ロ)昆虫・クモ類
昆虫でも紫外線感覚は良く使われています。鳥類と同じく、紫外線の偏光を検出して帰巣行動に役立てています。また、紫外線(UV)の反射・吸収が配偶者行動や種の隔離に役立っていると考えられ、また、翅のはばたきにより生じる紫外線(UV)パターンのフリッカーが、おそらく反射光に含まれる偏光とも組み合わされて昆虫の眼に強い刺激を与えていると考えられています。
モンシロチョウ(紋白蝶)をはじめ、シロチョウ属の蝶は翅の紫外線(UV)反射を配偶行動に巧みに利用しています。雌の翅の鱗片は紫外線(UV)をよく反射(約30%)するのに対し、雄の翅では逆に紫外線(UV)を吸収するのです。このため雄は交尾のため、幼虫の食草となるキャベツなどのアブラナ科植物に通常静止している雌を捜し求めますが、雄の眼には、雌は紫外線で明るくみえています。
ハエトリグモの1種においても紫外線を反射する部位を雄がもち、雌は紫外線により励起される告Fの蛍光を発する触肢をもつものがいます。やはり紫外線により性別の識別をしているのです。また花弁に擬態しているカニグモでは白い腹部が紫外線を反射し、丁度ネクターガイドのようになってミツバチなどを誘引しています。また中には腹部ではなく、自己の体背面に紫外線(UV)反射パターンをもち、昆虫を誘うクモもいます。
また多くのクモは自分の巣の糸に縞や十字状の紫外線(UV)反射パターンの装飾をして昆虫を誘惑します。薄暗いところに張られた巣では明るいところの巣よりも多くの装飾がついています。
このような紫外線検知は眼のどこで行われているのでしょうか?ミツバチやトンボでは紫外線(UV)や青の受容細胞は複眼の側面よりも天空を見ている背面側に多く分布します。天空の青空は紫外線(UV)や青に富んでいて、この背面のUV高感受性により、紫外線の偏光を検知し、ナビゲーションに利用していると考えられています。逆に、複眼の腹側には緑受容細胞があり、地上の緑植物をみていることになりますが、ナミアゲハや蛾の一種では背面のほかに、腹側にも紫外線(UV)受容細胞が分布し、それは花の蜜標識の検索に役立つと考えられています。
一般に昆虫はヒトと異なり、紫外線(UV)を認識し、紫外線(UV)をいろいろな行動・生活に利用しているというのが今日の定説です。紫外線は人体には有害です。寿命の短い昆虫だからこそこのようにできるのかもしれません。
一方、昆虫は紫外線以外の光もコミュニケーションに利用しています。ホタルは腹部の発光スペクトルと複眼の最大吸収波長が良く一致している事が知られています。ゲンジボタル(夜行性)では570nmに発光のピークがありますが、日没後、雄は発光しながら飛翔します。これを見た雌は植物などに留まりながら雄と同じ波長光を点滅させて雄を誘引しています。なおこのホタルの明滅パターンは種により発光波長、発光時間や間隔、光強度などが異なります。またホタルの成虫は鳥類などの補食者にとって味が悪い事が多く、発光はこれら補食者に対する警告にもなっているようです。
ハナバチの仲間のマルハナバチはトマトの代表的な送粉昆虫(ポリネータ)として知られています。このハチは、生まれて初めて採餌する個体は、他の個体のいる餌場にゆきます。経験を積み、知っている花を訪れる場合には他の個体のいる花を避け、採蜜効率を上げるようになりますが、自分の知らない花を訪れる際には、逆に他個体のいる花を訪れます。花の色とポリネータの関係を調べた報告では、白やクリーム色の花には特にミツバチや甲虫、ガが多く訪れています。黄や赤色が加わると、これらにチョウ類や鳥類が加わります。ガは主に白やクリーム色の花を訪花し、また甲虫も白系統色を特に好み、青や赤系統の花を訪花する機会は少ないようです。
クモ類は視覚シグナルを用いて情報交換をしています。ハエトリグモの雄は交尾の前に雌の前で前脚を高く上げ、左右の触肢を交互に上下して、腹部を曲げ、ジグザグダンスをしながら接近します。
一方、チョウ類は雲っていると飛ばずに草陰や葉陰で休息していますが、晴天を好んで活動します(体温が上がり過ぎない範囲で)。この中で、とくにアゲハチョウの仲間には飛ぶルートが決まった“チョウの道”がある事が知られています(但しキアゲハには無い)。またこれは低い草地ではなく比較的高い樹木に沿う高度になっています。アゲハチョウの幼虫はミカン科の、特にカラタチなどの木の葉を食します。雌にとっては産卵のため、雄にとっては羽化したての雌を探すためにこのように“木に沿って”飛ぶのかもしれませんが、“明るく”、下にも横にも“緑”がある場所を選び“木の葉の縁に沿う”ように飛ぶのがこのチョウの道の特徴です。