魚類の視軸は真っ直ぐ前方、上前方向、下前方向の3種があり、ハタ、ブリやスズキでは前方、カツオ、マグロ、アジやスズキでは上前方向に、チヌ、マダイでは下前方向に向いています。ちなみにハタでは網膜の後部の錐体密度が高く、マダイでは網膜上方に錐体密度の高い部分があり、アジでは網膜の下部に錐体細胞が多い事が確認されています。これはマダイは比較的海底近くに住み、自分より下の海底にいるゴカイやエビを斜め上から見つけ食する事、カツオなどではイワシなどの小魚を下から襲うのに適した形態になっていると考えられています。
通常、単純な球面レンズでは、レンズの中央部と周辺部で焦点面がずれてしまい(球面収差)、鮮明な像は得られませんが、魚類のレンズではレンズ材料の屈折率が中心から外側に徐々に変化(低下)しています。周辺部の屈折率を水と同じ程度に小さくし、中央部で屈折率を大きくし、光の速度を遅くして同じ位置に焦点を結ぶようにしているのです。ちなみにニジマスの水晶体の測定結果では中央部で1.5強、周辺部で1.35程度となっており、ウサギやネコなどの哺乳類と比較し、変化範囲は大きくなっています。なお動物では人を含む脊椎動物、昆虫を含む無脊椎動物を問わず、屈折率分布型のレンズが採用され、球面収差が補正されています(従って魚類だけでなく、オタマジャクシ、海性の哺乳類や後述のイカやタコ・淡水性の巻き貝などの軟体動物、節足動物にもこのタイプのレンズが採用されているのです)。
またアオメエソやムネエソなどの深海魚には黄色いレンズをもったものがいます。これらの餌となるハダカイワシなど一部の深海魚は発光器を脇腹にもち、身体の輪郭をカモフラージュしていますが(ホタルイカも同様の戦略を採用しています)。このような生物発光と自然光は発光のピークはほぼ一致するものの、発光器からの光の方が自然光より黄色成分が多くなっています。深海では自然光が少なく、大部分は475〜480nmの青い光しかありませんが、この主要な光をあえて黄色いレンズでカットし、黄色の光のみを通す事で餌のカモフラージュを見破っているのです。なお陸生ヘビや深海魚の黄色いレンズの色はカロテノイド色素によるものです。またリスやヤツメウナギもカロテノイド色素による黄色いレンズをもっています。
なお魚以外の水生の動物、カメやラッコなどでは水晶体が非常に柔らかく、かつこの柔らかい水晶体の前半分を筋肉(瞳孔括約筋)で絞り上げて大きく変形させ、曲率を大きくする事で水中での焦点合わせを行っています。また水面すれすれに泳ぎ、水中と空中の両方を同時に見ているヨツメウオという動物が南米の河に生息しています。この動物は水陸両方を見るために、眼球中央部を水面に合わせるように水面を泳ぎます。このため、虹彩で瞳孔を真ん中から上下に分け、水晶体も上下で大きく変形させ、網膜も上下に2つ備える特殊な構造の眼をもっています。なおミズスマシも同じような眼をもち、ガラパゴス島にいるヨツメギンポは4つの瞳をもっています。また西アフリカにバタフライフィッシュという魚がいます。この魚は名前のように、時に水面から飛び出して滑空しますが、この眼はレンズが壁で上下に分かれ、また網膜も背と腹に分かれて視細胞の分布密度も異なる様です。このように水陸の両方で生活する動物では変わった構造の眼をもつ動物が多くみられます。
魚類では球形の水晶体が虹彩よりも大きく飛び出しています。この事により魚類の単眼視野は広くなっているのですが、前述のように硬骨魚では虹彩の大きさは変化せず、瞳の大きさは明るさによらず一定です。従って多くの魚(硬骨魚類、ウナギやサメ類を除く)では瞳孔は常に丸く開いたままになっています。更に、多くの魚では虹彩は銀色をしています。これは“グアニン”が沈着したものです。また魚類では左右の眼は独立しています。また眼は眼窩に固定されており、体を動かす事で見る範囲を変えています。なお魚類では体はもちろん眼も一生大きくなり続けます。魚類では中心窩をもつ魚(ヨウジウオ類)も見られ、このような魚では眼球運動も発達しています。また中心窩を持たないで視神経細胞が最も密度の高い部位を中心野といいますが、この中心野は魚の成長により移動します。クロダイの仲間は稚魚時にはプランクトンを食べ錐体も青、緑の2色性で中心野は網膜側頭部にあります。成長し浮遊生活から底生性生活に変わると食性も低生生物食に変わり、中心野が背側部に移動します。
また金目鯛のように深い海で生息している魚では光の利用効率を高めるために網膜の後ろ、色素上皮細胞や脈絡膜層にグアニン結晶などより成る反射板(タペータム)をもっています。眼が金色に見えるのはこのためです。通常の魚(真骨類)では色素上皮細胞にタペータムを持ちますが、サメやエイなどのタペータムは脈絡膜層にあり、眼球内のどの部位でも入射光と同じ方向に光を反射するようになっています。また深い海で生息している魚では暗い深層で光を多く集めるために大きな水晶体を保有しています。但し、単純に水晶体を大きくすれば眼球が大きく成りすぎ頭部に入りきれなくなってしまいます。この対策として、1,000m以上の深海に住む魚では、最も重要な視軸方向を見る機能と側方の一部を残し、他の方向の視力を切り捨て、球形ではなく管状をした眼(管状眼または望遠鏡眼)をもつものがいます。
なお、魚類では種により色彩感覚の優劣があり、特に淡水性や水深が浅い場所に生息する魚は色彩感覚が優れているようです。ニジマスの若魚では、365nmの紫外、434nmの青、531nmの緑、576nmの赤と521nmのロドプシンをもちます。フナを祖先とする金魚でも紫外線、青色、緑と赤色の4色を感ずる視物質と523nmのロドプシンをもっており、ティラピアやウグイも金魚のように4色型です。
一方、外洋の表層から水深500nm前後で生活するマグロは527nmと337nmに、サケ科のサクラマスも400nmと560nmの2色を感じます。なお、サクラマスやニジマス(淡水性)では胸鰭部分が紫外線を吸収し、この部位で仲間を認識しています。 また、サクラマスなどが偏光感覚を有することも確認されています。