MARKの部屋視覚や色と 動物の行動を話題にします

4.動物の眼・視覚

ロドプシン

 視細胞には桿体と錘体細胞がある事を紹介しました。桿体に存在するロドプシンが錘体に存在する視物質より後に生じ、かつロドプシンと他の錐体視物質は感度等で大きな差異があります。何が他の視物質とロドプシンとの違いなのでしょうか?錘体細胞は明るい光の中で、動物が活発に動き回る世界で働き、桿体細胞は暗い世界で働きます。従って錘体視物質は、変化が速い、つまり電位変化の応答(立ち上がり&立ち下がり)が速い必要があります。さもないと敵から逃れるのができず傷ついたり、餌を逃す事になってしまいます。一方、桿体細胞では、暗い中でも良く見える、つまり光に対する感度が高い事が重要になります。天文分野が好きな方は知っておられる事ですが、暗い星を見つけるためには、天体望遠鏡の光を受光するセンサー部で、熱により発生するノイズを低くする必要があります。このために液体窒素/ヘリウムなどでセンサー部を冷却しながら観測が行われています。実は眼でも同じように、この熱ノイズが暗い所を見るための障害になった可能性がります。
 錘体で使用される視物質は、応答が速い反面、暗状態時のノイズ大きいのです。他方、桿体で使用されているロドプシンは応答は遅い反面、暗い中でもノイズが低く抑えられています。熱に対する安定性が高い事、これがロドプシンの特徴で、この性質により暗い中でも動物は眼が見えるのです。錐体視物質の方がロドプシンよりも先に出現したのは、このような低熱ノイズ物質を開発するのには時間がかかったためと思われます。逆にいえば
最初に眼を持った生物は昼行性であった事にもなります。
 さてこのような特徴をもつロドプシンですが、特に魚類は2種類のロドプシンをもつ種が多い事を紹介しました。陸生脊椎動物と海洋魚では通常のロドプシンが、淡水魚ではポルフィロプシンという別のロドプシンが用いられています。ロドプシンの光吸収の極大波長が500nmですが、ポルフィロプシンでは522nmであり若干長波長側にずれています。
両生類や鮎、サケ、樺太マスなどの回遊魚では両方の視物質をもっており、特に回遊魚では淡水から海水域に回遊するとロドプシンが増加して短波長側の感度が高まり、逆に海水から淡水域に回遊する時には、ポルフィロプシンが増加して長波長側の感度が高くなります。生息する水深により光環境が異なるため、このような変化が生じているようです。ちなみに浅い水中では太陽光の最大スペクトルから少し感度をずらす事により背景と物体とのコントラスト検出が容易になる事がこのような波長変化の理由と考えられています。ちなみにカエルではオタマジャクシの時代には淡水のポルフィロプシンだけをもっていますが、カエルになるとロドプシンももつようになります。なお無顎類のヤツメウナギでも両方のタイプを持っている事から、祖先動物も両方のタイプをもっていたようです。
 さてこのロドプシンですが、藻類のボルボックスの眼点に存在する感光性色素にもロドプシンが見つかっています。葉緑体の膜にロドプシンが埋め込まれていたのです。葉緑体の起源がシアノバクテリアである事から、
“眼の起源が藻類”であると推定している学者もいるようです。


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