MARKの部屋視覚や色と 動物の行動を話題にします

4.動物の眼・視覚

視物質の種類2

それではなぜ大部分の哺乳類は2色しか見えないのでしょうか?それは哺乳類が夜行性に移行した時期があった事が反映されていると考えられています。その中でも例外的に、人間は再度、3色型に戻ったのです。人間の場合、青(M1)と香iM2)のグループの視物質の遺伝子は無くなり、紫(S)グループから青の視物質を、赤(L)グループから赤だけでなく高フ視物質を作り上げるという変速的な対応で色視覚を作り上げて来たのです。このような赤と高フ視物質の分化は約2000万年〜3000万年前という非常に最近の出来事です。ヒトや類人猿、旧世界猿の1部でこのような3色型が存在していますが、新世界猿では赤と高フ区別はつきません。但し、哺乳動物の例外としてカモノハシは青グループの錘体視物質を失っていません
 ヒトの場合、白黒のロドプシン遺伝子は3番の染色体に、青視物質の遺伝子は7番の染色体に、また赤と高フ視物質の遺伝子は同じX性染色体上に前後につながって存在しています。従って、赤、あるいは高フ視物質遺伝子が変化した場合、女性ではXXと2つの性染色体がある事からこの異常は発現しにくく(片方が変化しても正常な他方のX遺伝子が発現)、男性ではXYとなっているために女性よりも異常が発現し易い事になります。赤や告Fに対する色覚異常はこのような理由から男性に出やすいのです。
 また、人間の色視覚でよく示される波長毎の視感度曲線があります。他の動物と比較し、人間では高ニ赤の曲線が非常に近付いており、人の眼を視覚センサーとして考えるとはあまり性能が良いセンサーではありません。センサーの性能はいまいちでも巨大な脳の情報処理で我々は多彩な色が認識できるのです。またS(青)錐体の分光感度曲線は赤や緑の分光感度曲線とは著しく離れています。レンズや黄斑での短波長光のカット、という点を考慮すると、特に青い色は人間にとってまさに特殊な色といっても良いかもしれません。先に人間には3つの錐体視物質がある事を説明しましたが、この3つの錐体の分布をみますと、人間の眼には青錐体は全体の5%程度の比率しかない事が分かっています。またこのようにもともと青色は見えにくい上に、中心窩(約300μ)の中央部分(約100μ)にはこの青錐体は一切存在せず、赤緑錐体しかありません。従って小さな青い物体は見えないのです。その上、神経節から出力される輝度信号には青錐体からの情報は入っておらず、形や輪郭情報には青色の情報は生かされていません。人間の眼は赤や緑色を中心に見る目といっても良いかもしれません。他方、赤や緑錐体数の分布を見ると、人間により赤や緑錐体の数は大きく異なっている事が明らかになっています。緑錐体の方が多く分布していますが、赤/緑錐体の比率は20数%から90%程度まで大きく異なるのです。錐体からの入力情報がこのように大きく異なっても色の見え方はあまり違わない事は大きな驚きです。人間の場合には、まさにセンサーではなく、色は脳の働きにより決められていると言えるでしょう。大きな脳をもつ人間にとって“色”は物理色ではなく、複合的に決まる心理的な量であるといわざるをえません。それでは小さな脳をもつ昆虫などでは色はどのようなものなのでしょうか?興味はつきませんが、まだまだ分からない部分が多くあります。まさに色の道は奥が深いのです。


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