MARKの部屋視覚や色と 動物の行動を話題にします

4.動物の眼・視覚

動物の聴覚−続き

耳は音を聴くための器官ですが、無脊椎動物で、聴覚“専用”の感覚器をもっているのはキリギリス、コオロギやバッタなど昆虫の一部だけで、キリギリスやコオロギでは前肢の一部に縦長の切れ目があり、その中に鼓膜をもつ鼓膜器をもっています。鼓膜の振動が直接神経に伝えられる効率の良い構造をしています。また、音を聴く場合には左右の前肢を開き、鼓膜器間の距離を離す事で音源の特定をしやすくします。
 一方、他の動物では水や空気の振動を他の感覚刺激(皮膚刺激)として感じていると考えられているようです。昆虫でもアブラムシ、ハエや蚊の一部では音以外に、空気の流れを感じる風速計として反応する器官(ジョンストン器)を触覚の付け根にもっています。触角や触角にはえている線毛の動きで振動を検知しています。
 また動物は水中や空中、また陸上で姿勢を制御して生活していますが、これは動物が平衡覚器という器管をもち、これで姿勢制御をしているためです。特に脊椎動物の場合、平衡覚と聴覚は同じ“膜迷路”器管で共存しています。また平衡覚器は1つではなく、クラゲやヒトデなど放射状の形をしている動物では身体の周囲に複数の平衡覚器(平衡胞)をもっています。今回は、この膜迷路を中心に紹介します。

平衡覚器は袋状をしていますが、その内側に感覚細胞が並んでいます。平衡覚器の中には平衡石という“重り”がありますが、@この平衡石が袋内部の液体に浮かび、感覚細胞からのびた感覚毛が平衡石に接触、A感覚細胞が平衡石を囲み、感覚毛が袋の内側につながって平衡石をつり下げる、等の構造をしています。通常、平衡石は一定の場所にとどまりますが、身体が動くと、通常と異なる感覚毛を刺激します。これが感覚細胞、神経へと伝達され、傾きとして判断される仕組みになっています。この平衡石は耳石とも言われますが、無脊椎動物のエビや蟹などでは体外の砂粒を利用し、他の動物では細胞から分泌されたフッ化カルシウムやシュウ酸カルシウム、脊椎動物では炭酸カルシウムから出来ています。

さて聴覚器の話にもどりますが、脊椎動物の平衡器は、側線器の一部が頭蓋骨の中に入り込んで作った内耳の“膜迷路”の中に存在し、同時に聴覚器もここに後から加わったと考えられています。側線器は魚類や両性類の幼生に見られる器管で、水の動きを検出する器管です。従って、陸上に上陸した動物では側線器は退化しています。魚類の側線は、ウロコに孔があいた点線が頭から尾にかけて直線状に整列したものです。この孔は水がウロコの下にある側線管への出入り口になっています。
 側線管の壁には有毛細胞という毛(感覚毛)をもつ細胞が支持細胞に支えられて一定間隔で整列しています。また感覚毛はゼリー状の物質でできた頂体(クプラ)に包まれています。水が動くと、このクプラが変位し、このために感覚毛が曲がり、曲がる方向により水の動きが検出される構造になっているのです。1つの有毛細胞には1本の長い動毛と数十本の短い不動毛があり、不動毛が動毛側に曲がる事で有毛細胞が興奮する仕組みになっています。

 さて、膜迷路ですが、これは頭蓋骨の骨迷路という窪地に存在し、半規管、その根本にある卵形の卵形嚢と球形嚢の主に3つから構成されています。これらが脊椎動物の平衡覚器になっており、動物種による違いはほとんど有りません。動物種による違いは、球形嚢とその先(ラグナや蝸牛管)に存在、これが聴覚器官の動物による差異になっています。
 3半規管には膨らんだ部分(膨大部)がありますが、この中に、クプラをもつ有毛細胞が存在、また半規管内部にはリンパ(内リンパ)液があり、このリンパ液の流れをこの有毛細胞が検知しているのです。従って、側線器の名残がここに残り、頭の回転を検出しているのです。一方、卵形嚢と球形嚢には耳石と感覚毛があり、耳石器といわれる平衡覚器を構成し、身体の傾きや運動方向を検出しています(球形嚢で上下、卵形嚢で前後・左右を検出)。

                     内耳の動物種による差異

 さてラグナですが、魚類ではラグナは球形嚢と広い範囲でつながっていますが、両性類になると、ラグナの一部にふくらみが見られるようになります。これを基底陥凹といいます。爬虫類ではラグナとともに基底陥凹は大きく、長く伸びます。鳥類ではこの傾向がもっと著しくなり、長くなったラグナと基底陥凹を併せて蝸牛管というようになります。これが哺乳類になるとラグナは消失し、基底陥凹のみが長くのび先端がらせん状になります。
 平衡覚器の耳石が有る場所を感覚斑といいますがラグナにも耳石をもつ感覚斑があり、ラグナ斑といわれています。このラグナ斑の耳石が振動する事で感覚毛 が動き、音として受容される事になります。一方、蝸牛管では管の長さ方向にコルチ器といわれ、基底膜上に音受容細胞である有毛細胞が乗った構造が存在しています。従っておもにこの2つが聴覚器官として働いている事になります。
 それではどのように音を聴いているのでしょうか? 魚類では頭蓋骨に膜迷路が固定されていますので、頭蓋骨を音が振動させる事でラグナ斑の耳石が振動して聞こえる事になります。また特殊例として、水中を伝搬した音が浮き袋で共鳴し、これが骨を伝わって音として聴いている魚もいます。コイ、ナマズ、フナなど濁った水中で生息する魚はこのタイプで、他の魚よりも聴覚が優れています。

       両性類の例

 一方、陸棲になると、水ではなく空気の振動をとらえる必要が出てきます。このため空気の振動を伝える孔が必要となり中耳ができました(不要になったエラから中耳ができたと考えられています)。さらに両性類ではじめて鼓膜が出現します。但し皮膚と同じく体表に出ています。また、ラグナや基底陥凹などの聴覚部の周囲をリンパ液が満たし、液を通して振動がアブミ骨のある前庭(円形、卵円)窓から聴覚部に伝達でき、蝸牛(正円)窓から抜けてゆくようになりました。鼓膜で音のエネルギーを集め、これを鼓膜より小さい面積の耳小骨(アブミ骨)底に伝えて、エネルギーを集中した形で内耳のリンパ液に伝える基本システムができあがったのです。さらに、爬虫類になると鼓膜が体内に陥没して外耳が形成され、哺乳類ではこの傾向がもっと進みます。また哺乳類では外耳孔の周囲に耳介ができより集音効果を高めるとともに、耳小骨がアブミ骨以外にも2つ(ツチ骨、キヌタ骨)でき、音の増幅率がより大きくなりました。

 


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