MARKの部屋視覚や色と 動物の行動を話題にします

3.動物の体色・斑紋

目玉模様と分子生物学

 チョウを例に説明します。チョウの場合、目玉模様はさまざまな色をした鱗片が同心円状に配列する事でできています。このような色付けが起こるのは、チョウが羽化する直前の蛹の状態で起こります。この時、翅はまだ小さく、翅原基といわれる状態ですが、まず将来目玉模様ができる位置の中心に斑点ができます。この斑点は“ディスタレス遺伝子(Dll”と呼ばれる遺伝子により作られます。この遺伝子は、通常は節足動物の肢や触覚など、体壁から突出する器官を作る役目を担っているのですが、目玉模様をつくる役目も果たすようになりました。ちなみにショウジョウバエの脚は節のある円錐状をしており、大きさの異なる環が結ばれて提灯のように一方からつりあげられたような構造になっています。極端な言い方をすれば、二次元の円をつり上げて3次元化したといえば良いかもしれませんが、形作りという面で共通項があるのです。

 さてこの斑点でまず目玉模様の中心が決まり、次第にこの遺伝子の発現領域は中心から遠方に拡大し、この斑点を中心に同じ色をもつ鱗片の複数のリングが出来、目玉模様が作られます。これはDll遺伝子が円の中心部(斑点部)で発現し、その影響がすこしずつ外側に同心円状に広がる事を意味していますが、どのような物質が広がってゆくのか、未だわかっていないようです。
 一方、このリングパターン形成には、エングレイルド、スポルト、ノッチなどと名前がつけられている別の遺伝子も関わっています。これらは昆虫のみならず動物の3次元的な形造りを指令している遺伝子と言われます。従って、Dllも併せ、2次元の模様造りには3次元の形造りの遺伝子が大きく係わっている事になります。なおディスタレス遺伝子の発現を制御すると、目玉模様の数が増減したり、大きさが変化します。
 このように、体表の紋様はまず、Dllなどで輪郭が決められ、次に色付けを行うという2段構えでできているようです。色付けには既に体色の章で紹介した、メラニン、カロチノイド、オモクローム、プテリン、キノン系色素など、各種の動物の色素がつかわれる事になります。

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