さて、哺乳類に続き、鳥類の眼について紹介しましょう。
鳥類は代表的な視覚動物です。鳥類の眼球はほぼ脳と同じ、またはそれ以上の大きさをしています。このため、レンズと網膜を結ぶ軸(前後軸)方向に対して眼球が押されたように扁平な形をしている事が特徴です。最適な視力を確保しながら、飛ぶために眼の重量や、頭骨の大部分を占める眼窩の容積を減らすためにこのような形をしていると考えられています。また、物理的には、大きな眼球ほど眼の解像度が高くなりますが、陸生動物で最も大きな眼球をもっているのは鳥類のダチョウです。
鳥類の眼も基本的に人間の眼と同じ構造をもっていますが、フクロウを除き、瞼が下から閉じる点は異なります。また透明で開閉可能な瞬膜を持ち、瞬膜で目の前面を覆いながら、飛びます。これにより目の乾燥を防ぐとともに、虫などが目に飛び込むのも防いで います。このような瞬膜はある種の爬虫類や両性類にも見られます。哺乳類では一般的には退化していますが、ラクダやミーアキャットなどでは砂漠で砂が目に入るのを防止し、ビーバでは水中で目を保護する役割を果たしています。
また鳥類でも人と同様に休息時には遠方視の状態にあり、レンズ形状を変えて近場にピントをあわせます。但し、水晶体は哺乳類より柔らかく、環状の筋肉により圧力が加わる事で、水晶体中央部が凸状に押し出されることで形状がかわります。これは非常に良く発達した毛様体が環状に水晶体の辺縁部に付着し、毛様体の環状筋繊維が収縮する事で水晶体が丸くなり、近場にピントが合う事になるのです。さらに角膜を湾曲させる事ができるのも鳥類の特徴です(角膜の縁に毛様体がついており、毛様体の収縮で角膜の湾曲が調節されるのです)。カモやアヒル、また潜水する鳥では角膜の湾曲変化は少なく、平たい種もいますが、猛禽類では湾曲が大きく、眼からの突出度合いも大きくなります。ちなみに鳥類の毛様体筋は横紋筋(哺乳類は平滑筋)で、見る対象により任意に調節されています。なお毛様体筋は魚類や両生類では発達が悪く、哺乳類、鳥類またヘビ以外の爬虫類で良く発達しています。さらに中心窩により光が凹レンズのように曲げられる事も対象を拡大して見る事に寄与しています。
また、鳥類では虹彩も随意筋(横紋筋)で、任意に瞳孔を収縮拡張できる事が特徴です。この虹彩の動きは哺乳類よりも鳥類の方が高速で、鳥類の高速移動への適応と考えられます(爬虫類と鳥類では横紋筋で、両性類と哺乳類では平滑筋)。
以上のように、哺乳類よりも柔軟な形状変化が可能な角膜と水晶体という2つのレンズをもつ事が鳥類の眼の大きな特徴です。眼球の形も、変形度合いに対応し、一般の鳥類では平たい形をしていますが、カラス類では球形に近くなり、猛禽類のタカや夜行性ハンターのフクロウでは管状型に伸びています。なお、鳥類の水晶体は紫外光を透過させます。
また鳥類では網膜内に比較的血管が少なく、視細胞が非常に密に並んでいます。血管網があると網膜に網が重なったようになり像がぼけてしまいますが、血管が少ない事で高い視力を実現しているのです(人間でも中心窩の周りでは血管が存在せず、高い視力が確保されています)。鳥類では代わりに櫛状突起(ペクテン)という特殊な構造に血管が集約されており、網膜に栄養補給をしています。昼行性のタカ類で特にこの櫛状突起が発達しており、次に昆虫食の鳥、穀物食の鳥、夜行性の鳥の順に小さくなります。
さらに、鳥類にも黄班があり、その中心に中心窩をもちます。但しニワトリには黄斑はありません。人間の眼の中心窩は点状で、この部分に錐体細胞が多く分布し、視力が最も鋭い領域になっています。ちなみにタカの仲間のノスリでは此の部分に100万個/p2の、人間では16万個/cm2の錐体細胞があります。その上、鳥類ではこの中心窩が点状ではなく、網膜状で細長い溝状構造をしているものが見られます。つまり眼の中心に捉えた対象だけでなく、線状になる事で水平方向の視覚が良くなる事になります。特に海鳥や平坦な草原に生息する鳥類にはこの種の溝状構造が多く見られます。また、タカやハヤブサなどの猛禽類やツバメ、モズ、カワセミなど飛びながら餌を探す鳥の網膜には2つの中心窩があります。通常の意味の中心窩は片眼視で広い視野の形成を、もう一つの中心窩(側頭窩)は前方視のためのものです。さらにこの2つの中心窩が浅い溝で繋がっているのです。
鳥類が眼が良いのは以上のような工夫によっており、ワシやタカでは視力が3以上あると考えられています。なお、鳥類では眼球が眼窩に固定され、ツルやタカ・ワシまたフクロウなどでは骨片(強膜輪)で保護されています。このため、片眼視の視野は人間よりも広いものの、両眼視の範囲は狭くなりますが、鳥類は首の動きによりこの狭い両眼視の視野をカバーしています。頸骨の数が多く、首の可動範囲が広くなっているのです。
一方、鳥類では錐体細胞が網膜全面に多くかつ部分的に集まっていますが、桿体細胞(後述)が非常に少ない事が特徴です。このため、フクロウやミミズクのような夜行性の鳥でなければ俗にいわれる“鳥目”になります。このような夜行性の鳥では、光量を多くするために、大きな 眼をもち大きな瞳孔をしています。但し、眼球が大きくなると収納する眼窩も大きく成らざるをえず、不必要に頭が大きくなってしまいます。この問題を解決するために、フクロウでは眼の断面形状を釣り鐘型にしており(管状眼という)、視野の半分近くを犠牲にして小型化しています。さらに、この欠点を補い視野を広くするために首が大きく回るようにできています。
前述のように、鳥の眼は比較的がっしりと眼窩に納められています。鳥は脊椎動物の中でも特殊に進化し、背骨が曲がりません。鳥は飛ぶために余分な重量を減らす必要があります。このため背骨を曲げる筋肉量を減らし、代わりに首を根本から大きく曲げる事で広い視野を確保しているのです。一方、鳥の眼は側方についています。このため動くと、眼に映る景色は視軸と直角方向にずれ、視界がブレてしまいます。哺乳類の場合、眼球は比較的小さいため、眼球を動かす事で眼を景色に対して固定して安定した視野を確保する事ができます。しかし鳥類は眼球が相対的に大きく、また眼球が扁平な形をしている事もあり眼球運動を円滑に行う事が困難です。このため眼球ではなく、首を動かす事で頭部を景色に固定させて安定な視野を確保しています。特に歩行時の歩行タイミングと首振りは視野を安定化するように同期して行われています。また歩く鳥、キジ、ハト、ツルなどの多くは、歩きながら採食しています。視野の安定は近い距離を見る時に特に重要となります。
なお網膜の視細胞は人間で10,000個/m2ですがキセキレイでは120,000個/m2と大きな差があり、脳に視覚情報を送る神経節細胞数で見ても人間で1,000,000個、カラスで3,600,000個、カエルで約5,000個と鳥類の視覚情報の多さは際だっています。
一方、鳥類は、昆虫を除くと、通常は種子や木の実、穀物等を餌にしており、植物の葉や芽などはあまり餌にしていません。つまり高フ森の中で多く生息しているにも関わらず、告Fの餌で生きているのでは無いのです(哺乳類と異なり、通常は草食性ではない)。従って、告Fと他の色の区別ができる多彩な色彩能力を持たないと餌を見つけられない事になります。
ちなみに代表例としてニワトリでは、紫色、青色、緑色、赤色の4色の視物質が、またムクドリでは紫がもっと短波長にずれ、紫外光も認識できます。ハトでも4種類の錐体細胞が確認されています(これらについては別途詳細を記す予定です)。