MARKの部屋視覚や色と 動物の行動を話題にします

3.植物の色

動物と種子

いままで種子の散布の仕方について紹介してきましたが、次に具体的な動物と果実との関係を見てみましょう。
 ムラサキシキブ、マンリョウやアオハダなどのベリー類は1cm程度までの果実を秋から冬にかけてつけます(
ベリーという名称は汁の多い多肉質の小果実をさす総称です。“ベリー”は植物分類名ではなく、果実の外見は似ているものの種子の形状、大きさは種により異なります)。これらは丁度スズメなどの小鳥が食べれる大きさしており、かつ緑色の葉の中に赤や紫色の色をして、鳥にとって目立つ色をしています。中にはクサギのように青い果実を赤い蔕が支えており、非常に目立つ組み合わせの色彩をしている植物もあり、まさにベリー類の果実は鳥に対する色彩広告塔になっています。特に黒っぽい果実の色は、紫外線を反射しているといわれ、人間にとって目立たない色ですが、鳥には目立つ色なのです(次章の視覚を参照)。ベリーは多汁質の果肉と堅い種子からなる果実を持ちますが、鳥はこれらの果実を食べ、移動中に種子を糞として排出します。種子は消化液にさらされても影響をうけません。中には消化を受ける事で発芽率が高くなる植物もいます。なお、鳥以外にも哺乳類のタヌキもベリー類をよく食べます
 鳥散布の場合について果実を調べた結果では、このような果実ではほとんど臭いが無く、色も赤、黒、青、橙、緑、紫、白など多彩ですが、特に色として赤と黒の比率が高い事が示されています。果実食鳥に対しては赤・黒は目立つディスプレイのようです。なおブドウの仲間には多肉果の表面に蝋状の白い粉をもつものがあります。この粉は紫外線を反射する特性があります。但し、この紫外線反射が鳥を引きつけるディスプレイ効果がある事はまだ示されていないようです。一方、前記のように、果実には水気が多く、赤色等の派手な色をもつ多肉果と乾いてぱさぱさで地味な色をもつ乾果があります。多肉の果実は秋から冬に熟し、堅果などは9月から10月に熟しますが、これは種子散布者である鳥、特にシベリアなどからのツグミなどの渡り鳥の数が最大となる時期と一致しているようです。特に周食型の鳥、ハト科、キツツキ科、ヒヨドリ科、ヒタキ科、ムクドリ科等の鳥にとってヒナが成長する夏にはタンパク質が多い昆虫を主に食す事も関係しているようです。
 ムクドリやカラス類は果実食専門の鳥ではありませんが、中型鳥のツグミやヒヨドリなどスズメ目の鳥では、前記のように比較的水気の多い多肉果を好み、より大型のカラス類は乾果をより好む傾向が強いようです(カラス類は脂肪分やアミノ酸に富む食物を好むと言われています)。鳥の餌の傾向は繁殖期など季節により変化しますのでまだまだ研究を重ねる必要があるようです。
 他方、ブドウやアケビなど我々人間にもなじみの深い果実は色も目立ちますが、匂いもある程度強くなっています。このため、視覚は弱くとも、臭覚の発達している哺乳類に種子を運んでもらっていると考えられています。例えばキツネやテンなどがこれらの種子散布者になっています(哺乳類に比べ、鳥類は嗅球はあまり発達していない事を思い起こしてください)。また周食型では果実や種子の長径が種子散布者を決めているようです。ゾウでは果実の長径が35cm程度まで、また種子の長径も6.5cm程度までですが、ゴリラやチンパンジーでは果実長径が12cm以下、種子長径は4cm以下となり、オナガザル類では果実長径が4cm以下、種子長径は2.5cm以下となるようです。手や鼻で取り扱えるサイズと飲み込んで排出できるサイズの両方でこれらが規定されているのです。
 一方、種子自体も面白い特性をもっています。先に葉などでは遠赤外光を吸収しないとのべました。従って、木の葉が密集した地面には遠赤外光が多くなります(緑光はこれよりは少ない)。従って、地面に落ちた種子はこのような環境で発芽をしても、赤や青色光がないために光合成ができず成長ができない事になってしまいます。このため種子は光の波長域を感ずる機構をもっており、この機構の情報で発芽時期を決めています。光を感ずる物質はフィトクロムという物質です。フィトクロムは、弱光反応では660nm近辺の赤色光によって活性化され、730nm近辺の遠赤色光によって不活性化されるという性質を持っています。
 最後にアリによる散布について述べてゆきます。鳥や哺乳類とともにアリも重要な種子散布者です。特に植物を餌としている収穫アリがその代表例です(種子散布者のアリは通常雑食性です)。日本ではクロナガアリが良く知られていてイネ、タデやシソなどの果実や種子を巣に運びます。運ばれた果実や種子は、いったん巣の貯蔵室に蓄えられ、その後食されます。しかし運ばれたものがすべて食べられる事はなく、また運搬中にも捨ててしまう事もあり結果的に種子散布者になっているのです。
 通常、アリに種子を運ばせるために、アリ散布植物は果実や種子に特別な付属体を付けます。これはエライオソームと呼ばれるもので、ここがアリにとっての主な食料となります。エライオソームは白色または乳白色をしています(海外では赤や黄色のものも見つかっている)が、オレイン酸やリノール酸などの脂肪酸とグリセリド、また水溶性のアミノ酸、フルクトースやグルコースなどの糖分を含んでいるのです。また植物の種類により脂肪酸などの成分組成は異なるようです。アリは、運搬時にエライオソームだけを運ぼうとしますが、この部分は種子と堅く結合しているために、エライオソームがついた種子を巣に運び、エライオソームを食したあとに、種子をゴミとして捨てるのです。
 アリ散布を利用している植物は、日本ではカタクリ属、イチリンソウ属、フクジュソウ属があり、鳥類などと異なり、初夏に散布されています。


copyright©2012 Mark Pine MATSUNAWA all rights reserved.