それでは、次に動物の視野範囲の差異について、まず哺乳類から見てみましょう。
以下、下図のように両眼視野範囲はで、単眼視野範囲は、盲視範囲はで示されており、下図はネコのケースです。
・人やネコ:眼が前方にある事から、両眼視の範囲は広く、体の前方、120〜124°の範囲です。また単眼のみでしか見えない領域はネコでは80°ありますが、人間では40°程度です。従って人間やネコでは後方に大きな死角領域が広がっています。人間やネコ類は両眼視に特化した眼を持っているといえるでしょう。また、大型の肉食動物では両眼視野は60°〜130°あると言われています。
・ウマ:比較的側方に眼があり、両眼視できる範囲は狭く、前方65°の範囲ですが、単眼でのみ見える範囲が広く、145°程度もあります。このため死角は、後方数度程度しかありません。ウマは後方も良く見えるのです。競走馬で目隠しを付けているのは後方を気にさせず、前方に集中させるためと言われています。
・ウサギ:ウサギの眼は少し突び出た構造をしています。両眼視領域は前方と後方、各々約10°の非常に狭い範囲で、周辺の大部分は単眼でしか見ていませんが、360°見る事が可能で、“ウサギには見えない死角はありません”。従って、動く事なく(つまり捕食者に見つからず)体を不動にしながら敵を警戒できる事になります。
・ラットやハムスター:両眼視野は30°程度と言われています。
鳥類:
鳥類では眼は眼窩に固定されていますが、視野は帯状に広いのが特徴です。但し、両眼視野は狭く、ニワトリでは26°しかないために首を動かす(回す)事でこの欠点をカバーしています。但し、ワシやタカなどの猛禽類は比較的視野は前方に偏っているようです。
・ハト:両眼視野は22〜23°ですが、単眼でのみ見える範囲は広く、145°〜147°程度あります。従って後方の死角は45°程度です。
・ヤマシギ:ヤマシギは林、草地、農耕地、湿地などに生息しミミズなどを食べている鳥です。夜行性で、狩猟鳥になっていますが、眼が他の鳥よりも若干頭部の上方に位置しています。両眼視野は4.5°と非常に狭い代わりに、単眼では約180°見る事ができ、ほぼ後方に死角はありません。
・タカやチョウゲンボウ:これらの猛禽類ではあまりデータは無いようですが、ワシタカ類の両眼視野は広く30°〜50°、チョウゲンボウの全視野は300°と言われています。
・フクロウ:フクロウは夜行性のハンターで小型の哺乳類や鳥類、また昆虫などを食べま
爬虫類:
爬虫類は比較的両眼視野が狭く、良く見るためには首を回して対象物を中心に捕捉する必要があります。この中でヘビが最も広い両眼視野をもっています。
・ヘビ:両眼視野は前方の20〜46°です。
・カメ:カメの両眼視野は前方、18〜38°と若干ヘビより狭い範囲です。
・トカゲ:両眼視野は前方14〜32°で、全視野は330°程度です。
・カメレオン:カメレオンは独特の眼をもっています。眼が突き出ており、単眼が独立して動かせるのです。単眼の視野は数十度と狭いのですが、動かす事で全体をカバーしているといえます。また必要に応じて両眼視もできます、眼の動かせる範囲は、水平に180°、垂直には90°もあります。また水中の捕食者であるワニ(クロコダイル)では両眼視野は狭く25°といわれています。
魚類:
魚類では視軸が前方、上前方、下前方に向いている種があります。また、良くカメラレンズでも広い範囲を撮影する時に魚眼レンズを使いますが、魚の眼は頭部の両側にあり、レンズが虹彩よりも突き出ている事から広い単眼視野をもっています。マダイは視軸が下前方(約20°)に向き、ゴカイやエビなどを狙いますが、両眼視野は28°あります。
このように視野は動物それぞれ、生活環境などによって大きく異なっていますが、捕食者は単眼視野を狭めても両眼視野を比較的広くとり、他方、被捕食者では視野全体を広くして警戒態勢を全方位にする傾向があります。
一方、複眼ではどうでしょうか?既に説明した上記のカメラ眼ではレンズが1つしかなく、視野は限られます。しかし複眼では構成する個眼の数をある程度増やし配列する事で単眼より視野は広がります。また複眼は通常、頭部から飛び出した構造が採用されており、それだけでも広い視野が確保されます。このように複眼をもつ動物の視野はカメラ眼をもつ動物より広いという特徴がありますが、その範囲は種により異なります。ちなみにイトトンボは半球状の複眼を持ち、周囲360°を立体的にカバーしています。