MARKの部屋視覚や色と 動物の行動を話題にします

3.動物の体色・斑紋

魚類の皮膚/体色

 魚類の皮膚は、表皮と真皮から構成されます。表皮は最も外側にあり、上皮細胞が多層に並んでいますが、表皮には粘液腺が多数あり、粘液を出して体表を保護しています。この粘膜性の表皮の下に真皮がありますが、真皮は表皮より厚く、繊維性の強い組織になっています。一般(硬骨魚、軟骨魚)に真皮は二層からなります。表皮の下にあるのが疎性結合組織である海綿層で、その下に密性結合組織である緻密層です。海綿層には多くの血管・神経や多数の色素胞が存在し、多くの魚では鱗もこの層に存在しています。一方、緻密層は血管が多く、コラーゲン繊維層が密に並んでいます。
 魚類は表皮と上記の鱗で体表を保護していますが、
稚魚や幼魚では鱗が未発達のため主に粘液で体表を保護しています。またエイ、ドジョウやウナギでは鱗が退化しているためにこの粘液の分泌が多くなり、ヌルヌルしています。特にウナギやドジョウでは鱗が無いように思えますが、実は小さな鱗(円鱗)があります。ウナギではこれが皮膚に埋没(平らに敷き詰められている)しています。アナゴでは退化が進み、側線に沿ってわずかに残っているのみです(ウナギ、アナゴ、ハモは同じウナギ目に所属、ドジョウはコイ目と異なります)。
 一方、タチウオは鱗をもっていません。鱗を持たない魚としては、ナマズ、フグ、マンボウなどがおり、高速で泳ぐカツオの身体の大部分にもウロコはみられません。
 
鱗は骨と同じリン酸カルシウム(ハイドロキシアパタイト)を主成分とし、魚の種類により鱗形状や構造が異なります。普通の硬骨魚に見られるのは表面が円滑で、円や卵形をした円鱗か卵形または四角い櫛鱗(シツリン)と言われるものです。一方、サメなどの軟骨魚類では鱗は円または菱形をおし、表面にエナメル質の堅いトゲがある楯鱗(ジュウリン)で、“わさびおろし”などに使用されます。
 魚類の場合、通常、色を表す細胞として
黄色素胞、赤色素胞、虹色素胞、白色素胞、黒色素胞の5種類が知られています。また白色素胞を持つ魚はメダカやメバルなど一部の魚に限られています。これら色素胞の配列や組み合わせ、また色素胞内の色素顆粒の凝集・分散で魚の体色が表現されます。特に魚の特徴である銀白色は虹色素胞により出ており、この虹色素胞にはグアニンという厚さ90nm程度の薄い結晶が板状に積重なり光を反射しています。グアニンは太刀魚の銀白色が有名です。
 
黒色素胞は両性類や爬虫類と同じく最下層に存在しています。魚類の体色変化はこの最下層の黒色素胞中のメラニン顆粒の移動により起こります。色素胞に樹上突起の先端部まで移動する事で暗色に、また中心に凝集する事で明るい色になるのです。なお魚類では両性類と同じくユーメラニンが主であり, フェオメラニンの存在は知られていません
 魚類では比較的深い海で生息する魚では赤や黒系統の色が、浅い海では背部や側部が青・銀色、腹部が白色に、また珊瑚礁などに見かける魚では様々な多様な体色や縞模様を示すものがいます。水中では青系統の光しか深いところまで届かない事から、黒や赤色の体色は深海では無彩色に見え、保護色になっています。また海の表層近くにいる場合、空中の鳥などから海の色と同様に目立たない青色に、また水中から上や横を見た場合に太陽光と同じくキラキラした色に見えるように銀色や白色によりカモフラージュしていのです。逆に、色素によらず腹側を発光させる事により、下から見た時に太陽光に真似て目立たなくする事もイカ類やサメの一種(フトシミフジクジラ)で行われています。
 また特に、豊富にある青い光を再現するために青い色素では色の純度が不十分であったのか、
青色は青い色素ではなく、反射光が利用されています。ただし一部の魚(ゼブラフィッシュの仲間:サイケデリックフィッシュ)では青い色素をもったものがいる事が知られていますが、このような例は非常に少ない状態です。なお、鯛の体表や鮭の肉の赤い色は餌の甲殻類のもつカロチノイド系色素(アスタキサンチン)によるもので、鮭は本来、白身の魚です。ちなみに鮭の身肉で最もアスタキサンチンの量が多いのはベニザケで通常の鮭の3〜4倍も多く次はキングサーモンになります。卵のイクラは通常の鮭よりも多く、キングサーモンよりも少ないようです。甲殻類はこの色素を主に餌の藻から得ています。
 
虹色素胞は光の反射等を利用していると紹介しましたが、この反射を引き起こすため、体の側部に対し一定の方向を向くように虹色素胞の反射版は並べられています。またこの並ぶ角度を変えて、体色を変化できる魚もいます(熱帯魚としても売られているネオンテトラなど)。タチウオの光沢の正体もこの虹色素胞のグアニンの反射板によります。タチウオのグアニンはこの光沢から、一時、マニキュアやプラスチック類のめっきに、またセルロイドに混ぜて、模造真珠などに利用された事があります。また熱帯魚などでは、この虹色素胞を真皮の最外側に配置して輝く青い色を出しているものがいます。
 キンギョはフナからつくられた、最もなじみ深い観賞用淡水魚です。品種改良が進み、普通の着色された鱗の他に透明な鱗を全身に持つ個体や普通鱗と透明鱗の両方を持つものなど多くの種類がいます。金魚が成体に成るまでには3つの段階があり、各段階で色が変わります。最初は暗灰色や褐色(フナ色)で、次には部分的に黒や橙色を示し、最後に鮮やかな橙色となります。これは黒色素胞が次第に消失し、黄・赤色素胞のプテリジンやカロチノイドの組成が各段階で異なってくるためです。但しキンギョも環境条件等により体色が変化しますので、鑑賞に際しては色褪せしない様に留意が必要です。
 なお
メダカには白色素胞があります。黒色素胞、黄色素胞と白色素胞の3つで体色を変化させますが、赤色素胞をもっていません(この他に眼の虹彩や腹部には虹色素胞があります)。
 また魚類は水により紫外線から守られています。マウスとメダカに対する紫外線の影響を調べた実験では、魚の細胞は哺乳類の細胞より紫外線には弱いという結果が出ています。但し、代わりに傷ついた細胞を光で修復するという哺乳類にない機構を発達させています。


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