ハ)フラボノイド色素
植物からは約600種程度のフラボノイド類が分離されています。フラボノイドは植物特有の成分で、海藻(緑藻、紅藻)、細菌、真菌類を除く、コケ類以上の全ての陸上植物中に見いだされ、植物の表皮や表層細胞に蓄積しています。紫外線の吸収、花の色素としての役割の他に、種子の発芽や生長を調節する物質としても働いています
また動物の蝶の翅にも見いだされていますが、これは食物として摂取されたものの、幼虫が代謝できないために体内に残ったものと考えられています。昆虫より高等な全ての動物は、フラボノイドを消化し、尿として排出しています。
フラボノイド類は、アントシアン、アントクロル、アントキサンチンに大きくわかれます。アントシアンはアントシアニンとアントシアニジンに分かれますが、アントシアニニジンは極めて不安定ですぐに分解してしまいます。自然界ではアントシアニジンが糖と結合した(配糖体といいます)アントシアニンの形で存在するのが一般的です。アントシアニンは水溶性で細胞内の液胞に溶けた状態で存在しています。アントシアニンという名前はラテン語のアント(花の)とキアヌス(青色)、つまり花の青い色という意味が組み合わさって作られました。アントクロルはカルコンとオーロンからなり、ダリアやカーネーションの黄色の色素です。アントキサンチンにはフラボン、フラボノール、カテキン、イソフラボンなどが含まれます。フラボンやフラボノール化合物は花に限らず植物のあらゆる部位に存在しています。紫外線防御、また細菌からの防御、空中窒素を固定する根粒細菌とのシグナル物質としても幅広く利用されています。
なおフラボノイド類はアミノ酸であるフェニルアラニンから作られるフェニルプロパノイド代謝物の仲間で、細胞壁構成要素のリグニンやクチクラのクチン、皮なめし剤として利用されるタンニンもこの仲間です。タンニンは動物の消化酵素の働きを抑制し、消化不良を起こす事で動物の食害から身を守る役目も果たしています。
ベタレインはアントシアニンを合成する能力のない植物が、赤〜青い色を出すために用いている色素です。ケイトウ、ウチワサボテン、オシロイバナ、ブーゲンビリア、マツバボタンなどナデシコ目の9つの植物の科(全部で11の科があり、ナデシコ科のカーネーションやカスミソウではアントシアニンで発色)とベニテングタケなどの菌類に限定して含まれる色素です。ほうれん草の根や赤(レッド)ビートにも含まれています。べタレインは赤紫色のベタシアニン類と黄色のベタキサンチン類に大きく分かれます。赤ビートのベタシアニンは天然の食品着色剤としても利用されています。ベタレインは無毒ですがベタレインはアルカロイドの仲間で、この仲間にはトリカブトの毒やケシに含まれるモルヒネなどが属しています。
このようにナデシコ目の植物がなぜアントシアニンではなくベタレインをつくるようになったのかは不明ですが、その中のウチワサボテンは亜熱帯から熱帯の高温かつ乾燥している非常に厳しい環境で棲息しています。このような環境では酸化が起こりやすく、果実中の種子を保護し子孫を残すためには強力な抗酸化物質が必要です。ちなみにベタレインとアントシアニンはほぼ同じ太陽光の吸収波長をもっていますが、ベタレインの抗酸化能力はアントシアニン色素のカテキンのみならずカロテノイド色素のルチン、またアスコルビン酸よりも強力のため、より強い抗酸化物質が選択されたのではないかと考えられています。
ベタレインも水に溶けやすく、細胞内の液胞に溶けて存在していますが、生体膜などに対する吸着性が高く、また消化管からの吸収性も高いという特徴をもっています。また、ベタレインはチロシンから作られます。
キノン類は植物界に存在する黄色や赤色の物質です。植物では樹皮や根に含まれています。キノン類で有名なのは、染料のシコニンです。紫草(ムラサキ)の根の皮膚に含まれ、紫色の染料や、虫さされ・火傷・創薬として昔は使われていました。また他に同じく染料として用いられていたアントラキノンがあり、これはセイヨウアカネの根からとられていました。またアロエは黄色や橙色の花を咲かせますが、これにもアントラキノンが含まれます(アントラキノンは黄色から紫色まで発色)。
以上、植物の色素を説明しましたが、このような色素は、光の利用、また光に関連した各種の障害から植物体を守る、生体防御とも密接につながって利用され、さらに動物との共生や動物からの防御に利用されています。