次に視覚と行動の関係を見て見ましょう。代表的例は昆虫の視覚を利用した植物の生殖活動です。この関係は良く共生と呼ばれ、ともに進化して来たといわれています。植物の側から考えると、昆虫や鳥が眼で見つけやすい広告塔(花)を作り、これを目印として動物に来てもらい、受粉に協力させる事、このために報酬として花粉や花蜜、果実を用意し、動物の訪問回数を確実に増やす事が最も良い戦略です。一方、動物の立場からは、できるだけ労力を使わずに、必要な餌(報酬)を得る事が最も良い戦略になります。従って、植物と動物、各々の戦略は必ずしも一致はしませんが、それぞれが受粉と餌という観点で費用対効果を違いに高めながら進化してきたようです。植物側にたってこれを整理すると、
イ) 昆虫や鳥などの送粉者(ポリネータといいます)に目立つ色や形の花をもつ
ロ) たくさんの花を同時に咲かせ目立たせる
このような花がまず最も受粉のチャンスが多いと思われます。動物により視覚の特性が異なりますので、送粉者に合わせて花の色を作り、また送粉者だけが蜜にありつけるように花の内部構造を変える事がおこなわれます。ちなみに、ハナバチでは、”報酬の有無によらず、最初は見た目の大きな花に訪問する傾向が高く、また花の数が多いほど、同じ個体が訪花する回数が増える”という結果が出ています。また多くのポリネータは遠距離から花色を識別できず、花の近くまでこないと個々の色が識別できません。このため多数の花が咲く事は目立たせる効果があります。但し、見た目が良くても中身(報酬)がなくては繰り返して振り向いてもらえません。何やら男女関係にも似た気ががします...。
ミツバチやハナバチでは紫外線が見えるものの赤い色が識別できない事から、ミツバチで受粉する花は、白や黄色の花が多く、アゲハチョウなどでは赤い花への訪花が、夜行性のガやコウモリなどでは白やクリーム色の花色への訪花が多くなっています。さらにハエでは黒褐色の花色への訪花が多くおこなわれています。
また昆虫の目でみて蜜の有り場所を明確に示す、“ネクターガイド”も花についています。また花色と併せて臭いも利用される事もあります。ハナバチをポリネータとする植物では甘いにおいを、またハエ類をポリネータとする植物では腐臭を出す例(ハナシノブ)が知られています。但し、鳥をポリネータとする植物はにおいを出さない事が多いようです。これは鳥類は嗅覚があまり発達していない事に関連していると思われます(鳥類の脳に関する記事参照)。