【子を残す】
子を残すという場合には社会生活をする生物か否かで戦略が違うように思われます。アリなどの社会性昆虫では、餌の道筋を教える等の仲間同士のコミュニケーションや仲間の識別に視覚の他に、フェロモン、触覚刺激などの化学的手段が使われています。触覚で相手の体に触れ、相手が何者か、同種か、同じ巣のアリか等を体表に分布する化学物質で知るようです。一部のチョウでも最終的に雄が雌を判断するのにこの触覚刺激が用いられています。
また哺乳動物でもにおいによるマーキングは、なわばりや個体識別、また性誘因効果がある事が知られています。またゴキブリなど多くの昆虫では性フェロモンにより配偶行動が起きます。雌のカも産卵に適した場所を水の化学成分によって選択しています。
他方、動物ではありませんが、植物も昆虫などに食べられた時に、化学物質を出して同種植物に警告したり、食べる昆虫の天敵を誘因する物質を出す事が知られています。
シロイチモジヨトウ幼虫の食害を受けたトウモロコシの葉は、その幼虫に寄生する寄生バチを誘因する匂いを出します。またナミハダニというダニに食べられたリママメの葉はチリカブリダニという捕食者を誘因する揮発性物質を生産するとともに、この匂いを受容した未被害葉ではハダニ食害に対する防御遺伝子を活性化させ、あらかじめ防衛網を準備します。また植物は、子孫を残すために鳥や昆虫と共生しています。色のついた花や実を目立たせ、花粉や蜜、また実を報酬として提供する代わりに、受粉してもらったり実の中の種子を遠くに運んでもらっています。
一方、雄が雌を見つけたり、選択するケースを考えてみましょう。
繁殖期に婚姻色を体に出現させる魚がいます。サケやイトヨなどで、サケはこの時期、赤い体色となります。両生類や爬虫類にもこれら婚姻色が見られ、性の識別や性行動を誘起する役目を果たしています。またチョウなどの昆虫では、紫外線が雌雄の識別に大きな役割を果たしている事がわかっています。
また良く知られているのはクジャクです。クジャクの雄は、繁殖期に鮮やかな目玉模様をもつ羽根を雌の前で大きく広げアピールします。整った羽根を見せる事で、自分は健全な雄である事をアピールしているとも言われています。さらに体色だけではなく、ニワシドリのようにきれいな巣(あずまや)をつくり、その中を貝殻や他の鳥の羽などで装飾し、それを雌にアピールしたりするケースや、雌の前でダンスを踊る種もいます。さらにこのように視覚ではなく、音で配偶者を選ぶ場合もあります。カエルの雄は大勢で泣きますが、雌は声の大きな雄を選択するようです。