3.植物の色
紅・黄葉
最後に日本の秋でお馴染みの”紅・黄葉”について説明しましょう。
秋になると山々は紅・黄葉し、日本の最も美しい光景が見られます。落葉広葉樹のこのような紅葉や黄葉はなぜ起きるのでしょうか?
気温が低下すると光合成の活動が低下します。このような場合、葉はもはや生産工場ではなくエネルギーを消費するだけのお荷物になってしまいます。また土の水分が凍結すると根から水分を吸収しにくくなり、葉から蒸散により水が失われる事が多くまってしまいます。これを避けるには、葉を落とし、エネルギー消費等を押さえる事が効果的です。いわばリストラをする必要に迫られている状態といえるでしょう。
所が、葉の中の葉緑体には貴重な窒素等の栄養成分が多くあります。このため窒素などの成分はできるだけ回収する事が行われます。具体的には窒素を含むクロロフィルが、結合している蛋白質とともに分解されて葉から本体に送り出されているのです。この時、体内を移動しやすくするために、タンパク質はアミノ酸に分解され、またデンプンはブドウ糖に変えられています。
回収されないカロテノイドやアントシアニンなどは葉に残り黄色や赤色になります。従って、きれいな紅葉を見せる樹木ほど資源回収が十分に行われ、落葉する事になります。ちなみに黄葉する葉では単にクロロフィルが分解されてカロテノイドの黄色い色が出るだけですが、カエデなどの紅葉する葉では春・夏には生成されなかったアントシアニン系色素(クリサンテミン)がこの時期に合成され、赤くなるようです。なぜこの時期にアントシアニン系色素が合成するのかについては分かっていません。但しアントシアニンは花色素としての役割りの他に、葉肉細胞の日照を和らげる遮光色素としての働きももっています。この色素により葉肉細胞を日陰にして、光合成の明反応効率を下げて過剰エネルギーから守っているのかもしれません。また、クロロフィルの分解とアントシアニン系色素の生成は独立して起こっているようです。なお、アッケシソウやシチメンソウなどが紅葉するのはベタシアニンによる発色のようです。
なお、紅・黄葉しない植物では落葉前に回収はおこなわず、ぎりぎりまで光合成を行い、告Fの葉を落とします。これらは窒素回収エネルギーよりも余分のエネルギーを得る戦略を採用しているのです。
一方、針葉樹にもこの紅葉現象があります。スギやヒノキなどの常緑針葉樹では厳しい寒さをむかえる時期に紅褐色化し、春になると告Fにもどります。またメタセコイアなどの落葉針葉樹では秋に紅褐色化した後、落葉します。秋にクロロフィルが消失するとともに、赤い色のロドキサンチンというカロテノイド系色素顆粒が生成し、葉緑体が有色体に変化しているのです。
落葉にともない葉の色が変化しますが、この変化は動物にも影響します。ある種のクモでは紅葉に伴い、クモの糸の色や体色を白から黄色に変化させ、紅葉しても目立たないように対応しています。