ウィリアム・シェイクスピア/作(1595年頃)
バレエ・マクミラン版(1965年)

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<あらすじ>


 昔々、ヴェロナの街にキャピュレット家とモンタギュー家という二つの旧家があり、この両家は代々お互いを仇だと思っていがみあっていた。キャピュレット家にはジュリエットという一人娘がおり、モンタギュー家にはロミオという一人息子がいたが、この二人は舞踏会で出会い、恋に落ちてしまった。お互いが仇の家の出身だとわかっても二人の想いは変わらず、両家の仲直りを願うロレンス上人に秘密の結婚式を挙げてもらい、夫婦となった。
 しかしジュリエットの従兄弟ティボルトにケンカをふっかけられたロミオは自分の代わりにケンカを買った親友マキューシオを殺され、、理性を失ってティボルトを殺してしまった。そしてロミオはヴェロナから追放となった。
 ジュリエットはロミオの追放に心乱れて嘆き暮らした。そのジュリエットを慰めようとキャピュレット夫妻はパリスという名門貴族とジュリエットの結婚を決めるが、すでにロミオと夫婦の誓いをたてたジュリエットはパリスとの結婚を断固として拒んだ。両親はジュリエットの頑なな態度に腹を立て、言う事をきかないのなら勘当だと言い放った。事情を話すこともできず、孤立して追い詰められたジュリエットはロレンス上人にすがりついた。
 ロレンス上人は、「仮死になる薬によって死んだと思わせて霊廟に葬られ、目覚めた時に迎えに来たロミオと二人でヴェロナから逃げる。」という計画を提案した。ジュリエットは恐怖心と戦いながらも42時間仮死になる薬を飲み、死んだと思われて霊廟に葬られた。
 そこまではうまくいったのだが、ロレンス上人の計画はうまくロミオに伝わってはいなかった。ジュリエットが本当に死んでしまったと思い込んだロミオはキャピュレット家の霊廟のジュリエットの側で毒をあおり息絶えた。目覚めたジュリエットはロミオの亡骸を発見し、ロミオの短剣で胸を刺して後を追った。
 二人の死を悲しんだキャピュレットとモンタギューは自分たちの愚かさを知り、両家にようやく和解の道が開けたのだった。
(終わり)
※ マクミランのバレエのストーリーは「詳しい物語」にあります。



<詳しい物語>


〜シェイクスピアの戯曲〜

<第一幕>


 昔々、ヴェロナの街にキャピュレット家とモンタギュー家という二つの名家があった。この二つの家は代々仲が悪くお互いを仇と思いあい、事ある毎にいがみあってきた。
 今日も街中で出会った両家の召使がいがみあい、通りかかったモンタギューの甥ベンヴォーリオが仲裁しようとしたが、やって来たキャピュレットの甥ティボルトがベンヴォーリオ相手に剣を抜いた。そこへキャピュレット夫妻、モンタギュー夫妻も駆けつけ、市民も巻き込んでの大騒ぎに発展した。
 騒ぎをききつけてヴェロナの太守エスカラス公爵がやって来た。そして今回は見逃してやるが、今後このような街の平和を乱す騒ぎを起こしたら死罪を申し渡す、と宣言した。
 モンタギュー家には一粒種の嫡子ロミオがいたが、この騒ぎには加わっていなかった。それは彼が行い正しい青年であったせいでもあるが、実はロミオの頭の中は両家の憎しみなどではなく、恋の熱い想いで一杯だったのである。片思いの相手はつれないロザライン。どんなに誠意をみせても彼女の愛を得ることはできなかった。
 そんな苦しい恋にやつれ果てたロミオを心配したベンヴォーリオは、今夜キャピュレット家で開かれる舞踏会に忍び込もうとロミオに提案した。ヴェロナ中の美人が集まるというのである。ロザラインも来るはずだが、本物の美人たちを見れば薄情なロザラインのことなどすぐに忘れられるぞ、とベンヴォーリオは言った。頭がロザラインで一杯のロミオは彼女に会えるなら、と行くことにした。
 一方キャピュレット家もなかなか子供が育たず、生き残ったのはまもなく14才になろうとするジュリエットただ一人であり、キャピュレット夫妻は掌中の玉のように一人娘を大事に育てていた。
 そのジュリエットには早速パリス伯爵という求婚者が現れていた。パリス伯爵は太守エスカラス公爵の近い親戚であり、申し分のない花婿候補である。
 キャピュレット夫人はかなり乗り気でジュリエットにパリス伯爵の申し込みを伝えたが、当のジュリエットはまだ結婚ということがピンと来ず、母や乳母に甘えながら、お父様やお母様がいい相手だとおっしゃるなら好きになるようにするわ、という従順な返事をするばかりだった。



 さて、舞踏会の夜が来た。ロミオはベンヴォーリオそして太守の親戚である親友のマキューシオらとともに仮面をつけて招待客の中に紛れ込んだ。そんなロミオの目に他のすべてがかすんでしまうほど初々しく美しい少女の姿が飛び込んで来た。ロミオの心からあれほど恋焦がれていたロザラインの面影が跡形もなく消えうせてしまい、ひたすらその美しい少女を見つめていた。
 そんなロミオの様子をティボルトが目にとめ、モンタギュー家のロミオだと見破った。ティボルトは叩き殺してやると息巻くが、めでたい宴会の席を汚すことは許さないとキャピュレットに叱られ止められた。その場は何とか我慢したが、侮辱と感じたティボルトはいつかカタをつけてやると心の中はロミオに対する復讐心で煮えたぎった。
 ロミオは美しい少女に近づき二人の視線が交わった。その途端、さっきまで幼い面影を残していた美しい少女ジュリエットはまるで薔薇の花が一瞬にして開くように恋に落ちた。ロミオはまずはジュリエットの手を取り接吻した。そしてその次には唇に接吻した。
 その時乳母がジュリエットを呼びに来てその場はそれきりになったが、乳母を通してお互いにその素性を知り驚くことになった。こうして仇同士の両家のたった一人の跡取りである少年と少女は運命的な恋に落ちたのであった。


<第二幕>



 舞踏会はおひらきとなり、マキューシオやベンヴォーリオは一緒に帰ろうとロミオを探したが見つからず、仕方なく帰ってしまった。ロミオは新しく生まれた恋に心がざわめき、ジュリエットを求めてキャピュレット家の庭園に隠れていたのである。
 やがてジュリエットが2階のバルコニーに現れて独り言でロミオへの愛を語り始めた。たとえ仇の一人息子であっても自分にとっては変わりなく恋しい人なのだ、と。
 それを聞いたロミオはうれしさからたまらずにジュリエットの前に飛び出した。恋の告白を当の相手に立ち聞きされて最初は恥らったジュリエットであるが、これで一足飛びに二人の想いは通じ合い、二人は激しい恋の情熱のおもむくままに真の愛の誓いを求め合った。
 翌朝ロミオは僧院にロレンス上人を訪ね、ジュリエットと真の愛を誓いたいから神の前で結婚式を挙げてくれと頼んだ。
 今までロザラインに恋焦がれていたロミオのあまりの心変わりに驚いたロレンスだが、ロミオがジュリエットと結婚することによって長くいがみ合っていた両家が仲直りするいい機会かもしれないと思い、二人に力を貸すことにした。
 乳母が使者となり、今日の午後にロレンス上人の庵室で式を挙げよう、というロミオの伝言がジュリエットに伝えられた。
 焦れて待っていたジュリエットは飛ぶようにロレンスの庵室に駆けつけ、そして二人は上人の手で真の愛の誓い(結婚の誓い)をして夫婦となった。


<第三幕>


 式を終えたロミオが幸せに包まれて街中を歩いていると、マキューシオとティボルトが一触即発の状態となっているのに行き合わせた。
 テイボルトはロミオを見て「本当のねらいはお前だ。」とロミオを挑発した。しかしジュリエットと式を挙げたばかりのロミオはティボルトとは親戚になっており、和解を求めた。
 それをティボルトが侮辱し、ロミオの態度を情けないと思ったマキューシオがロミオの代わりにティボルトの挑戦を受けて立ち、ティボルトとマキューシオは剣を抜いてしまった。
 ロミオはなおも争いを止めようとして二人の間に割って入ったが、その隙にティボルトがロミオの腕越しにマキューシオを刺してしまった。傷は致命傷で、マキューシオは「なぜ止めた、そのせいで俺はやられたんだ。お前ら両家ともくたばってしまえ。」と恨みの言葉を残して息絶えた。
 親友の死と自責の念から自制心を失ったロミオは怒りに任せてティボルトと剣を交え、ティボルトを殺してしまった。
 市民が騒ぎ出し、ベンヴォーリオに促されてロミオは逃走した。騒ぎを聞いてヴェロナの太守が駆けつけ、ベンヴォーリオから事のいきさつを聞いた。そして集まって来たキャピュレット夫妻やモンタギュー夫妻の前でロミオの処罰を言い渡した。
 ロミオはヴェロナから追放され、もし戻って来た暁には死刑ということになった。



 ジュリエットは今か今かと夜が訪れるのを待っていた。今宵はジュリエットと夫となったロミオと初夜なのである。そこへ乳母がやって来てロミオがティボルトを殺してしまったことを知らせた。
 ジュリエットは衝撃を受け、一瞬ロミオを恨むが、やがて身内を失った悲しみよりも夫となったロミオがヴェロナから追放されたことを嘆き悲しんだ。そして初夜も過ごさずに処女もまま未亡人になるのかと嘆いた。
 ロミオはロレンス上人の庵室に匿われ、ジュリエットと会えなくなる追放よりは死刑の方がよかったなどと自暴自棄になって嘆いていたが、そこへ乳母がやって来てジュリエットの変わらぬ愛を伝える指輪を渡した。
 ロレンスはひとまずマンチュアの町に身を潜めるようにロミオに言った。そして折を見て二人の結婚を発表して両家を仲直りさせ、太守に許しを願い出て、許しが出次第ヴェロナに帰って来るという計画を話してロミオをなだめた。
 ようやく落ち着いてきたロミオは、まずは待ちわびるジュリエットの元で初夜を過ごし、それからマンチュアへ旅立つことにした。
 さてキャピュレット家にはパリス伯爵がジュリエットとの結婚はどうなっているのか、キャピュレットに返事を求めに来ていた。
 まだ幼いジュリエットがその気になるまでと返事を保留していたキャピュレットであったが、ティボルトが殺されてからのジュリエットの尋常ならぬ深い嘆きを心配し、この際新しい生活を始めた方が立ち直るきっかけになると思い、ジュリエットの意思を確かめずに一存で承諾の返事をしてしまった。
 パリスは喜んで結婚式はできるだけ早い方がよいといい、式は三日後と決まった。



 ロミオは夜に紛れてジュリエットの寝室に現れ、二人は悲しみの中にも歓喜あふれる初夜を過ごした。今度はいつ会えるかわからず、別れ難い二人ではあったが、キャピュレット夫人がジュリエットの部屋へやって来る旨を乳母が告げ、心を残しながらもロミオはマンチュアへ旅立った。
 キャピュレット夫人はパリス伯爵との婚礼が三日後に決まったとジュリエットに告げた。
 ジュリエットはショックを隠せず、何とか断ろうとしたが、事情を知らないキャピュレット夫人は従順なはずの娘が頑なに拒むことに驚き、不快の念を隠せなかった。
 そこへ娘の笑顔を期待してキャピュレットもやって来たが、ジュリエットの異様なまでの頑なな態度に驚き、怒り心頭に発してしまった。そして両親はこの結婚を断ることは許さない、そうすればお前は勘当だと言い渡して去って行った。
 ジュリエットはロミオとの神聖な誓いを破ることはできない、何とかよい知恵はないの、と乳母にすがろうとした。しかし乳母はもはやロミオはこのヴェロナでは死んだも同然なのだから、お父様の言う通りにした方がよい、と言うばかりであった。
 今やジュリエットを優しく包み愛情深く育んできたものすべてがジュリエットの敵となってしまった。すっかり孤立して追い込まれたジュリエットは最後の望みの綱であるロレンス上人に相談に行くことにした。


<第四幕>


 ジュリエットはパリスと結婚するぐらいなら胸に短剣を突き立てて死ぬ、何とか避ける方法はないだろうかとロレンスにすがった。
 ロレンスはジュリエットの固い決心を聞き、そこまでの気持ちでいるなら、と最後の手段とも言える危険な方法を教えた。
 …ジュリエットは42時間仮死になる薬を飲み、死んだと回りに信じさせてキャピュレット家の霊廟に埋葬される。そこへロミオが迎えに来てロミオとジュリエットは人知れず手に手をとってひとまずマンチュアへ旅立ち、後は折を見て太守に許しを願い出る…というものである。
 死へ直結するかもしれない仮死の薬。先祖代々から殺されたばかりのティボルトの遺体までがむき出しで安置されている霊廟…。覚悟してきたとはいえ、思わずひるんでしまったジュリエットであったが、他によい方法があるわけでなく、この身震いするような恐ろしい方法に賭けてみるしかなかった。
 キャピュレット家ではすでに祝宴の準備が始まっていた。家へ帰ったジュリエットは反抗した自分が悪かった、おっしゃる通りにパリス伯爵と結婚します、と謝って父親をあざむいた。
 さらに母親や乳母もあざむいて、独り死の恐怖と戦いながらロレンスから渡された仮死になる薬をあおった。
 翌朝ジュリエットは計画通り仮死状態で発見され、死んだと思われて皆の嘆きの中、キャピュレット家の霊廟に埋葬された。


<第五幕>


 ジュリエットの葬儀の様子を見ていたロミオの従者バルサザーは驚いて早速マンチュアへ飛んで行き、ロミオにジュリエットの死を伝えた。
 ロミオにはすでにロレンスからの手紙が届いて計画を承知しているはずであったが、手紙を託された使者は疫病の疑いをかけられて、まだヴェロナに足止めされたままだった。
 そして何も知らないロミオは本当にジュリエットが死んだと思い込んでしまった。絶望したロミオは貧しい薬屋から無理やりに毒薬を買い求め(毒を売った者は死刑になるのである。)、せめてジュリエットの側で息絶えたいとヴェロナのキャピュレット家の霊廟へと急いだ。



 キャピュレット家の霊廟では新妻となるべきであったジュリエットの死を痛んでパリス伯爵が花を手向けていた。そこへティボルト殺しの犯人ロミオが現れたものだから、遺体にまで侮辱を加えにきたのだと思い、パリス伯爵は剣を抜いた。パリス伯爵の従者はあわてて人を呼びに駆け出した。
 もはやジュリエットの側で死ぬことしか望みはないロミオは邪魔になるパリス伯爵を斬り捨ててしまった。そしてようやくたどり着いたジュリエットの側で毒薬をあおって命を絶った。
 使者がマンチュアへ旅立つことができず、ロミオに事情が通じていないことを知ったロレンス上人は、不吉な思いを抱いてキャピュレット家の霊廟へと急いだ。
 しかし時はすでに遅く、ロレンスは斬捨てられたパリス伯爵の遺体とジュリエットの側で息絶えているロミオの亡骸とを発見した。
 思いもかけない悲惨な成り行きにロレンス上人が呆然としたその時、ジュリエットが仮死から目覚めた。そこへパリス伯爵の従者が呼んできた夜警が駆けつける物音が聞こえてきた。
 ロレンス上人はジュリエットを促して共に逃げようとしたが、ジュリエットは拒み、ロレンス上人一人がその場を去った。
 ジュリエットはロミオの死を嘆き、迫る夜警の足音に促されるようにロミオの短剣で胸を突いてロミオの後を追った。
 夜警の通報で太守エスカラス公爵、キャピュレット夫妻、モンタギューらが駆けつけた。(ロミオの所業に心を痛めたモンタギュー夫人はすでにこの世を去っていた。)
 皆は一体何が起こったのかわからなかったが、捕らえられたロレンス上人、バルサザーが事情を話した。聞き終わったエスカラス公爵は両家の憎しみがこのような悲惨な結末を招いたとキャピュレットとモンタギューの反省を促した。  
 そして若い人たちの血がたくさん流されるという大きな代償を支払って、ようやく両家に和解の道が開かれたのであった。
(終わり)


〜マクミランのバレエ〜


第一幕・第一場 (市場)


 モンタギュー家の一人息子ロミオは恋しいロザラインを朝っぱなから追い回していたが、相手にされず、護衛の従者に追い払われてしまった。ロミオの親友、マキューシオと従兄弟のベンヴォーリオはロミオがふられる様を見て、やめろよ、あんな薄情な女、と慰め半分でいくらふられてもあきらめきれないロミオをからかっていた。
 朝の市がたつ時間となった。広場は掃き清められ、花売り、野菜売り、水瓶を抱えた女たちも現れた。いかがわしい商売の街の女たちも現れ、まずお調子者のマキューシオが街の女たちとふざけ始めた。やがてロミオやベンヴォーリオも加わって、女たちと踊り始めた。堅気の女性たちは汚らわしい商売の女たちを忌み嫌って追い出そうとするが、街の女たちも負けてはいない。男たちも街の女たちにちょっかいをかけながら加勢した。買い物客や朝のお勤めを終えた僧侶たちも現れ、広場には活気があふれて来た。
 そこへキャピュレット家の当主の甥、ティボルトが郎党を数人引き連れて現れ、不穏な空気が漂い始めた。
 モンタギュー家とキャピュレット家はヴェローナを代表する名家であるが、昔からお互いを敵同士と思い合っており、ことある毎にいがみ合い続けているのである。
 ティボルトはモンタギュー寄りの街の女をひきずり倒し、ケンカをふっかけて来た。早速ロミオとマキューシオ、ベンヴォーリオのモンタギュー勢は剣を抜き、ティボルトをけん制した。ティボルトがロミオに剣を向けて斬りかかろうとしたので、ベンヴォーリオがとめようとしたが、突き飛ばされてしまい、結局はベンヴォーリオとティボルトが剣を交える事となった。
 男たちは次々と剣を抜き、広場は大騒ぎとなって女たちは逃げ惑った。そこへモンタギュー、キャピュレット両家の当主、奥方が駆けつけたが、仲裁するどころか、当主たちはみずから太刀を振り回し、奥方たちは角をつきあわせ、ますます騒ぎは大きくなって行った。そしてついには命を落とす者も出て来た。
 そこへヴェローナの太守、エスカラス公爵が現れ、一同を一喝して騒ぎを鎮め、武器を捨てるようにと命じた。そして今後再びこのような騒ぎを起こす事は許さぬ、起こした者は死刑に処する、と一同に申し渡した。


第一幕・第二場 (キャピュレット家、ジュリエットの部屋)


 キャピュレット家にはジュリエットというもうすぐ14才になる一人娘がいた。まだ子供っぽさが抜けず、乳母と人形遊びをしていた。ジュリエットの元気についていけない乳母は疲れ果てて思わず居眠りをしてしまったが、ジュリエットはそんな乳母に飛びかかって人形を引っ張ったり、放り投げたりして乳母をきりきり舞いさせて大はしゃぎしていた。
 そこへ両親がパリス伯爵を連れて現れたので、ばつが悪くなったジュリエットは人形を隠した。パリス伯爵はジュリエットに求婚しており、ジュリエットの手をとってキスしようとしたが、ジュリエットはさっと手を引っ込めて乳母のところへ逃げ出してしまった。父親のキュピュレットは再び娘をパリス伯爵のところへ連れて行ったが、やはりジュリエットは子供っぽく逃げ出してしまった。
 キャピュレット夫妻はパリス伯爵に、まだ子供なもので、と弁解しながら部屋を出て行った。キャピュレット夫人は出て行き様に娘に向かって、人形を指差して注意を促した。別に置いてあるだけよ、とごまかしたジュリエットだが、両親たちが行ってしまうと、たちまち大はしゃぎで人形で遊びだした。
 これは自覚を促した方がよさそうだと思った乳母は、もう子供じゃないんですよ、とばかりにジュリエットのふくらみつつある胸をそっと抑えた。胸のふくらみに気がついたジュリエットはびっくりして、思わず人形を取り落としてしまった。


第一幕・第三場 (キャピュレット邸)


 門の前でティボルトが招待客たちを出迎えている。そこへロミオたち3人が仮面をつけて現れた。もちろん招かれているはずもないが、キャピュレット家の親戚であるロザラインが来るという噂を聞きつけて、ロザライン目当てに仮面をつけて舞踏会に紛れこもうという魂胆なのだ。
 やがて目当てのロザラインが輿に乗ってやって来た。ティボルトはロザラインを丁重に迎え、当主を呼びに中へ入った。その隙にロミオはロザラインに言い寄るが、相変わらずつれない応対をされるだけで、全く相手にされなかった。やがて当主が出て来てロザラインを丁重に迎え入れ、パリスたちと共に門の中に消えた。
 3人だけになったので、仮面をはずし、景気付けのダンスを踊った後、再び仮面をつけた3人は、さあ敵陣に突入だ、とばかりにキャピュレット家の門へと入って行った。
 一番後から入ろうとしたロミオは胸騒ぎがして思わず立ち止まった。しかし何か得体の知れない力がロミオを押し流し、ロミオは親友たちの後を追ってキュピュレット家の門の中へと入って行った。門はゆっくりと確実に閉じられた。


第一幕・第四場 (広間)


 広間では舞踏会が始まっていた。当主のキャピュレット、ティボルト、パリスを先頭に騎士たちが踊っている。そこへ貴婦人たちも加わり、貴族たちの踊りが続いていた。そこへロミオとマキューシオ、ベンヴォーリオが現れ、ロミオはロザラインを見つけてうっとりとしていた。
 ジュリエットも乳母に連れられて現れた。今日は少女ジュリエットがヴェローナの社交界にデビューする日なのである。キャピュレットは早速ジュリエットをパリス伯爵のところへ連れて行き、パリス伯爵はジュリエットの手をとろうとしたが、やはりジュリエットはパリス伯爵を受付けず、逃げ出してしまった。しかし結局は追って来たパリスと踊らざるをえなくなった。
 ロミオはロミオで、ロザラインにうっとりしており、次の曲が始まると、誰だかわからないのをいい事に、ちゃっかりロザラインの手をとって踊り始めた。
 そして曲が終わり、みんなが一休みしている間もジュリエットはパリス伯爵と踊っていた。両親の勧める男性をいやだとも言えず、精一杯愛想よくするのだが、それでもどうしても心も身体もパリス伯爵を拒絶してしまう。
 そんなジュリエットの姿がロミオの目に飛び込んで来た。その瞬間ロザラインに対する想いは跡形もなく消えて行き、ロミオはじっとジュリエットを見つめた。
 パリス伯爵と踊り終えたジュリエットは、ひざまづき手をとろうとするパリス伯爵から手を引っ込めて逃げようと後ろを向いたが、その時ロミオと目が会った。その瞬間、身体が火照るように熱くなった二人は、じっと見つめあった。
 やがてまた曲が始まったが、客たちが変に思うほど見つめ合っていた二人は、踊りの輪の中にも絶えずお互いを捜し求めた。ジュリエットの友人たちがジュリエットに楽器を持たせて、その伴奏で踊ろうとしたが、途中から熱に浮かされたようなロミオが割り込み、踊りでジュリエットへの想いを伝えた。ジュリエットもまた、それに応えるように踊り、やがては二人は手をとりあって踊り始めた。
 まもなく結婚が決まろうとしているキャピュレット家の一人娘に近づこうとするなんて、一体誰なんだ、この男は…?キャピュレット夫妻はじめ、客たちも回りから浮き上がっている二人に気がつき、取り囲んだ。
 これはまずい事になった、正体がばれないように何とかごまかそう、とマキューシオはロミオをジュリエットから引き離し、人々の気をそらすような滑稽な踊りを踊り始めた。ベンヴォーリオも加わって客たちの間に割って入ったりして注意を引きつけようとし、当惑した客たちは散り散りになって退場した。
 誰もいなくなった所へジュリエットが浮き浮きとやって来た。ジュリエットを追ってロミオもやって来た。乳母がジュリエットを呼びに来たが、ジュリエットはロミオを隠してうまく乳母を追い返し、ロミオとうっとりと踊り始めた。ジュリエットは相手が誰だか知りたくなったが、ロミオは仮面をとろうとはしなかった。
 両親がパリスやティボルトと共に現れたが、ジュリエットはまたロミオを隠してうまく彼らを追い払った。そして二人で踊るうちに、恋に我を忘れたロミオは仮面をかなぐり捨ててしまった。
 そこへどうも様子がおかしいと思ったティボルトが戻って来て、ロミオに気がついた。ティボルトが手荒くロミオをたたき出そうとしているところへキャピュレット夫妻がパリスを伴って現れ、ロミオが紛れ込んでいることに驚いたが、宴会で争いを起こす事は許さない、とティボルトをなだめた。
 ジュリエットはその様子に驚き、乳母にあの方はどなたなの、と聞いて、自分が恋に落ちた相手が敵の一人息子のロミオである事を知り、運命のいたずらに呆然とした。
 キャピュレットはティボルトとロミオに握手をさせてその場を収めようとしたが、いきり立ったティボルトはロミオの手を叩き落した。キャピュレット夫人がなだめようとしたが、ティボルトの中にはロミオに対する復讐心が煮えたぎり始めた。
 舞踏会も終わりに近づき、客たちの最後のダンスが始まったが、ロミオとジュリエットにはもうお互いしか見えず、絶えず相手の姿を群舞の中に探し求めていた。その二人に対しティボルトが許すものか、と監視の目を光らせ続けた。
 
 やがて舞踏会はお開きとなり、客たちは帰り始めた。マキューシオとベンヴォーリオもロミオを誘って帰ろうとしたが、ロミオが魂を抜かれたようにジュリエットを見つめ続けているので、あきらめて帰って行った。
 ロミオもジュリエットに投げキスをして帰って行った。ジュリエットは恋の歓びを押さえられず、ただ一人自分の想いをわかってくれる乳母に抱きついた。


第一幕・第五場 (門の前)
 門の前では舞踏会の間中だらけて居眠りしていた門番たちが、お客様のお帰りだぞ、という見張りの少年の声に起き上がり、ずっと真面目に番をしていたかのように起立して客たちを見送った。
 ロミオは友人たちを撒いて、一人新しく生まれた恋に浮き浮きとキャピュレット家を後にした。ティボルトが出て来てロミオを探しながら剣を抜いたが、キャピュレット夫人が止めた。客たちはみんな帰ってしまい、再び門は閉じられた。


第一幕・第六場 (ジュリエットの部屋のバルコニー)


 ロミオは生まれたばかりの恋に胸がざわめき、怠慢な門番たちの隙をついてキャピュレット家の庭に忍び込んだ。するとバルコニーにジュリエットが現れた。ジュリエットもまた募る想いに眠ることができなかったのである。ロミオはジュリエットの前に飛び出し、手を差し伸べた。ジュリエットは飛び立つように階段を駆け下りて来て、二人は手を取り合って寄り添った。
 ジュリエットはロミオの手をとって自分の胸にあてさせ、こんなにどきどきしているの…と言ったが、言ってから自分のした事に恥ずかしくなって逃げ出した。ロミオは自分のジュリエットに対する愛を美しい月の光にかけて誓おうとしたが、ジュリエットは日毎に形を変える不実な月にかけて誓うのはやめて、と言い、真実の愛の誓いを求めた。
 ロミオは二人の想いが同じである事を知って有頂天になり、踊り出した。最初は笑顔で見ていたジュリエットだったが、やがて二人は手を取り合い、天にも昇る心地を表現するかのように、ロミオがジュリエットを頭上まで高く掲げながら踊り始めた。(バルコニーのパ・ド・ドゥ) 
 ※パ・ド・ドゥは男女二人による踊りのことです。
 そうするうちに夜が明け始めた。ジュリエットは部屋へ帰ろうとしたが、ロミオは引き止めた。スカートにキスされ、はじらって逃げ出すジュリエット。ロミオはジュリエットが部屋や戻ろうとする度に引き止めていたが、やがて二人は見つめあい、気持の高まりを抑えきれなくなった。ロミオはジュリエットを抱き寄せ、二人はキスをした。感動のあまりジュリエットはどうしていいかわからなくなり、階段を駆け上がった。
 間もなく夜が明けようとしていた。しかし恋人たちはなおも別れ難く、バルコニーの上と下からお互いを求め合って手を差し伸べ合っていた。


第二幕・第一場 (市場)


 広場は相変わらず賑わっていた。今日も街の女たちが登場して男性の気を惹き、怒った堅気の女性たちが街の女たちを追い出そうとする大騒ぎが民族舞踊の音楽にのって繰り広げられていた。
 そこへロミオが、幸せに酔いしれて現れた。馴染みの街の女が誘おうとしたが、色っぽい誘いに対して全く反応しない。その気の抜けた様子をマキューシオやベンヴォーリオがからかったが、ロミオは幸せを分かち合おうとするように友人二人と踊り出した。街の女たちも一緒になって賑やかに踊り始めた。
 そこへマンドリンを抱えた芸人たちに先導された結婚式の列がやって来た。司祭が新郎新婦を祝福し、続いて街の人々も新郎新婦を祝福した。ロミオはその様子に自分とジュリエットの姿を投影してうっとりとした思いに浸った。
 芸人たちがマンドリンを抱えてアクロバティックな踊りを披露し、結婚式はより盛り上がった。
 そこへの乳母がジュリエットの手紙をロミオに渡そうと現れた。ロミオ様はどこ、と訊ねるが、浮かれている人々は乳母をからかうばかりで、ロミオ本人までがマキューシオやベンヴォーリオと一緒になって仮面をつけて誰が誰だかわからなくして乳母をからかった。
 そうして散々乳母をからかってからやっと手紙を受け取ったロミオだが、手紙を読んで狂喜し乳母に抱きついた。今日ロレンス上人の庵室で真実の愛の誓いをしましょう、と書いてあったのだ。
 そしてロミオはロレンス上人の庵室に向かって駆け出した。乳母も大慌てでロミオの後を追って行った。


第二幕・第二場 (ロレンス上人の庵室)


 ロレンス上人が祈りを捧げていると、ロミオが走り込んで来て、ジュリエットの手紙を渡した。手紙に目を通したロレンス上人はとんでもない、と断ろうとしたが、ひょっとして二人の結婚によって長く続いて来た両家の争いを終わらせる事ができるかもしれない、と思い直して力を貸す事にした。
 ロミオが大喜びしているところへ乳母に連れられてジュリエットがやって来た。
 二人はロレンス上人の足元にひざまづき、ロレンス上人は二人に結婚の誓いをさせた。こうして夫婦になった二人をロレンス上人は祝福し、たった一人の証人である乳母は感激して泣いた。
 二人は離れがたかったが、ひとまずジュリエットは乳母に連れられて家へ帰って行った。


第二幕・第三場 (市場)


 結婚式のお祝いが賑やかに続いているところへティボルトが現れ、マキューシオと小競り合いになった。そこへ結婚式を終えたばかりのロミオが現れた。ティボルトは、本当のねらいはお前だ、とロミオに剣を向けたが、幸せに満ち溢れるロミオはたった今親戚になったばかりのティボルトに仲良くしようと手を差し出した。
 それをティボルトが侮辱した。ロミオの弱腰の態度を情けないと思ったマキューシオが代わりにケンカを買い、ティボルトとマキューシオの一騎打ちとなった。
 回りの人々はエスカラス公爵の命令もあり、ティボルトを止めようとしたが、そのせいでティボルトは余計にいきり立った。ロミオもマキューシオを止めようとし、マキューシオがロミオに答えようと背中を向けた時、ティボルトが背後からマキューシオを刺した。
 あたりに緊張が走った。マキューシオは、このくらい何でもないと言わんばかりにふざけてみせたが、背中からは血が吹き出し、段々と身体に力が入らなくなって倒れてしまった。ベンヴォーリオが助け起こして水を飲ませようとすると、立ち上がって街の女とふざけてみせたが、傷は致命傷だった。ついにマキューシオはロミオとティボルトに向かってモンタギュー、キャピュレット両家を呪った後、倒れて絶命した。
 みんな呆然としてしまった。ロミオはマキューシオの亡骸にすがって号泣していたが、回りから仇を討てという声があがり、その声に押されるように剣を抜いてティボルトに斬りかかった。猛り狂ったロミオの剣はティボルトを追い詰め、刺し貫いた。ティボルトは痙攣しながら地面を転がり、絶命した。
 街の女たちは、ざまあみろ、というようにティボルトの亡骸に侮辱を加えた。そこへ騒ぎをききつけたキャピュレット夫人が現れた。狂ったように嘆くキャピュレット夫人は殺害者のロミオに殴りかかり、ついには剣を向けようとしてベンヴォーリオに止められた。
 ロミオはキャピュレット夫人のスカートに取りすがって許しを乞うたが、呪いの言葉を浴びせられた。ベンヴォーリオがロミオを夫人から引き離して正気を取り戻させようとしたが、いたたまれなくなったロミオはベンヴォーリオを振り払って逃げ出した。
 キャピュレット夫人は地面を転がりながら激しく慟哭し続けた。街の人々は言葉もなく散り散りになって去って行った。そこへキャピュレットが現れ、夫人は夫に怒りと悲しみをぶつけた。


第三幕・第一場 (ジュリエットの部屋)

 悲しみと混乱の中にもロミオとジュリエットの初夜は来た。ロミオはヴェローナから追放(戻って来たら死刑)となっており、今別れたら今度はいつ会えるかわからない。しかしまもなく夜は明けようとしており、ロミオは潜伏先のマンチュアへと旅立たねばならなかった。ジュリエットの寝顔を名残惜しそうに眺めていたロミオだが、別れを告げることなくそっと出て行こうとした。
 しかしジュリエットは目をさまし、行かないで、とロミオにすがりついた。ジュリエットにそう言われると、このままつかまって殺されてもいい、とまで思うロミオだったが、両親とパリス伯爵の来訪を告げる乳母の声がしたため、未練を振り切ってジュリエットの部屋を後にした。(寝室のパ・ド・ドゥ)
 そこへ乳母が入って来た。ジュリエットは別れのつらさを訴えるばかりでパリス伯爵のことなど考えようともしなかった。しかしまもなくパリス伯爵を伴って入って来たキャピュレット夫妻は、ジュリエットに今日パリス伯爵との結婚式を挙げると一方的に宣言した。
 ジュリエットは泣いて嫌がり、乳母に訴えたが、もはや乳母も味方になってはくれなかった。…ロミオ様はもうこのヴェローナでは死んだも同然なのだから、お父様の言う通りにした方がいい…というばかりだった。
 切羽詰ったジュリエットはふとんの中に隠れたが引きずり出され、無理やりにパリス伯爵に差し出された。キャピュレットはなおも嫌がって逃げるジュリエットを殴り倒し、庇おうとする乳母をも突き飛ばした。キャピュレット夫人もジュリエットに白い眼を向け、取り合おうとしなかった。
 そしてキャピュレットは、言うことを聞かないなら勘当だ、この結婚を断ることは絶対に許さない、とジュリエットを脅して、夫人やパリス伯爵、乳母を引き連れて部屋を出て行った。
 独りぼっちになり、追い詰められたジュリエットは途方にくれてしまった。何があっても神の前で夫婦の誓いをたてた愛するロミオを裏切るわけにはいかない。考え、泣き、思いつめたジュリエットはロレンス上人に相談に行くことにした。


第三幕・第二場 (ロレンス上人の庵室)


 ロレンスが祈っていると、ジュリエットが現れ、両親にパリス伯爵との結婚を強いられている、パリス伯爵と結婚するぐらいならば死んだ方がましだ、と訴えた。ロレンス上人は、危険な方法ではあるが死まで覚悟しているならば、と42時間仮死になる薬を持って来た。
 ロレンス上人の提案は、「仮死の薬を飲んで死んだと思わせて墓所に葬られ、そこへロミオが迎えに来て二人でひとまずマンチュアに逃げて身を潜める。そして折を見て二人の結婚を許してもらえるようにロレンス上人が両親にとりなす。」というものだ。
 ジュリエットは恐ろしさに身震いし、渡された薬を一旦は返したが、それ以外に良い方法があるわけではなく、この危険な方法に賭けてみることにした。
 ロレンス上人とジュリエットは神に祈りを捧げ、ついにジュリエットは震える思いで薬を受け取った。


第三幕・第三場 (ジュリエットの部屋)


 部屋へ帰ったジュリエットは、仮死の薬を枕元に隠し、一人不安と戦っていた。そこへ両親がパリス伯爵と乳母を連れて現れた。ジュリエット反抗した事を後悔している風を装って謝り、キャピュレットに言われた通り、従順にパリス伯爵に手をとられて踊った。しかし全く生気がなく、どうしても嫌だと思う気持が隠せなかった。
 しかしジュリエットはパリス伯爵に結婚の申し込みをお受けする、という返事をして皆を欺いた。キャピュレット夫妻もようやく納得し、式の準備のために部屋を出て行った。
 一人になったジュリエットは仮死の薬を取り出し、恐怖心と戦いながらようよう薬を飲み干した。違和感がジュリエットを襲い、身体が段々としびれて来て、ジュリエットはベットの上に倒れた。
 そこへ結婚式で花嫁の介添え人となる友人たちがやって来た。楽しそうに踊った後、ベッドを取り囲んでジュリエットを起こそうと手をとったが、全く動かないのでうろたえてしまった。そこへ乳母が花嫁衣裳を持ってやって来た。娘たちに言われてジュリエットの様子をみるが、やはりぴくりとも動こうとしない。やって来た両親も驚いて起こそうとしたが、全く動かないので、皆はジュリエットが死んでしまったのだと思い込んだ。
 キャピュレットはがっくりと頭を落とし、キャピュレット夫人は嘆いた。一番ジュリエットの身近にいた乳母の嘆きは両親よりも深かった。


第三幕・第四場 (キャピュレット家の墓所))


 死んだと思われたジュリエットは計画通りキャピュレット家の墓所に埋葬された。葬列は帰って行き、棺台を取り囲んでいたキャピュレット夫妻と乳母もジュリエットに別れを告げて帰って行った。パリス伯爵一人が離れがたく、ジュリエットに最後の別れを告げていた。
 そこへロミオが忍び込んで来た。ロレンス上人の計画はロミオにうまく伝わっておらず、ジュリエットが死んだと従者から知らされたロミオは絶望してしまい、せめてジュリエットの側で息絶えようと、キャピュレット家の墓所に忍び込んで来たのであった。
 ロミオを見つけたパリス伯爵は、ロミオがティボルトを殺したのみならず、遺体にも侮辱を加えに来たと思ってロミオをとらえようと短剣を向けた。ロミオも短剣を抜いて邪魔になるパリス伯爵を斬り捨て、パリス伯爵は絶命した
 ロミオは棺台からジュリエットをひきずり下ろして抱きしめた。そして初めて愛を語り合ったバルコニーでのようにジュリエットと踊ろうとしたが、ジュリエットは動かなかった。床に降ろすとただ横たわるだけで、全く生命がない。引きずり、動かぬ身体の上に突っ伏し、上に持ち上げ、あらゆる事をしてみたが、ジュリエットは全く動かなかった。(墓所のパ・ド・ドゥ)
 ジュリエットの死を確信したロミオは、ジュリエットを棺台の上に寝かせ、傍らで持って来た毒をあおった。そして断末魔の苦しみの中、ジュリエットに手を差し伸べながら倒れ、息絶えた。
 ほどなくジュリエットが42時間の仮死から目覚めた。パリス伯爵が倒れているのに気がつき、驚いて後ずさりした時、ロミオが倒れているのに気がついた。嘆きながら手をとったが、すでにロミオには命がなかった。絶望したジュリエットはパリス伯爵の側に落ちていたロミオの短剣を拾い、自らの胸に突き刺した。そしてロミオに手を差し伸べながら息絶えた。
(終わり)




<MIYU’sコラム>


<戯曲について>

 悲恋ものの代表作としてとても有名な「ロミオとジュリエット」。いかにも南ヨーロッパを思わせる激しい恋の情熱と、どこまでも皮肉な運命に彩られた、たった5日間のこのドラマは今なお人の心を惹きつけ、創作意欲をかきたてるようです。舞台での上演のみならず、幾度も映画化されています。名作ミュ−ジカル「ウエストサイド物語」もこの作品を下敷きにして生まれました。
 モンタギュー、キャピュレット両家の諍いはイタリアの歴史上でも有名なものであったようです。ロミオとジュリエットは実在の人物ではなかったようですが、いつしか人々の間で若い恋人たちの悲惨な恋の末路がまことしやかに語られるようになりました。
 いろんな人がこの仇同士の両家の恋人たちの悲恋を物語に描き、それはイングランドにも伝わって、アーザー・ブルックという人が「悲話ロミュスとジュリエット」という物語詩を書きました。直接にはその物語詩を参考にしてシェイクスピアはこの戯曲を書いたようです。(「ロミオとジュリエット」中野好夫/訳 新潮文庫の解説参照)



 二人の恋人たちの純愛が強調されることが多いこの作品ですが、この作品を引っ張るもう一つの柱は「運命」です。中野好夫氏は解説で、「ロミオとジュリエット」は「真夏の夜の夢」の裏返しの作品であると書いておられます。
 「真夏の夜の夢」の恋人たちは、妖精のいたずらで散々に引っ張り回されてアッと言う間に惚れたり気を移したりします。「真夏の夜の夢」では最後は幸せな方向へ運命が転がりますが、「ロミオとジュリエット」では正反対の不幸へと導かれていきます。
 ロミオは最初ロザラインという別の娘に恋をしていますが、全く相手にされず悶々としている時にジュリエットに出会い、恋に落ちます。そうなるとロザラインなど跡形もなくロミオの心から消えて行きます。シェイクスピアの考えでは恋は妖精の、または運命のいたずらにすぎないのだと思います。
 その運命が「ロミオとジュリエット」では徹頭徹尾、恋人たちに不利に働きます。途中までは緩やかに網を広げて彼らが引っかかるのを待っていますが、確実に捕らえたと思うや、急転直下、二人は運命の奈落へと転がり落ちて行きます。
 それは単に二人の運命というだけではないからです。二人の運命はすなわち、長く栄えそしてまた長く諍い続けて来た両家の運命でもあります。ロミオもジュリエットも共に長く栄えた両家の一粒種。家の血統も長く続くうちに劣化してくるものです。
 そして両家には子供が育たなくなり、やっと大人になりかけた二人にこのような過酷な運命が襲いかかります。その命を終えようとしている両家の落日を前にして、最後に打ち上げられた鮮やかな打ち上げ花火のようです。
 そして絶えようとする状態になって両家にはやっと和解の道が開けるのです。



 またこの物語にはカトリックの道徳で厳しく律された社会の有様が関係していると思います。本来恋愛と結婚というのは違った種類のもの。
 恋の究極の目的が「結婚」という社会的束縛であるはずはありませんが、カトリックの道徳に律されている二人の幼い恋人たちは、性愛という自然の本能と結婚という社会的束縛との違いもわからぬまま、結婚へとひた走ったのだと思います。
 そう思うと、ロミオとジュリエットの幼さは一層哀れです。
 また、この時代には親子関係もかなり厳格であったのでしょう。ロミオに出会う前のジュリエットは従順そのもので、とても親の意向を気にしています。だから親の決めた結婚を断るなど、ジュリエットに限らずどの娘もできなかったのでしょう。
 ジュリエットの父親はもともとは娘を大変愛しており、ジュリエットの気持ちを大切に思っていたようですが、ジュリエットがティボルトの死後(実はロミオの追放後)あまりに狂ったように嘆くので、むしろ娘のためを思ってパリス伯爵との結婚を決めてしまったのです。

   ※もちろん、頼りにしていたティボルトが死んだので、家の安定のためにパリスとの縁作りを急いだという面もありますが。

 それだけにジュリエットの頑な拒否に腹が立ったのでしょう。運命の歯車の狂いがいっそう残酷に感じられる場面です。

<ゼフィレッリの映画について>


<基本情報>

監督     フランコ・ゼフィレッリ
音楽     ニーノ・ロータ
配役     ジュリエット・・・ オリヴィア・ハッセー
        ロミオ・・・・・・・ レナード・ホワイティング
1968年 パラマウント映画
 
 「ロミオとジュリエット」は何度か映画化されているようですが、これはその中でも極めつけといわれる人気版です。背景や衣装が豪華で美しく、絵のようです。
 そしてニーノ・ロータのあの哀愁を帯びた甘く美しい音楽。プロコフィエフのバレエ音楽も素晴らしいのですが、こちらは中世のイタリアらしい雰囲気があり、特にキャピュレット家の舞踏会で歌われる歌は甘く切なく人の心をとらえます。
 そして主役の二人に年若い新人を起用し、若者の情熱的な恋を中心に描き、大成功を収めたのです。ジュリエットを演じたオリヴィア・ハッセーは当時15歳だったそうです。

 

 

 お話はだいたい原作と同じですが、二人の恋を美化しすぎている面がないでもありません。
 特にロミオ。霊廟の場面でのロミオによるパリス殺しの場面はありません。毒薬もいつの間にか持っていて、ロミオが嫌がる薬屋の弱みにつけこんで無理やり買う場面もありません。(毒を売った者は死刑になるのです。)原作ではロミオの所業に心を痛めて死んでしまった母親のモンタギュー夫人も映画では最後まで生きています。
 つまり都合の悪い場面は全部カットしているのです。原作をよく読むと最後の方のロミオはほぼ狂っています。自分の感情の他は何も見えず、危険な存在に成り果てていますから、美しいラヴストーリーに仕立てるためにはかなり修正が必要だったのでしょう。
 ジュリエットにしても、性的には目覚めたとはいえ、まだ未熟な少女です。そしてその未熟さから悲劇的な結末を迎えます。それをこの映画では、汚い大人たちとは違った純粋で気高い少女として描いているようにさえ見えます。
 そういった美化があるためか、両家を断絶へと導く「運命」の歯車が狂って行く様が今ひとつ鮮明ではありません。運命までが二人の激しい恋のエネルギーに終始圧倒されっぱなしで、切なさをかきたてる脇役になっています。
 これは若者の激しい恋愛に対する賛歌、そしてレクィエムなのですね。それを若くてヴィジュアル系の二人に演じさせたのですから、当時若者たちに圧倒的に支持されたのも納得です。
 何はともあれ、映像と音楽の美しさは圧倒的です。もうかなり昔の作品なのですが、今なおその輝きは色あせていないと思います。

<バレエについて>

 <ソヴィエト連邦における初演>
     音楽   セルゲイ・プロコフィエフ
     振付   レオニードラプロフスキー
     配役   ジュリエット・・・・・ガリーナ・ウラノワ
           
     初演    1940年 1月11日 キーロフバレエ団
     
 このバレエは当初、現在のワガノワ・バレエ学校の200年祭で上演の予定でしたが、プロコフィエフの音楽が酷評され、話は撤回となってしまったようです。
 そして本当の初演は1938年12月30日にチェコスロヴァキアの国立ブルノ劇場でプソタという人の振付で行われたそうです。それが好評だった事からキーロフが態度を変え、1940年のソヴェエト初演へと結びついた、という経緯らしいです。
 東京バレエ団を率いる佐々木忠次氏は、東京バレエ団10周年記念にウラノワにロミオとジュリエットの指導を頼んだそうです。するとウラノワは「私の知っている版は芝居の部分が多く古臭いから、私の指導なんかない方がいい。」と指導を断ったそうです。
 私もウラノワとセイゲイエフが主演した古い映画を見た事があります。物語の展開を丁寧に追っているのですが、確かにちょっと古めかしい芝居の部分が多かったような気もします。それでも踊りの部分はさすがに迫力があり、原作の雰囲気がよく伝わって来る見ごたえのある映画でした。



 ここでご紹介したマクミラン版は最も人気のある版のうちの一つです。シェイクスピア生誕400周年記念が1964年に祝われ、それを記念して英国ロイヤル・バレエがシェイクスピア原作のバレエ「ロミオとジュリエット」を1965年に新制作しました。
 「ロミオとジュリエット」はマクミランの初めての三幕ものだそうです。一幕四場のバルコニーのパ・ド・ドゥ、三幕一場の寝室のパ・ド・ドゥ、三幕四場の墓所のパ・ド・ドゥの三つのパ・ド・ドゥを中心として作品は作られました。
 一番有名なのはバルコニーのパ・ド・ドゥですが、これは全幕化の話が出る前の1964年春夏頃に作られました。クランコ振付の「ロミオとジュリエット」を見たマクミランはかねてから「ロミオとジュリエット」を作りたいと思っていたようですが、彼のミューズであるリン・シーモアがクリストファー・ゲーブルとカナダのTVで演じるために、バルコニーのパ・ド・ドゥの部分を作ったのです。
 マクミランは新作発表まで五ヵ月という限られた期間での中で、リン・シーモアやクリストファー・ゲーブルとディスカッションを繰り返し、キャラクターを固めながら振付をして作品を作り上げていきました。
 しかし初演のファースト・キャストは、スーパースターのマーゴ・フォンテーンとルドルフ・ヌレエフでした。(シーモアとゲーブルはセカンド・キャストとして踊ったそうです。)話題性やチケットの売れ行きを考慮してのキャスティングでした。。
 そういった事情はマクミランにとっては不愉快だったでしょうが、結果としてフォンテーンとヌレエフのロミオとジュリエットは観客を陶酔させ、カーテンコールが43回も続いたそうです。 

 お話はだいたい原作と同じなので、原作を知っていれば何が何だかわからないという事はないのですが、マクミランが描こうとしているものはやはり原作とは少し違うようです。
 家父長が強大な権限を持つ厳格な社会で、敵同士の家柄に生まれた少年少女が恋に落ちて一途に突っ走り、運命に飲み込まれて無残な死を遂げるまでの物語を、ロミオとジュリエットの心に寄り添いながら、あふれんばかりの歓喜と心が張り裂けるような絶望を中心に描いているように思うのです。
 ですからジュリエットがロミオを追って自害するところで幕がおります。最後に両家が和解する場面はありません。観客である我々もロミオとジュリエットに感情移入し、彼らになりきってこのバレエを観るといいのかもしれません。 
 そのロミオとジュリエットのキャラクターですが、これもやっぱり原作とは少し違っています。原作のロミオはキャピュレットも「立派な紳士、身持ちも正しいよくできた青年」(「ロミオとジュリエット」中野好夫/訳 新潮文庫)と言って舞踏会からたたき出そうとするティボルトを止めていますし、ロミオは冒頭の乱闘には加わっていません。
 しかしマクミランのバレエでは朝からロザラインを追い回してふられた上に、馴染みの街の女の誘惑にホイホイのって浮かれ騒ぎ、堅気の女性たちのひんしゅくを買っています。そして一幕一場からしっかり乱闘にも加わっています。

 原作では身持ちのよい立派な青年が、運命の恋に操られて最後は落ちぶれ果て、危険な狂人のごとくなる様を痛ましく描き、運命の歯車の狂いの非情さが浮かび上がります。
 マクミラン版の場合、英国ロイヤルバレエのHPに'impulsive and immature'(衝動的で未熟)と書かれ、クリストファー・ゲーブルが'a young man swept off his feet by love'(恋で足が地につかない青年…)と想定していたと言います。
 マクミランはロミオに若さと抑えきれない性のエネルギーを象徴させたかったのでしょう。そしてその若さと性のエネルギーが家父長制に抑圧されて、最も遠い所にあると思われた「死」へと簡単に直結してしまう悲劇を描こうとしたように思われます。
 さて、ジュリエットですが、英国ロイヤルのHPではジュリエットを'very young'(若すぎる…つまり、まだ幼い?)としており、リン・シーモアはジュリエットを'headstrong, passionate girl'(わがまま、強情で情熱的な女の子…でしょうか)と想定しました。
 もっともマクミラン版では両親もあまりジュリエットに対して愛情深いようには描かれておらず、父親は居丈高に命令し、逆らえば暴力をふるいます。母親も冷たく、ジュリエットの死よりもティボルトの死の方がショックだったようです。親子関係というのは愛情で結ばれた人間関係ではなく、最末端の社会的集団、財産の承継関係にすぎない、ととらえているようにも思われます。
※ キャピュレット夫人はティボルトの死に際しては気が狂ったように激しく慟哭します。そこから、夫人とティボルトは愛人関係に あったのでは、という説も登場しています。ジュリエット同様、意に沿わない結婚を強いられた夫人が愛人を作ったというのですね。また、そういう説をとらなくても、ジュリエットは所詮、嫁に行く身であり、キャピュレット家を継ぐのはティボルトであったため、夫妻にとってはティボルトの方が重要であった、とも考えられます。いずれの考え方をとるにしても、大事なのは社会の枠組みであって、家族間の愛情には乏しかったようですね。
 この版ではそういう親子関係の中で、他人である乳母に甘えながらも、ジュリエットは実は幼い頃からどこかしら両親とは距離をおいて自立していたのかもしれません。

 マクミランはバレエをつくる時に、まず群集のシーンを作り、背景となる風俗を描いてから主役に焦点を絞って物語りを進めるという手法をとっているようです。そしてマクミランがなぜか大好きなのが娼婦です。
 このバレエでも原作では出て来ない彼女らが登場して大いに雰囲気を盛り上げます。kennethmacmilan.comでは'harlot'(古語:売春婦)という表現になっていますが、ミラノ・スカラ座のDVDでは「ジプシー女」となっていました。男性たちがさかんにスカートめくりをしたりしていますから、いずれにしろ堅気ではない女性たちのようです。
 権威や抑圧を忌み嫌っているように思われるマクミランは、最下層にいるそういった女性たちを生き生きと描くことで社会的権力に対するアンチテーゼを掲げ、それら権力に抑圧されてしまう若さや性のエネルギーを肯定的に描きたかったのかもしれません。
 ニコラス・ジョージアディスによる重厚な舞台装置も、家父長制が幅をきかせる厳格な社会の抑圧を表現したものだといいます。キャピュレット家の舞踏会に忍び込もうとするロミオが一瞬ためらった後に門の中へ入っていきますが、あの時の門は何だか生き物のようで、ロミオが運命に飲み込まれていく感じがよく出ていると思います。
 また回りから見放されて追い詰められたジュリエットが死を覚悟してロレンス上人に相談に行く場面では、長いストールがひらひらするのですが、いかにも運命に弄ばれている無力な感じが小道具を使ってうまく表現されていると思います。






<参考文献>


ロミオとジュリエット   ウィリアム・シェイクスピア/著 
     中野好夫/訳  新潮文庫
映画ロミオとジュリエット (DVD)
     監督   フランコ・ゼフィレッリ
     制作   アンソニー・ハヴェロック・アラン
     音楽   ニーノ・ロータ
     配役   ジュリエット・・・ オリヴィア・ハッセー
           ロミオ・・・・・・・ レナード・ホワイティング
DVDロミオとジュリエット (バレエ)
     ミラノ・スカラ座公演 
     2000年1月 於 ミラノ・スカラ座
     振付   ケネス・マクミラン
     音楽   セルゲイ・プロコフィエフ
     配役   ジュリエット・・・ アレッサンドラ・フェリ
           ロミオ・・・・・・・ アンヘル・コレーラ
     発売元  TDkコア株式会社
闘うバレエ    佐々木忠次/著   新書館
NHK スーパーバレエレッスンのテキスト
     〜ロイヤルバレエの精華 吉田都
       日本放送出版協会
ウィキペディア「ロミオとジュリエット(プロコフィエフ)」の項目
Kenneth MacMillan Choreographer (HP)
Royal Opera House (HP)


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