4.動物の眼・視覚
動物の脳〜脳の発生
次に、動物の脳と眼の関係について考えてみましょう。眼という視覚センサーは脳という神経の親玉とどのような関係をもって出来てきたのでしょうか?
イ)脳の発生
活発に活動する“動物”では、周囲の環境に接する最初の部分は移動する方向にある身体の先端部になります。従ってこの遠端部に主要な感覚器が集中する事になったと考えられ、神経系も先端部に集中して来る事になります。
イソギンチャクなどの腔腸動物では神経は網状で集中した中枢はみられません。波間に漂うクラゲで傘の縁に神経網が集まった神経環が見られるようになり、ウニなどの棘皮動物でもこのような散在した神経環がみられます。したがって1つの触手や棘を刺激すると、神経細胞の興奮がすべて、または周囲の触手や棘に伝達される事になります。
ミミズやヒルなどの環形動物や節足動物になると身体の体軸に沿って、体節毎に神経細胞が集まった1対の神経節ができます。またこの神経節が相互に結合してはしご状となった集中神経系がみられるようになります。中でも特に節足動物では集中化が進み、体節毎にあった神経節が1本の中枢神経となり、また頭部の神経節が特に発達して脳を形成するようになります。またイカやタコなどの頭足類の脳は、発達した眼に連結する左右の大きな視葉とその中央に位置する比較的小さな中枢部分とに大きく分かれ、中枢部分は多くの細胞塊から形成されています(イカの場合、中枢部には約30種の脳葉があり各々、異なる役割を担っているといわれています)。中枢部分は大きく食道上塊、食道側塊、食道下塊に分かれます。感覚器官からの情報や筋肉などへの情報はすべて食道側塊と下塊に関係します。また食道上塊には学習と記憶を司る前葉および垂直葉があり、視覚学習の機能は垂直葉で行われています。このように頭足類の認知に関する中枢は前葉・垂直葉にあり、頭足類の脳のシステムは食道下塊から上塊へと分化してきたと考えられています。また相対的に、イカ類は垂直葉がタコ類より大きく、より視覚に依存している事が伺えます(タコ類は腕による触覚情報に依存)。次に脊椎動物について考えてみましょう。
神経組織が集中してできるのが脳ですが、脳の形成は神経管の先端が膨らむ事から開始されます。脊椎動物の場合、神経管が膨らみ、一部が曲がる事等で、まず3つの区分、前脳、中脳、菱脳、ができ、前脳から眼胞が外側に押し出されてきます。眼胞から眼が形成されるプロセスは別の記事を参照してください。やがて前脳から終脳と間脳が、また菱脳から後脳と髄脳ができますが、これらが形成されるのは、主要な感覚器である、鼻、眼、耳(側線)の出現と対応しています。終脳が鼻、眼は間脳を通り中脳と、後脳が平衡器官である耳と対応し、層状の灰白質が膨らんでくるのです。
このようなプロセスを経て、終脳から大脳、間脳から視床、視床上部・下部、中脳から視葉(哺乳類の四丘体)、後脳から小脳、髄脳から延髄が分化してきます。
ここから分かるように、臭覚については大脳が、視覚は視葉、聴覚(平衡感覚)については小脳が大部分の動物にとって中枢系となっている事になりますが、
哺乳類などの高等脊椎動物では大脳半球は主要な連合野となりこれらの中枢がここに移動してきます。また大脳半球の基底部には大脳と他の脳部分との連洛を行う線状体が存在します。間脳は腹側に視床下部があり、ここは自律神経の中枢部で、また下垂体や前述のように眼が発生する領域でもあります。間脳の背側には視床上部があり、ここに第三の眼といわれる事もある松果体があります。
中脳は高等動物では前脳と後脳を結合する部分となりますが、下等動物では背側にある視蓋が視覚中枢となり、また高等動物の大脳に対応した、脳の最高連合野と考えられています。後脳の背側部には小脳ができますがここは動物の運動中枢で筋の協調や平衡感覚の中枢となります。従って小脳は内耳と密接に関連する部位となります。
髄脳は後脳の一部と一緒になり延髄となります。延髄は呼吸等の内臓機能の中枢であり、また脊髄と脳の前端部を連絡する神経繊維の通路になっています。
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