さてしばらくぶりになりますが、動物が光をどのように受光しているのか、視細胞を中心にその機構を紹介します。まず光を検知する網膜の構造からみてみましょう。
網膜と一言でいわれていますが、網膜は10層ほどの集まりです。脊椎動物では、水晶体(レンズ)側から光が入射しますが、レンズ側の網膜には神経細胞が集まっています。光を受光する視細胞(稈体細胞と錐体細胞)は網膜の奥にあり、色素上皮細胞に対向しています。色素上皮細胞を介して脈絡膜の毛細血管から栄養分などが供給されます。色素上皮細胞の視細胞側には多数の細胞突起があります。哺乳類ではこの突起は短く、視細胞外節の先端部を取り囲んでいるだけですが、鳥類以下の脊椎動物ではこの突起は太く長くなり視細胞の内節まで達する事があります。コイなどでは桿体と錐体の間隙を完全に埋めています。
入射した光はこの視細胞で電位変化や電気信号に変えられて、神経を通って脳に伝えられます。光に対する感度が高いのは桿体細胞ですが、応答の早さや暗順応の早さは錐体細胞が優れています。暗い所でも眼が見えるのは、稈体細胞が働いているためで、明るい所での視力確保や色の検知には錐体細胞が働いています。ちなみに人間の網膜には約650万の錐体細胞と約1億2,000万の桿体細胞があります。一方、神経節細胞は100万、視神経繊維の数は120万程度しかなく、網膜内で複数の視細胞が1つの視神経繊維に結合し、シグナルが統合されていることがわかります。つまり脳に情報として送られる前に既に前処理が行われている事になります。なお、他の哺乳類には既に述べた様に、人間の数分の1から1/10程度の錐体細胞しか存在していません。従って色に関する分解能は哺乳類では人間が優れています。但し、人間の赤ん坊は生まれた時には色は分かりません。生後2,3ヶ月で漸く色の区別ができますが、最初に認識される色は“赤”であるといわれています。なお、他の動物、例えばキンギョ(4年魚)では約14万の錐体と150万の桿体細胞が確認されています。
脊椎動物の大部分はこのような錐体と桿体細胞をもちますが、錐体のみをもつ動物や桿体のみをもつ動物もいます。例えば、錐体のみもつ動物としては昼行性のトカゲ、ヘビ(一部のへびでは両方もつものもいます)、齧歯類のリスなどが、また桿体のみもつ動物としては夜行性のムササビ(齧歯類)などの動物がいます。
このように昼行性の動物では錐体が多く、夜行性動物では桿体細胞が多くなりますが、夜行性の動物では視覚の他に聴覚や臭覚が特に発達しています。
また夜行性動物のように桿体優位の動物では網膜中心部に視細胞節が集中して分布しておらず、光感度は高い反面、視力が弱い傾向があります。また夜行性動物では光を多く取り入れるために眼自体が大きくなり、特にレンズと角膜など前眼部が大きくなっています。逆に、昼行性動物では光の入り過ぎをさけるために、前眼部が小さいという特徴があります。なお、鳥類は“鳥目”とよく言われていますが、これは錐体細胞に比べて桿体細胞が少ないためです。桿体が無い訳ではありません。