MARKの部屋視覚や色と 動物の行動を話題にします

3.動物の体色・紋様

動物の皮膚

 動物の体色について説明する前に、まず体色を表現している“皮膚”について考えてみます。皮膚に色々な色が付く事で体色が発現しているのです。このような皮膚はどのように出来ているのでしょうか?

イ)皮膚の形成
 皮膚がどのようにできるか説明しましょう。受精した卵は細胞分割して各種の器官を発生させてゆきます。クラゲなどの刺胞動物を除き、通常の動物は三胚葉生物であり、胚から外胚葉、中胚葉、内胚葉の3つの部分に分かれて成長します。
 外胚葉からは神経系や表皮が、中胚葉からは筋肉や骨(軟骨を含む)、血液、リンパ、腎臓、また真皮が、内胚葉からは気管、消化管や尿路、肝臓などができます。皮膚は良く知られているように、表皮(基底膜を含む)と真皮から構成されていますが、表皮は外胚葉、真皮は中胚葉と器官発生元が異なっている事をまず理解する必要があります。それでは皮膚の色を発現させる色素はどこから発生するのでしょうか?脊椎動物では外胚葉性中胚葉(の神経冠細胞)がその発生源になっています。従って、
外胚葉に由来する表皮、中胚葉に由来する真皮と色素の3つで基本的な体色が決まる事になります。脊椎動物では、外胚葉が縊れて神経菅ができあがりますが、この時に神経冠細胞といわれるものが神経菅の背側から発生します。神経管は脳を含む中枢神経系となりますが、神経冠細胞は中枢神経系の外で各種の神経系を形成し、その中に色素を形成する細胞も含まれています。詳細は後で説明しますが、神経冠細胞は神経冠が形成された後、幾つかの経路(背側、腹側等)を通って体中に分布します。最終的な到達地点に着くと、色素をつくる細胞(色素細胞)として活動を行うのです。

ロ)動物の体色を発現する色素
 動物の体色や斑紋は種により特有ですが、皮膚に特有の色素を蓄え、これを見える様に表面に示す事で色を表現しています。また中にはカメレオンやイカ・タコのようにこの体色を変える事もできる動物がいます。体色に関する
色素は、魚類・両生類・爬虫類では色素細胞という色素を蓄えて発色する細胞内に止まりますが、鳥類、哺乳類、昆虫類では色素細胞から表皮細胞やクチクラ層、また体液などへ輸送される事があります。ここではまず脊椎動物について動物がもつ色素をまとめてみます。
 色素を保有する細胞は色素細胞(色素胞)といいますが、色素胞には、発現する色により大きく分けて、
黒色素胞、赤色素胞、黄色素胞、虹/白色素胞があります。またどの色素胞の色素顆粒も細胞内の小胞・ゴルジ体から形成されていると考えられています。色素のうち、赤や黄色の顆粒は色フィルターとして、虹や白色素顆粒(実際には反射小板形状をとる)は光の反射・散乱を、また黒色素顆粒は光の吸収を行う働きをしています。
 鳥類や哺乳類などの
恒温動物は黒色素しか体内で合成できません。哺乳類では2種類の黒色素を組み合わせて表皮や体毛の色を出しています。鳥類では羽根をもつ事から、黒色素そのもの、また黒色素とこれを内包するクチクラ膜での光の散乱・干渉現象、また餌経由の他の色素を組み合わせて利用し、多彩な体色を表現しています。
 他方、
爬虫類、両性類、魚類などの変温動物では、黒色素胞の他に、前述の赤色素胞、黄色素胞、虹/白色素胞の4種類をもっていますが、両生類や爬虫類では黄・赤色素胞、虹色素胞、黒色素胞がこの順に組み合わさった複合体をもち、魚類でも虹色素胞と黒色素胞が同一場所に存在している場合が多くあります。このように変温脊椎動物では、色素細胞の配列や重ねあわせなどを組み合わせ、種独特の体色を表現しています。
 脊椎動物と比較すると、無脊椎動物の体色については不明な点が数多く残っています。無脊椎動物のイカやタコのような軟体動物でもこれらの色素細胞が存在していますが、節足動物では事情が異なります。節足動物は堅い外骨格をもっています。キチン質の堅い外骨格自体にも色がついているカニやエビ、表面のクチクラや真皮、体液に色素が存在し、これらの組み合わせで多彩な色を表現する昆虫類など体色の表現様式は多彩です。また甲殻類では多数の色素胞が集まった多色性の複合体も見られます。
 
昆虫の体表面のクチクラは、チョウなどの鱗粉のように独特の立体構造をとる場合があります。この構造により太陽光自体の反射・散乱・干渉現象を利用して色素によらない色も発現しています。また色素とこれら反射・散乱・干渉光を組み合わせる事でも色を発現します。さらに節足動物は脱皮をして大きくなります。昆虫では特に脱皮により体色は大きく変化しますが、幼虫の時の餌から取り入れた色素や蛹の時に体内で作られる排泄物(代謝物)なども成虫時の色素として無駄なく利用されます。



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