節足動物の昆虫、甲殻類やクモ類は発達した眼をもっています。特に、紫外線や偏光を検知する機能は昆虫で初めて発見されました。地球上に存在する生物の約80%は節足動物といわれていますので、眼に関しては節足動物がもつ複眼が地球の動物では主流になっています(なお節足動物の約90%が昆虫といわれていますが、全生物の正確な種類数はわかっていないのが現状です)。
昆虫や甲殻類の複眼は通常、20個程度から数万個の個眼があつまった構造をしていますが、複眼は脊椎動物の眼とは外見・光学系が大きく異なります。また、複眼の他に単眼をもつ場合があります。ちなみにトンボのような大きな目では個眼は2万数千個、ハエで6,000個、ミツバチでは女王バチは3,000〜4,000個、働きバチで4,000〜5,000個、雄バチで7,000〜9,000個の個眼を持っています。他方、身体の小さなアリでは、ある種の働きアリで100〜600個程度しか個眼がありません。また土の中や洞窟など暗い環境に棲む昆虫ではわずか数個の個眼しか持たない例もあります。このように種により複眼を構成する個眼の数は異なりますが、中には性により大きく異なるケースもみられます。あるホタルでは雄は2,500個の個眼をもつのに対し、雌ではたった300個しかもたないのです。またアブやハエでは複眼の背面と腹面では個眼の大きさが異なっています。さらに雄バエは雌バエを追跡して交尾しますが、雄バエの複眼前部は雌バエと比較すると両眼の視野が重なる部分が多く、雌を追跡するのに適応しています。
この他にもミズスマシなどでは複眼が上下に2分されており、カゲロウや南極の海底に住む等脚目などでは背部と腹部に別々の4つの複眼を持つ例もあります。また、複眼を構成する個眼は複眼内で場所によりその構造や特性が異なるという具合に、複眼といっても単純に議論ができない複雑な構造になっているのです
一方、節足動物の中でも鋏角類のクモでは複眼ではなく、通状、8個(4対)の単眼(ハエトリグモでは前方に4つ、後方に4つ)をもち、節足動物の中でも特殊です。
ここでは節足動物のもつ単眼や複眼、またクモのカメラ眼について紹介してゆきますが、まず単眼から紹介しましょう。
・昆虫(成虫)の背単眼
セミ、ハエ、バッタ、ハチなど多くの飛行する昆虫(有翅昆虫)は光感覚器として複眼の他に3個の単眼をもっています。ちなみにハエは頭の左右に大きな“複眼”が、また前額に1つ、頭頂に2つの合計3個の“単眼”をもっています。通常の眼として働くのは複眼ですが、単眼は明暗分布を素早く検知する機能をもっています(単眼の光受容器はレンズの焦点より前に位置し、ぼやけた像しかえられません)。これら昆虫は飛ぶ時に、単眼視野の下半分に地面が、上半分に空がくるように飛ぶ事で、前方の単眼で身体の縦揺れを、また後方の2つの単眼で横揺れを検知し、飛行中の姿勢制御を行っています。なおハエの複眼は頭に固定されており、動きません。トンボの背単眼も飛行中に水平線の方向を検知する平衡器官として機能する事が判明しています。これらの背単眼は複眼よりも光に関する感度が非常に高い事が特徴です。また単眼の神経系は複眼系に比べ、太い軸索をもち、信号伝達が速く行われています。このように、明暗検知の感度や速度が複眼より優れている事がこのような単眼の特徴です。またこのような単眼の多くは紫外光と可視光を受容する両方の視物質をもっています。なおカブトムシは飛行しますが単眼を持ちません。
・幼虫(完全変態昆虫)の側単眼
ハチ、チョウ、ハエなどの完全変態昆虫では、複眼は成虫になる時点で形成され、幼虫時代には存在しません。これらの幼虫は複眼の代わりに身体の左右に単眼(側頭眼と呼ばれる)を対で持ち、1対から3対(またはそれ以上)が頭側面に並んでいます。この側頭眼は解像度は低いものの、ものの形、また色を見分ける事ができ、各側単眼には紫外線、青、緑受容器をもつ視細胞が2乃至3種ある事が知られています(なお、バッタやゴキブリなどの不完全変態昆虫の幼虫は複眼を持ちますが、背単眼ももっています(ゴキブリでは単眼を2個もつ)。)。なお無翅昆虫は背単眼や幼虫の側単眼をもっていません。