MARKの部屋視覚や色と 動物の行動を話題にします

3.動物の体色・斑紋

体色とコミュニケーション:

ハ)両性類
 イモリは尾を切っても再生する事が良く知られています。この中でお腹が赤いアカハライモリ(ニホンイモリ)は地域により遺伝的、形態的にも異なるようですが、流れのない淡水に住む日本固有の種です。このアカハライモリは繁殖期(4月〜7月頃)には婚姻色として雄の尾が薄紫色になります。雄は雌を探すのにこの婚姻色を手がかりとし、尾を雌の前でふるわせる等をして求愛行動を行います。また前述のように敵に対しては赤い腹の色を示して警告します(後述)。なお婚姻色による性の識別は個体間距離が近い時に有効に働き、距離が離れる時には化学刺激を用いているとの報告があります。

ニ)魚類
 人の目にはオスとメスの区別がほとんどできない魚でも、紫外線の反射率がオスとメスで大きな差があり、紫外線が見える魚では両者の視覚上の差は明瞭な場合があります。サンゴ礁に棲むベラ科の魚、イエローフィンフラッシャーラスの雄は胴体や背鰭が通状は黄色いのですが繁殖期には赤い婚姻色の模様が出ます。また交尾時に、雄は体に描かれた青いしま模様をネオンのように点滅させます。この青い光線に発情したメスは、オスと一緒に上昇しながら大量の卵を一気に産み落とし、オスもそこへ精子を放出します。交尾が終わるとオスのこの輝きは失われます。この輝きは虹細胞胞のグアニンで青い光を反射する事で生じています。またルリスズメダイは、虹色素胞により紫外線を反射しています。これにより仲間同士の識別を行っています。サンゴ礁にはスズメダイ科の魚が多数棲息していますが、色や模様の差異で同種や近縁種を識別しています。このような模様の変化と行動についてはティラピア類や日本のオヤニラミ類で詳しく観察がおこなわれています。同様にネオンテトラやカージナルテトラの体側縦縞部は、虹色素胞によるものですが、これは夜間は濃い紫色を反射し、目立たないのですが昼間は鮮やかな青緑色を反射し、個々の個体をよく識別できるようになります。緊急の場合には交感神経の働きで、さらに赤色まで変化するようです。
 アフリカのビクトリア湖にはカワスズメ類の魚が300種以上も生息しています。同じ場所でどのように同じ種を見つけているのでしょうか?実は雄が種毎に異なる特徴的な赤や青、黄色の体色や模様をもっており、雌がこれを見分けています。ちなみに周囲の光線の色を変えて体色を見分けられなくすると他の種との交配がおきます。また、シクリッドという魚は、同じ場所で違う水深に生息する2種,プンダミリア(Pundamilia pundamilia)と近縁種のニエレリ(Pundamilia nyererei)に分かれています。ビクトリア湖は透明度が低(2m程度)く,湖中は暗いうえに,短波長の光が急激に減衰し,長波長(赤)寄りの光が支配的です.双方の魚の視覚遺伝子を比較すると,それぞれの生育する光環境に高い感受性を示す別々の塩基配列を持っています。プンダミリアは水深1〜2mの場所に住み,雄の婚姻色は青味が強く,ニエレリは水深4m以上の場所に住み,雄の婚姻色は赤くなります。これらの種は同一の祖先をもっていますが,視覚に関する突然変異が起きて住み分けが起き,さらに婚姻色が変化し、色により雌が交配相手を選ぶ事で種が分化した事が日本の研究で明らかになりました。“雌が体色や模様により雄を選別する事で同じ場所で共存する複数種が交雑し合わないで棲息する”機構を果たしています。
 また、魚類の婚姻色ではサケやマスが繁殖期に体色を赤く変化させるのは有名です。これらの魚では、通常グアニンにより体表が銀色をし、全カロチノイドの約90%は筋肉に存在します(このカロチノイドは主にアスタキサンチンです)。繁殖期になると、まずグアニンが体内に吸収され、雄では筋肉のカロチノイドの大部分が皮膚に移動し、一部は精巣にも移動します。一方、雌では主に卵巣にカロチノイドが移動し、一部は皮膚に移動します。従って、主に婚姻色は雄で強く表れます。また、このカロチノイドの移動は血液を通して行われ、ホルモンも関係して生じます。また最後の段階では、表皮の色は黒っぽくなりますが、これはメラニン色素によるものと考えられています。また日本人にお馴染みのタイですが、繁殖期にはオスは全体的に黒くなり、メスは全体に赤味がましますが、これも婚姻色の例です。おめでたいタイのイメージの赤は婚姻色だったのです。同様にタナゴ類やトゲウオの仲間では、多くの雄であごの下部から腹部にかけて鮮やかな赤色が出現します。この婚姻色により雌に対する配偶行動や雄間での雌をめぐる争いが誘引されます。イトヨもトゲウオ科の魚ですが、春の繁殖期に雄の腹部が赤く、背部は青い婚姻色となります。この時期、雄同士は腹部の赤い色により同種の雄である事を識別して互いを攻撃します。但し同じトゲウオ科でもトミヨではオスは婚姻色で黒ずみます。婚姻色はこの他にもアユ、ウグイ、オイカワなどにも見られます。
 グッピーの雄は黄赤色素、黒色素、虹色素をもちますが、黄赤色素により、体表にオレンジ色の斑紋をもちます。野生のグッピーでは集団によりこの斑紋の形状や色合いが大きく異なりますが、この斑紋が大きく濃いほど雌から繁殖相手として選択されます。このオレンジ色は餌の藍藻から採取したカロテノイド色素です。斑紋の大きさや色は、雌にとって雄の栄養状態を示す1つの指標に相当しているようです。但し、強い捕食者(カワスズメ等)がいる川に棲む雄では斑紋は目立たず、個体間の変異も少ないようで、早く成長し、繁殖を開始する時期も捕食者がいない場合よりも早いとの事です。
 なおこの他の婚姻色として、サンゴ礁に棲むイレズミフエダイでは雄が黒に、雌が白い婚姻色になり、カンムリブダイでは雄の顔のみが能面のように白くなる例が知られています。
 カジキは、昼は数百メートルの深海にいて、夜は表層に出てきますが、かれらは集団でイワシなどの小魚の群れを追い捕食します。背びれを立てながら集団で群れを囲み、表層に導いて逃げ場を塞いだ上で、小魚の群れに突っ込み、口吻で魚をはじき飛ばして捕食します。このとき、複数のカジキが集団に突っ込むと口吻で仲間を傷付ける可能性が出てきます。これを防止するために、体に縦筋を出現させたり、体色を銀色や黒色に変化させて目立たせ、互いに注意するようにしています。



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