魚類は水中に住む事から、眼が乾燥する事はありません。このために、特に硬骨魚では両性類以上の高等動物がもつ眼瞼や爬虫類以上の動物がもつ涙腺をもっていません。しかし、強光を避け、機械的に角膜を守るためにサメやカレイでは瞬膜が、またニシン、ボラ、サバやコイなど比較的早く泳ぐ魚では眼上に透明な表皮のひだ(脂瞼)があり、遊泳時に眼の周りの水の抵抗を低くする役目を果たしています。ボラは特に冬に透明な脂瞼を発達させます。また魚類では(他に爬虫類や鳥類も)強膜輪という骨があり強い水圧から眼を保護しています。
また、既に述べましたが、水中では角膜と水の屈折率がほぼ同じために、角膜で光を屈折する事ができません。このためにレンズは球形をしています。ヒトなどの陸上動物は水中では遠視に、逆に水に適応した生物(例えばペンギン等)が陸上に上がった場合には近視になると考えられますが、魚類はこの球形レンズの位置を視軸の“前後”に移動させる事で焦点合わせを行います(魚では顔の正面ではなく、顔の左右に眼が位置しています。従って視軸は光軸とほぼ直角になっており、魚では口と尾を結んだ体の中心線から弱冠傾いた方向に水晶体は動きます)。この遠近調節は筋肉により行われます。魚類の中では金目鯛やシイラはこの調節能力が優れているようです。
また真骨魚類では鳥類の櫛状突起に似た、鎌状(れんじょう)突起が突出しており、眼球内部に栄養を与える役割をしています。水晶体を牽引する牽引筋はこの鎌状突起前縁から水晶体下縁に伸びています。
硬骨魚では通常、レンズは休息時に近い所に焦点が合っています。遠方を見る場合にはレンズ牽引(収縮)筋(水晶体筋)によりレンズを後方に移動します(ヤツメウナギも同様)が、だいたい0.5mm程度移動が可能なようです。イシダイ(体長30cm)では休息時に10〜15cm前方を両眼視しており、水晶体筋が収縮する事で無限遠までの遠近調節が可能です。但し、コイ、フナ、ナマズやウナギなどは殆ど遠近調節を行っていません。泥水に棲むコイや臭覚・味覚など化学的感覚に優れたナマズやウナギでは近くのみ見えれば良いのでしょう。なおナマズはひげを使って探餌し餌にひげがふれると反射的にかみつきます。
なお、サメは逆で休息時にレンズは遠方視の状態にあります。近い所を見る場合には両生類同様に、レンズ牽出(牽引)筋を用いてレンズを前方に移動させます。
既にに説明したように魚類も両眼視野が30°ほどあります。両眼視野の中心の方向を視軸といいますが、この方向に上記の遠近調節がなされる事になります。他方、単眼でみえる範囲は非常に広いのですが、この単眼視野では遠近調節が効きません(水晶体は光軸方向には動かない)。従って、単眼視野で広い範囲をカバーして動く物体を見る事ができますが、それをはっきりとした形では捉えられない事となります。なおスズキの観察結果では、遠距離にある餌を見つけ接近する時には運動視が用いられています。また対象の動きが遅かったり、直線等速運動をしている時には静止しているのと同じように注意を引かないようです。