MARKの部屋視覚や色と 動物の行動を話題にします

4.動物の眼・視覚

視覚情報処理:昆虫1

 既に、視覚の全体性能について述べましたが、ここからは昆虫と脊椎動物を代表例に、視覚情報がどのように処理されているのかを紹介します。
 昆虫の脳は、複眼からの視覚情報を処理する視葉、各種の感覚情報を統合し行動決定を起こす前大脳、触角や匂い情報などを処理する中大脳、上顎の接触感覚情報などを処理する後大脳に分かれます。昆虫では視覚器と臭覚器の発達が著しく、脳の大部分はこれら視覚と臭覚情報の処理機能で占められています。
 昆虫は複眼と単眼をもちますが、複眼の場合では、複眼の網膜上にある視細胞の情報が網膜下にある視葉(視覚中枢)に伝達され、画像情報の抽出が行われて、その後、前大脳に情報が送られます。ちなみに昆虫ではハチやハエは視覚が良く発達していますが、イエバエの場合、脳の神経細胞3.4×105個の内、2.7×105個が視葉を形成しており、脳の約80%が視葉で占められています。
 視葉はラミナ(視葉板:第1次視覚中枢)、メダラ(視随:第2次視覚中枢)、ロビュラ複合体(視小葉複合体:第3次視覚中枢)の3つの領域から構成され、情報はこれらに順次送られます。ラミナでは、まず像の輪郭情報が抽出されます。明暗の空間的な境界(コントラスト)情報が抽出されるのです。コントラスト情報は相手を識別するのに非常に重要な機能で、生きた化石と言われるカブトガニにもこの機能があります。
 次にメダラでは比較的狭い空間範囲内での運動や色が検知されます。これにより特定領域の動きや色が検知されます(ハチ類では色についての情報がメダラで処理されています)。
 最後にロビュラ複合体では、メダラからの局所的な情報が統合され、物体の形の認識やより広い視野全体の動き(運動方向や速度などのオプティカルフローのパターン)などの情報が抽出されます。自分の体や眼を動かすと視野全体の像が動きますが、これがオプティカルフローです。
 動き検出は光強度の時間的変化に対応する事からコントラスト検出と同じ事です。従って昆虫では、まずラミナで空間的なコントラストを検出し、続くメダラやロビュラで動き検出がなされるという処理順になっているのです。またこれが運動視のベースになっているのです。一方、アリ、ハチなどの昆虫の複眼の背縁部には紫外線を受容し偏光検知する領域がありますが、この紫外線受容視細胞からの神経軸索はラミナを通り抜けてメダラに接続しています。その後、前大脳に情報が送られます。
 これら3つの領域での処理は網膜での視細胞の配列と1対1に対応させて行われている事が大きな特色です。視葉で処理された情報は、最後に前大脳で単眼系の情報や感覚毛による風情報などと統合され、運動や飛行制御に用いられます。昼行性昆虫の複眼では視細胞の光受容の化学反応が非常に高速であり、これがCFF(臨界融合頻度)が高い原因になっていますが、この複眼の時間分解脳の高さ、単眼情報の高速伝達、またオプチカルフローのパターンを脳で高速に処理する事などが、ハエなどで高速アクロバット飛行を実現できる理由です。 ちなみにハエではメダラで物体の運動情報抽出ニューロンが出現し、メダラ−ロビュラ間に運動方向抽出ニューロン、円運動に応答するニューロンおよび、運動の方向抽出と速度抽出が組み合わさったニューロンが存在し、動き検出はこれらニューロンによる働きで開始されます。



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