MARKの部屋視覚や色と 動物の行動を話題にします

3.動物の体色・斑紋

構造色3

ホ)光の干渉:鱗片の構造色

チョウやガなどの鱗翅目の鱗片は翅のみに存在するのではなく、屋根瓦のように違いに重なりあって体表全体をくまなく覆っています。1枚の鱗片は上下の膜層と、その間を支えるトラベキュラといわれる支柱部からなり、通常は上下の膜層間に色素粒が存在し、この色素粒で鱗片の色が作り出されています。この色素の量や鱗片のサイズは、特に蛹期の温度によって変化し、春型や夏型などの変化がみられます。下層膜は基本的になめらかですが、上層膜は複雑で、障子の桟のように、背の高いリッジとそれを直角に接続しているリブによる格子構造をしており、格子で囲まれた開口部から中の色素粒が見えます。ただし、コバネガなど原始的な鱗翅目の翅では上下の膜が融合し空間は存在していません。

 
 
(鱗翅目の翅表面鱗粉の典型的な微細構造:Ghiradella & Radigan,1976より)

普通の鱗片には2種類あり、2種類の鱗片が交互に1列に配列し、一方が下側に(下層鱗)、他方が上側に位置(上層鱗)し下側の鱗片の大部分を隠しています。特に翅中央部分はこの2種の鱗片により構成されており、このため翅の上面からは上側の鱗片色が主に見えています。下側の鱗片は一般にメラニン色素を多く含んでいます。この他に、シロチョウ科などの雄には発香鱗を持つ種類があり、フェロモン物質をもっています。
 なお、
鱗片による構造色はおもに上層や下層鱗どちらかのリッジやトラベキュラの構造変化によるものです。
 
シジミチョウではリッジが発達せず、鱗片の下部のトラベキュラが層状構造をしています。ムラサキシジミではこの層が4〜5層、ルリシジミでは3〜4層積層し、多層膜による干渉効果で紫色や青色を出しています。トラベキュラの層にはランダムな穴があいていますが、この穴により干渉光が拡散し、鈍い色合いを表現しています。通常シジミチョウは枝先でこの美しい前翅を開いて止まっていますが、鳥に襲われると独特のめまぐるしい飛び方で捕食を避け、逃げた先で翅を閉じる事で色彩が急に消えて姿の手がかりを隠してしまいます。
 マダガスカルにニシキオオツバメガというガが生息しています。このガは昼行性で有毒性です。通常の有毒蛾の例にもれず、派手な色をしており、世界でもっとも美しいガ、ともいわれています。このガは翅の表裏両面で構造色をもっています。前述の上層鱗が湾曲し、そのトラベキュラ(支柱部)が2〜6層程度の層構造をしています。ちなみに裏側の赤紫の部位ではクチクラが170nm、空気層が130nmの厚みを持っています。湾曲した頂上部分で直接反射により赤紫色に、またその周囲では隣接鱗との二重反射により緑色をしています。また二重反射した部分では偏光により光の強度が大きく変化します。このガの場合、派手な色は警告色とも思われますが、このような色彩と視覚やコミュニケーションとの関係はまだ不明です。なお下層鱗はメラニン色素で黒い色をしています。
 また有名なモルフォチョウでは背側で構造色を示しますが、背側では下層鱗のリッジ部が2μ程度に高くなり、5〜10段(段と段は0.2μ程度の間隔)の細長い棚構造をしています。各棚は基盤の膜に対し若干傾いており、棚に当たった光は回折して棚の短辺方向に広がり、広がった先で干渉する事で青い色を出します。リッジ部の高さはリッジ毎に異なるために特定方向で干渉する事なく、青い色はどの方向からも見えます。また翅を羽ばたく事でこの青い色が点滅しているように見えます。さらにこの青い色をより鮮やかに見せるためにリッジの下部にメラニン色素をもち不要な光を吸収している種もあります。一方、モルフォチョウの上層鱗は、薄い均質な膜にまばらにリッジがついているだけの特殊な構造をしています。この膜によって下層鱗による色を選択し、つや出しやつや消しなどの色の質感を制御しています。
 一方、このような構造色を擬態しているチョウもいます。マダラチョウ科のツマムラサキマダラは有毒なチョウでこのオスはリッジの部分が積層して構造色を出しています。一方、無毒のタテハチョウ科のヤエヤマムラサキのメスはこのオスを擬態し、構造色をもっています。もともとツマムラサキマダラのオスがこのような色をもっている理由はメスに対して自分を目立たせる目的をもっていましたが、ヤエヤマムラサキのメスはこれを真似、自分も毒を持っているように見せているのです(ベーツ擬態)。ヤエヤマムラサキのメスの鱗をしらべると、上層鱗でツマムラサキマダラの構造色を真似ており、下層鱗では同種のオスと同じ構造をしている事が判明しています。

ヘ)光の干渉:鳥類羽根の構造色

 一般に鳥類の羽根は、羽軸(羽根の軸)から2回枝別れしています。最初の枝は羽枝、次の枝は小羽枝と呼ばれています。
 
クジャクでは羽の1本1本が輝く色をし、見る角度により色が異なります。角度が小さいと黄色に、角度をつけると短波長側の緑色に見えます。小羽枝内部ではメラニン色素顆粒が円柱状に規則正しく並んでいます。円柱は140nm程度で、円柱同士は50nm程度離れて配列しているのです。クジャクでは頸部の羽の層がもっとも多く10層程度あります。このメラニンの円柱からの散乱光同士の干渉(ミー散乱)によりこのような色が出ています。
 一方、
ハトでは、首の羽の色は見る角度により、緑と紫色をしています。この小羽枝内のメラニンは粒状で大きさもランダムになっており、色は外側のクチクラ層(厚みが約650nm)による薄膜干渉により出ています。薄膜干渉では角度により見える色が異なりますが、この厚み条件からは、赤外、緑、紫に3つの反射ピークがある事になり、かつ角度によりこのピーク位置がずれる事がわかります。人間は3色視のため通常は真ん中の反射ピークが人の緑の視細胞を刺激し、緑色に見えていますが、角度をつけてみると、緑にいたピークは青色の領域に、また赤外領域にあった反射ピークが赤色領域にずれます。このため人の赤と青の視細胞が同時に刺激され、人には紫色に見えてきます。一方、ハトは4色視です。人には緑に見えている時にはハトでは緑と紫の視細胞が同時に刺激されているはずです。従って、ハトの眼では、緑色と紫色の混合色と、赤色と青色の混合色の2つの色が見えているのではないかと思われます。
 正倉院には752年〜756年に制作されたと推定されている“
鳥毛立女屏風”という天平の美女を描いた有名な屏風絵があります。教科書にもでてくる有名な屏風絵ですが、描かれている女性が纏っている着物は鳥の羽で出来ており、黄色の構造色を出す日本古来のヤマドリの羽根や緑色の構造色を出すキジの羽根が使われている事が判明しています。
 なおこのような構造色は動物に限らず、ハイビスカスの1種やチューリップ属の種の花にも見つかっています。表面構造を変えて回折格子を形成しているようです。またハチはこのような植物の異なる玉虫色を見分けられるようです。



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