以上の説明で、人間は動物の中ではあまり色感覚が優れていない事が理解できた事と思います。また光の3原色という言葉が人間のみにあてはまり、動物全体についていうのであれば光の4原色とすべきである事を理解していただけた事と思います。動物が認識している4原色の世界はどのようなものでしょうか?動物、特に鳥類から見れば人間の色感覚は貧弱なものと思われているかもしれません。
ちなみに哺乳類は夜行性に移行するとともに視覚の代わりに臭覚を発達させてきました。人では色視覚を再度取り戻すとともに臭覚は退化しましたが、人にかぎらず、臭覚から視覚に情報収集手段を移行させた動物では急速に臭覚受容体の遺伝子が退化しています。人では臭覚受容体遺伝子の約52%、チンパンジーでも約51%が使われていません。他方、イヌでは25%、マウスでは24%と使われていない遺伝子(偽遺伝子)の比率は低くなっています。また当然ながら水中で暮らす哺乳類ではこの比率は低く、イルカでは偽遺伝子の比率が90%を越え、カモノハシでも52%になっています(カモノハシは臭覚ではなく、嘴に生体電流を感ずるセンサーを別途獲得しています)。以上、哺乳類では夜行性に移行する事で視覚は大きく影響をうけ、基本的には2色型色覚になりました。他の脊椎動物では、爬虫類と鳥類は基本的に桿体を含む5タイプすべてのオプシンを保持しており、“原理的”には4色型色覚をほぼ持っていると考えられます(何らかの原因でオプシンを失った種を除いて)。他方、両生類も4色型色覚と推定されていますが、未だ緑型オプシンがみつかっておらず、4色型色覚が維持されているかどうか不明です。一方、魚類は(特に浅い水域に生息する種では)基本的に5タイプの視物質すべてを保持し、4色型色覚をもっています。さらに遺伝子重複によってオプシンのどれかが増えており(つまりサブタイプが存在している)、脊椎動物の中では最も多彩な視覚をもっています。サメ類も4色型色覚といわれています。
なお既に一部説明済みですが、動物では視覚で働く視物質は一生固定化されているものではないようです。樺太マスでは稚魚の時代に紫外光を受容する錘体に、成魚となった後で青色(M1)グループの視物質が発現します。稚魚の時代には水面近くで生活しますが、成魚では水中深くで生活するように変化する事が関係しているようです。
また昆虫などを餌とする場合には、対象識別には3色型よりは2色型色覚のほうが有利であるという事が野生の霊長類について実証されました。また果実採食効率は2色型と3色型では差異が認められず、果実と背景の葉の緑色を見分けるのには色コントラストではなく明度のコントラストの方が有効であるという結果も出ています。このような事から、従来、人間は熟した果実を背景の緑から見分けるために3色型になったと言われていましたが、この根拠は覆されているようです。人間が3色型に移行した理由はまだ謎のままです。
視物質について説明してきましたが、このような視物質は、基本的には同じ仲間が多様化したものと考えられています。また視物質の多様性はレチナールの多様性とオプシンの多様性により起因しますが、オプシンの種類により結合するレチナールの種類はほぼ決まっています。