淡水魚のウグイやハヤでは桿体の視物質は2種類あります。視物質はタンパク質部分と発色団で構成されています(後述)が、ウグイでは桿体の視物質発色団は2種類あり、夏期と冬季でこの発色団を入れ変え、冬季に長波長光の感度を高めています。同様にサケなどの回遊魚の桿体でもこのような視物質の変化(淡水対応で長波長光の、海水対応では短波長光対応の視物質を採用)が知られています。爬虫類、鳥類、哺乳類では桿体視物質は1種類ですが、これ以外の脊椎動物ではこのような2種類の視物質のどちらか片方、または両方をもっています。また特殊例として、海に回遊して変態するアメリカウナギは河川にいる時には吸収ピークが501nmと523nmの2つの視物質を利用し、海に回遊した時には482nmと501nmに吸収ピークをもつ2つの視物質を組み合わせているとの事です。いずれにせよ淡水では長波長光の、海では短波長光の感度を上げている事には変わりありません。
一方、深海では475〜480nmの光が主要な環境光です。陸上動物と同じように、深海性のサメ(ヘラツメザメ)ではこの波長にロドプシンの吸収ピークが位置しています。またタラコや明太子などの原料としてもお馴染みのスケトウダラは海面から水深500m程度までの領域で生活しますが、スケトウダラの眼は、明順応時には500nm〜540nmに分光感度曲線のピークがありますが、暗順応時には460nmにピークが変化するという報告があります。
以上、色々な例で説明してきましたが、魚類は、淡水や浅瀬で生活する時には太陽光の放射スペクトルピーク波長よりもロドプシンの吸収ピークを上下にずらし、深海では背景光、つまり水中で最も多い光の波長にロドプシンの吸収ピークが来るように合わせる事が行われています。これにより、光の感度を高める事と、“背景と物体との視覚的なコントラストを高める”事に役立てているのです。
魚類でも視力検査が行われていますが、魚体の大きさで視力が異なり、体長が大きいほど視力が良いようです。眼の大きさが影響しているものと思われますが、ちなみにマダイでは体長が短いと視力は0.05程度、体長が60cm程度で0.3程度という結果が出ています。海底に住む魚、例えばスケトウダラは視力が悪く0.1程度、体長の長いウナギでも0.05〜0.07程度です。ブリはマダイよりも若干視力が劣るようです。これに反し、海洋の表層を泳ぐ大型のマグロやカツオは視力が良いといわれ、0.35〜0.4程度あるようです。なお一般的に、魚類は近視のようです。