視細胞についても詳しくみて見ましょう。視細胞は、外節と内節から構成されています。稈体の外節は円盤が積み重なった形状をしています。この円盤は通常900〜1,000枚程度(カエルで約1,000枚、ウシでは約180枚)の枚数がありますが、この円盤を構成している上下の二重膜に光を受光する視物質が入っています。視物質は膜に埋め込まれていますが、この膜は通常の生体膜よりも柔らかく、流動性があるために視物質(ロドプシン分子)は比較的自由にブラウン運動をしていると考えられています。
この円盤はたえずつくられており、時々、何枚かが先端から脱落し、色素細胞上皮に取り込まれて消化されます。この脱落には24時間のリズムがあるようで、朝方、目覚める頃に生じているとの報告があります。人では10日から12日程度で、カエルでは2カ月程度ですべての円盤が入れ替わりますが、脱落円盤は色素上皮細胞に吸収されて視物質がリサイクルされる機構になっています。一方、内節には細胞核、ミトコンドリアなどがあり、通常の細胞と同じようになっていますが、視細胞に必要なタンパク質やエネルギー源のATPなどはこの内接部で合成され、外節と内節をつなぐ細い部分(結合絨毛)を通して外節に供給されています。また各種イオンもこの通路を通して輸送されています。なお発生学上からは、外節はこの結合絨毛が変形したものといわれています。
一方、錐体の外節は円錐形状をしています。稈体では円盤が積み重なっていましたが、錐体では独立した円盤にはなっていません。錐体の外節は、先細りの櫛を回転させた形状をしており、櫛の歯の上下の膜に視物質が不規則に入っています。なお錐体では桿体と異なり、外節部の脱落現象は起きません。
なお、脊椎動物で最も下等な無顎類のヤツメウナギには長短2種類の視細胞が見つかっています。ともに外接が折り畳み込まれた錐体のようになっていますが、短細胞にロドプシンが、また長細胞に赤感受性の視物質が含まれています。従って進化という観点から、短細胞は高等脊椎動物の桿体に、長細胞は錐体に対応していると考えられています。
錘体細胞は哺乳類ではほぼ1種類ですが、魚類(硬骨魚)・両性類・爬虫類・鳥類、また有袋類や単孔類では大小2つの細胞が対になる(双錐体または複錐体と言う)ケースがあります。つまり2つの錐体細胞がくっついた形をしているのです。魚類では全く等しい錐体が2つ接触した双錐体といわれる形態を、他の脊椎動物では主体と副体が緊密に接触した複錐体という形をとります。主体には油滴がなく副体に油滴があります。反面、主体にはグリコーゲンなどのエネルギーの貯蔵所であるパラボロイドがありますが、副体にはありません。これらの複錐体や双錐体は単一の錐体と共存していますが、その機能や役割についての詳細は不明です。また複錐体をもつ動物の中でも爬虫類は特に種により多様な視細胞をもっています。ワニは錐体や複錐体をもちますが、夜行性となったために桿体から双極細胞につながる部分の分岐が多くなっています(錐体のように)。昼行性のトカゲは錐体しかもちません。夜行性や地中性のトカゲ(ヤモリを除く)も錐体しかもちません。ヤモリは夜行性ですが、錐体が2つくっついて桿体状になった視細胞をもっています。またヘビでは地中性のへび、例えばメクラヘビには桿体しかありません。ボアなどでは錐体と桿体があり、その他のヘビには錐体、複錐体、桿体があります。カメも錐体、複錐体、桿体をもちます。海亀では稚亀が卵から孵った後、海に向かいますが、この時、海からの紫外線に誘因されて海の方向に向かう、といわれています(陸よりも海側からの紫外線が強い)。
なお、前述のように、爬虫類のトカゲの視細胞には錘体細胞だけがあり、ロドプシンを持たず、夜には目が見えません。このようなトカゲから進化したと推定される夜行性のオオトカゲは、桿体をもっていますが、この視物質はロドプシンではなく錐体の視物質に属するものです。ヤモリも夜行性トカゲから分岐したと考えられており、ほとんどのヤモリは夜行性です。このヤモリの桿体視物質も錐体タイプのオプシンに由来しています。夜行性になってもロドプシンを失っているために錐体の視物質を利用し、視細胞が桿体化したものと考えられています。
一方、両生類のカエルでは432nm(緑桿体)、502nm(赤桿体)に吸収ピークをもつ2種の桿体視物質と、錐体視物質として単錐体で572nm、複錐体で572nmと502nmの吸収ピークを持つ錐体視物質が確認されています。なおカエルでは視物質のM2(緑)グループに相当するものはまだ見つかっていないようです。このカエルの緑桿体にはキンギョやニワトリの青感受性錐体視物質とよく似た視物質が存在しています。