MARKの部屋視覚や色と 動物の行動を話題にします

3.動物の体色・斑紋

軟体動物の体色

1)頭足類

 頭足類にはタコやイカ、オウムガイ、また化石として知られるアンモナイト等が属しています。頭に足(腕)がついたように見え、この名称がつけられていますが、軟体動物の「足」の部分が「腕」や「漏斗」に変化しています。二枚貝や巻貝といったほかの軟体動物の多くが底棲(ベントス)であるのと異なり、頭足類は水中を遊泳するものが多いことも特徴です。頭足類は、浅海から深海、熱帯から寒帯と、海洋のあらゆる場に適応したグループで、食物連鎖網の中にあっては被食者、捕食者の両方の立場です。既に説明したようにイカやタコは色盲で色は判別できませんが、明暗の区別は可能なようです。従って、頭足類の体色は捕食者の眼に対して自己を隠蔽する事が大きな役割となります。イカでは皮膚の下に、表面から内部に向かって深さ方向に、黄色、赤色、褐色の順にオモクロームによる色素胞が存在しています。またイカやタコはこれら色素胞層の下に虹色素胞をもち、この細胞で光を拡散・乱反射させます。タコはこの他に黒色素胞ももっています。これら色素胞は周囲を筋肉につながれており、神経からの指令で筋肉が収縮・弛緩すると伸び縮みします。面積的に各色素の被覆率が変化する事で濃淡を変化したり、模様を出したりするのです。このようなイカの体色変化はカメレオンやヒラメのようにゆったりとしたものではなく、瞬間的に行われます。ちなみに、すべての色素胞が縮むと、体色は透明になり、内臓が透けてみえます。またイカではこの他に、眼の周囲や腹面に虹色素胞をもっています。
 イカは平静な時には色素胞を収縮させ透明になっていたり一部分に縞模様を出していたりしていますが、緊張や興奮により全身が赤みを帯びます。また死亡すると当初は褐色ですが、その後、白色になります。このような体色変化はカモフラージュの他に仲間同士のコミュニケーションなどとも関係しており、特定のパターンが認められるようです。特に、パートナーを見いだす際には体色変化が著しく、また縞模様が鮮明になるようです。またイカで面白いのはボディランゲージも使われる事です。敵や餌が近づくと第一腕を高く挙げ緊張の意思表示を行います。いずれも視覚が特に発達している事がこのような動的な変化に利用されているのです。
 一方、
イカ類では色素胞の他に発光器を持つものがいます(代表例はホタルイカ)。発光器は皮膚、眼、腕の3つの部位に存在しています。皮膚や腕の発光器は色素胞のお椀の中にあります。イカは夜行性ですから夜に発光させれば目立つ事になり逆効果ですが、実は昼に、太陽光と反対側の部位を若干点灯させています。イカは海の中では体を水平にしていますが、このとき下からイカを見た時に、上からの太陽光と同化し、姿形を認識させ難くするために発光させているのではないかと言われています(夜間は消灯)。またこのようなカモフラージュとともに発光には雌雄の交信、集団で行動する場合のシグナル交換、敵に対する威嚇にも使われていると推定されています。またミミイカなどでは発光バクテリアを体に住まわせて発光させ、墨汁嚢でその光を遮光する様な機構を装備しています。
 前述のように色素胞は体表面から黄、赤、黒褐色の順に重なり合って配置されていますが、これらの色素胞には
無脊椎動物にのみ見られる紅紫色のオモクロームという色素があります。タコをゆでると赤くなりますが、これは色素胞からオモクロームが溶け出し、組織の蛋白質と結合して赤くなるのです。なお、オモクロームはアミノ酸の1種であるトリプトファンが酸化して生成される色素です。なおイカやタコでは酸素運搬にヘモグロビンではなくヘモシアニンを用いています。ヘモシアニンは血球ではなく体液中に存在し、それ自体は透明ですが、酸素と結合する事で青い色を呈します。このため内蔵は青い色をしています。 

2)腹足類などの貝類

 貝殻をもつ軟体動物にはナメクジやカタツムリなどの腹足動物や貝類がいます。このような動物では身体を外套膜(マントル)というカバーで保護しています。この外套膜は上皮細胞に覆われており、貝殻に面した上皮細胞が炭酸イオンやカルシウムイオン、またタンパク質などを分泌し貝殻をつくります。貝殻は約9割が炭酸カルシウムなどの無機物で残りの1割が有機物です。貝殻の炭酸カルシウムの層は、外側の角柱(稜柱)層と内側の光沢のある薄板状の真珠層の2つから構成されています。貝の内側を見るときれいな虹色をしていますが、これはこの真珠層の色です。この真珠層は炭酸カルシウムの煉瓦が多層に積み重なった構造をしており、その煉瓦をタンパク質がモルタルのように結びつけています。このタンパク質は接着の他にも炭酸カルシウム結晶を成長させる働きもしています。
 貝殻に面した上皮細胞が体内に落ち込み袋状になり、砂粒などを核にして袋の内側に作られるのが貝殻と同質の、いわゆる宝石としての“真珠”です。白真珠はこのようにできていますが、
黒真珠については色素も関与しているようです。黒真珠をつくるクロチョウ貝は3種類の色素を分泌し、これらが交互に積層され、減法混色で黒くなるようです。
 血液や液化した炭酸カルシウムは上皮細胞と貝殻間にあります。
貝殻の色は色素と真珠層での光の干渉により出ます。色素は外套膜に沿った腺を通して(液化貝殻成分に)分泌されています。色素としては餌の海草などを経由して得られたテトラピロール系の色素(ポルフィリンなど)が確認されています。また、あわびや真珠貝には虹色が出ていますが、これは真珠層による多層干渉効果によるものです(構造色)。なおアンモナイトの化石でもこのような虹色が出ていますが、これも真珠層による多層干渉効果である事が確認されています。



copyright©2011 Mark Pine MATSUNAWA all rights reserved.