒が集まった複合体が、エビジャコ類やタラバエビ類では、黒、白、赤、黄の少し異なる色素顆粒をもつ複合体が見つかっています。赤や黄色の色素顆粒は前述のようにカロテノイドにより、青色素顆粒もカロテノプロテインによるもののようです。また黒色素にはオモクロームを含むものもあるようです。このような複合体では、色素顆粒の凝集・拡散で体色が変化しますが、色素顆粒は皆同じ方向に移動するのではなく、色素顆粒毎に独立して移動します。また甲殻類の白色素胞は特に運動性が顕著です。テナガエビ類の多色性複合体中の白色顆粒は0.1〜0.9μ程度の大きさの球形をしています。
また、エビやカニの血液は青い色をしたヘモシアニンで、人などのヘモグロビンを同じ構造をしていますが、鉄の代わりに銅と結合しています。軟体動物もヘモシアニンをもっていますが、軟体動物と節足動物のヘモシアニンではタンパク質の構造や活性部位などの反応性が異なり、別の物質になっています。
エビにはエラがありこの部分に血液が多量にありますが、長く空気に触れているとヘモシアニン自体が作用してチロンからメラニンを生成し、頭部が黒くなります。この黒い色が鮮度を判断する指標に使われています。また甲殻類では単色の色素胞が複数集まり多色性の複合体となったものも多いという特徴があります。
いろいろな体色のエビやカニを茹でると通常、赤くなりますが、これはゆでる事でカロチノプロテインが熱により赤くなったり、タンパク質からカロチノイド色素が遊離等する事で赤くなるようです。
ミジンコではアスタキサンチンの他に、体液にヘモグロビンを有しています。クルマエビは大型のエビで食用として利用され、世界中で養殖されています。甲羅にアスタキサンチンがありますが、飼料の中に含まれるアスタキサンチンの量により体色が異なる事が知られており、飼料の配分に工夫がなされています。
ワラジムシの仲間のヘラムシは赤、高竓倹Fなどの色を呈していますが、クチクラや真皮に存在するカロチノイド色素により異なる色を呈しています。
このように、甲殻類では食物経由のカロテノイドにより体色を出しているため、食物中のカロテノイド量によっては、脱皮の前後で体色が変わる事があります。
2)クモ
クモは次に説明する昆虫とは別のグループの生物です。脚の数(6本ではなく8本)、頭部と胸部の境界が不明、触角がないことなどが昆虫との大きな違いです。クモでも主として、色素によって体色が発現しています。黄色から赤色はオモクローム類、緑から青色はビリン系の色素、白や虹色はグアニン、黒色はオモクローム類の色素が使われています。ビリン系の色素は体液中にも存在しています。グアニン結晶は窒素の排出物ですが、紫外線をよく吸収し、身体を保護する役目も果たしているようです。
一方、ハエトリグモのように表面の毛の干渉効果でメタリックな輝きを出しているものも存在します。クモ類では体色変化はしませんが、グアニン細胞(グアノサイト)を収縮させて暗色になる種はいるようです。
copyright©2011 Mark Pine MATSUNAWA all rights reserved.